第十二話「見ていなかった数字」
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依頼の合間、ノエルが何気なく尋ねてきた。
「そういえば、あんた、ステータスってちゃんと確認してる?」
「継承のスロットなら、毎日見てるけど」
「継承じゃなくて。レベルとか、HPとか、その辺」
蓮は、言われてみて初めて、自分のステータス画面を、まともに開いていなかったことに気づいた。
継承の表示にばかり注意を向けていて、その下にある基本情報は、ほとんど確認した記憶がない。
「……開いてみる」
画面を呼び出すと、思っていたより数字が動いていた。
レベルは、転移した直後よりも、いくつか上がっている。
HPや筋力の欄にも、見覚えのない数値が並んでいた。
「これ、いつの間に」
「依頼で魔物を倒した分、ちゃんと経験値は入ってるってこと。継承だけが、あんたの力ってわけじゃないから」
「土弾を撃ってた分も、入ってるってことか」
「当然でしょ。倒した数だけ、ちゃんと積み重なってる」
ノエルの言葉に、蓮は妙に納得した。
自分では、ずっと足踏みしているような気がしていたが、数字の方は、地味に前へ進んでいたらしい。
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その日の依頼は、町から少し離れた廃坑の探索だった。
「中型の魔物が、何体か巣くってるらしいわ。今までより、ちょっと骨が折れるかも」
廃坑の入り口は、かつて鉱石を運び出していたのか、崩れかけた木の支柱が、あちこちに残っていた。
中は、これまで潜った場所よりも入り組んでいて、足場も悪かった。
「足元、気をつけてね。落盤の跡もあるみたいだから」
ノエルの声が、坑道の中で、少しくぐもって響いた。
奥に進むと、案の定、これまでより手応えのある魔物が次々と現れた。
危険察知が、攻撃の予兆をいくつも捉え、すんでのところで直撃を避ける。
蓮は、隙を見て土弾を撃ち込み、ノエルが本体を斬り込んでいく。
スミも、側面から飛びかかり、魔物の足を止める役回りをこなしていた。
三人それぞれの動きが、いつの間にか、噛み合うようになっている。
「もっと、こっちに引き寄せて!」
ノエルの指示に合わせて、蓮も少しずつ立ち位置を調整するようになっていた。
最初の頃のように、ただ突っ立っているだけではなくなっている。
何度かの戦闘を繰り返し、奥にいた魔物の群れを、ある程度片付けたところで、一度足を止めることになった。
肩で息をしながら、蓮はふと、依頼の前にノエルに言われたことを思い出した。
「……ちょっと、確認してみる」
画面を呼び出すと、さっき見た時より、レベルの数字がさらに一つ上がっていた。
通知も、合図も、何もなかった。
意識して確認しなければ、今日もそのまま見過ごしていたはずだった。
「上がってた」
「だろうね。これだけ動けば、それなりに入るでしょ」
ノエルは、当然のことのように言った。
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HPと筋力の数値も、それぞれ上がっている。
試しに、まだ近くに残っていた一匹に向けて土弾を撃ってみると、これまでよりも明らかに力強く、土の塊が飛んでいった。
「……今のは、感覚が違う気がする」
「気がするんじゃなくて、実際に強くなってるんだよ」
ノエルは、呆れたように、それだけ言った。
蓮にとっては、継承で得る力が、これまでの成長のすべてだと思っていた。
理解できた分だけ強くなる。それが自分のやり方だと、いつの間にか思い込んでいた。
だが、足元では、もっと単純な積み重ねも、確かに進んでいたらしい。
「継承の方は、誰かを理解しないと進まないけど。レベルの方は、ただ依頼を重ねるだけで、ちゃんと前に進んでたんだな」
「そういうこと。両方やってる奴なんて、あんたくらいかもしれないけど」
「他の奴は、レベルだけでいいのか」
「普通はね。継承みたいな、訳の分からない縛りなんてないから」
ノエルは、そう言いながらも、どこか羨ましそうな響きを隠せていなかった。
スミが、二人の少し先を歩きながら、何でもないという顔をしていた。
廃坑を抜けて依頼を完了した頃には、蓮の中で、自分の成長に対する見方が、少しだけ変わっていた。
理解で得る力と、積み重ねで得る力。
どちらも、自分の中に、確かに積もり始めている。
今まで見ていなかった数字が、これからの戦い方を、また少し変えてくれるかもしれなかった。
(第十二話 完)
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