第十一話「盗みの理由」
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ギルドで受けた依頼は、倉庫街で続いている食料の盗難についての調査だった。
「夜中に、何度も食料が持ち出されてるんです。魔物の仕業にしては、手口が妙に丁寧で」
依頼主の倉庫番は、困り顔でそう説明した。
「見張りを増やしても、すり抜けられてるみたいで。捕まえてもらえれば、それで十分です」
ノエルが、倉庫の周りをぐるりと見渡す。
「魔物じゃないなら、人ね。鍵も壊されてないし」
「俺たちで、見張ってみるか」
「そういう依頼だしね」
最近は、こうした地味な調査依頼も、ぼちぼち回ってくるようになっていた。
戦闘よりも、観察と忍耐が要る仕事の方が、蓮には性に合っているのかもしれなかった。
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その夜、倉庫の陰に身を潜めていると、小さな人影が、塀の隙間から滑り込んでくるのが見えた。
体の小さな、まだ十代と思われる少年だった。
物音を立てないよう、慣れた様子で倉庫の隅に近づいていく。
何度も同じ手口を繰り返してきたのか、迷いのない動きだった。
「止まれ」
ノエルが声をかけると、少年は弾かれたように身を翻し、全力で逃げ出した。
スミがすぐに追いかけ、回り込むように進路を塞ぐ。
少年は、行き場を失い、その場に座り込んでしまった。
肩が小さく震えているのが、月明かりの下でもよく分かった。
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「……ごめんなさい。もう、しません」
少年は、震える声でそう繰り返した。
ノエルが厳しい顔で近づこうとするのを、蓮は手で制した。
少年の服は、何度も繕った跡があり、体つきは年齢に見合わないほど痩せている。
それに、持ち出そうとしていたのは、高く売れる品ではなく、日持ちのする芋や乾物ばかりだった。
蓮は、その場に腰を落とし、少年と同じ高さで話を聞くことにした。
「金になるものは、何も盗んでないんだな」
「……お金になるものなんて、要らないんです。食べる物が、欲しかっただけで」
「家族がいるのか」
少年は、しばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「母さんが、熱を出してて。薬代も、薪代も、もう……」
声が、そこで詰まった。
「父さんは、もう……いなくて。母さんが働けなくなったら、誰も食べさせる人がいないから」
「他に、頼れる相手はいないのか」
「近所には、もう何度も借りてます。これ以上は、言えなくて」
少年は、膝を抱えるように体を縮めながら、ぽつりぽつりと話を続けた。
仕事も奪われ、頼れる相手もなく、最後に残った手段が、これだったという。
「盗みは、許されることじゃない」
「……分かってます」
「だが、お前が悪いだけの話でもなさそうだ」
蓮は、ギルドに、雑用専門の臨時依頼があることを伝えた。
力仕事でなくても、簡単な伝言や荷物運びなど、子供でも受けられる依頼が、時々出ているという。
「盗むより、よっぽど割が悪いかもしれないが」
「……それでも、いいです。ちゃんとした形で、お金が欲しい」
少年の声には、わずかながら、力が戻っていた。
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倉庫番には、事情を話し、少年に当面の雑用を紹介することで、何とか納得してもらえた。
「まあ……盗まれたのも、大した量じゃなかったですし」
倉庫番は、それ以上は咎める様子もなく、苦笑いを浮かべていた。
少年は、深く頭を下げてから、足早にその場を去っていった。
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帰り道、ノエルがぽつりと言った。
「あんた、魔物にも、人間にも、同じことしてるわね」
「同じこと?」
「なぜそうなったか、ちゃんと聞いてから動くところ」
「……そうかもしれない」
「効率は悪いと思うけどね」
「分かってる」
ノエルは、それ以上は何も言わず、小さく息を吐いた。
スミが、何でもないという顔で、二人の後ろをついてくる。
戦って終わらせることもできた場面で、聞くことを選んだ。
それが正しかったのかどうかは、まだ誰にも分からない。
それでも、蓮にとっては、ブレない選び方だった。
(第十一話 完)
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