第五話【饅頭】
「お嬢、何作ってんですかい?」
小麦粉の白に染まった厨房。
従者が目を丸くして問いかけると、荒瀧はすみは小さな手で丁寧に生地を丸めながら答えた。
「...チョコ...おまんじゅう」
だが、その数は尋常ではない。
調理台の上に並んだ蒸し器、予備のバット、皿。ざっと見積もっても五十人分は超えている。ひとりの夜食としてはあまりに度を越した量だった。
「一人分にしては、作りすぎてやしやせんか?」
「うん...みんなに...あげるの」
「みんなに……ですかい……?」
はすみは無表情ながらも、どこか慈しむように次の生地を手に取った。
荒瀧組の構成員は総勢70名。彼女はその一人ひとりの顔を思い浮かべるように、熱心に作業を続けている。
「いつも...がんばってる...から」
ぽつりと漏らされたその一言に、従者の男の目元がじわりと潤む。
今、荒瀧組は激しい抗争の最中にある。
連日連夜、銃声と怒号が飛び交う殺伐とした日々。
そんな大人の世界の泥仕合に、こんなにも純粋な主を巻き込んでいる。
その申し訳なさと、彼女の不器用な優しさが胸に刺さった。
(お嬢……あんたって人は……)
男は鼻をすすると、決意を新たにするように拳を握り込んだ。
一刻も早くこの不毛な争いを終わらせなければならない。
血生臭い空気から彼女を遠ざけ、ただ笑っていられる平穏な日常を送れるような、そんな日常を一日でも早く取り戻してあげたい。
「...わさび...わさび...」
男の熱い視線もどこ吹く風で、はすみはただ「みんなの分」を埋めるべく、一心不乱に白い塊を丸め続けてる。




