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第四話【羊】
「メ~!メ~!」
静まり返った屋敷の縁側。
そこには、極道一家の令嬢という立場をかなぐり捨て、四つん這いになってのそのそと這い進む荒瀧はすみの姿があった。
「お嬢……? 一体、何されてるんですかい?」
通りかかった従者が、あまりにシュールな光景に足を止めて問いかける。
はすみは動きを止めず、首だけをゆっくりとこちらに向けた。
「...羊さん...ごっこ..」
「ひ、ひつじ……ですかい……?」
予想の斜め上を行く回答に、従者が困惑の声を漏らす。
しかし、はすみは自分の世界に没頭したまま、再び前を向くと、全力のなりきりを見せ始める。
「メ~~! メ~~! ...ムシャムシャ...」
「あ! ちょ! お嬢! それトイレットペーパーでやっせ!!」
はすみが手に持っていたロール状の紙を口に運んだ瞬間、従者の絶叫が響き渡った。
慌てて駆け寄り、その口から紙を奪い取ろうとするが、彼女は頬を膨らませて必死に抵抗する。
「...羊は..紙を..食べる..」
「羊は紙は食べやせん! それ食べるのはヤギでっせ!」
必死のツッコミもどこ吹く風。
はすみは「羊(自称)」としての矜持を守るべく、トイレットペーパーを離そうとしない。
血生臭い裏社会の抗争が続く中、この屋敷の縁側だけは、紙を巡るお嬢様と従者の不毛な争いが繰り広げられていた。




