第三話【鬼ごっこ】
「お嬢!それは遊びの道具じゃないんです!危ないですって!」
「はっはっはー!はすみの嬢ちゃんはえ〜w」
騒がしく声を上げながら、二人の男が廊下を駆けていく。一人は生真面目な従者、もう一人は軽薄な調子で笑う組員。
彼らの視線の先では、はすみが「それ」を抱えてトタトタと小気味よい足取りで逃げていた。
「..クロック...アップ...♪..」
口でそう言いながら、はすみは止まらない。
意外なほどの足の速さに、男たちは必死に食らいつく。
「お嬢〜!足速いって!」
「へっへっー!追いついたぜ~!」
二人がかりでようやく回り込み、逃げ道を塞ぐ。
はすみはピタリと足を止めると、抱えていたものを名残惜しそうに見つめてポツリと漏らした。
「...撃ちたい」
「ダメですよ~!」
「はすみの嬢ちゃん〜、それ返してくれたらチョコあげるぜ〜?」
小宮が子供をあやすように提案すると、はすみは一瞬だけ考え、素直に両手を差し出した。
「...はい」
「いい子だぁ〜!そんないい子にはチョコ箱あげちゃおっかな~!」
「あり...がとう」
差し出された菓子を受け取り、はすみは満足げに瞳を細める。
その無垢な仕草、どこか抜けたやり取り。だが、ふとした瞬間に見せる整った横顔や、吸い込まれそうな瞳の透明感に、組員は思わず言葉を失った。
(……可愛い。いや、美人。いやビューティー美少女……)
血生臭い組の空気も忘れ、組員は毒気を抜かれたように、チョコが入った箱を大切そうに抱える彼女を見つめていた。




