第十三話【紙官】
キッチンの静寂を、くぐもった奇妙な残響が震わせていた。
「う゛〜..」
はすみが調理台に転がっていたラップの紙管を拾い上げ、口元に当てて声を漏らしている。
「う゛〜....ウ゛〜!..」
筒の中で増幅された声は、不規則な唸りとなって彼女の喉を震わせる。
そこへ、行方を追っていた司が、重厚な足音を響かせながら姿を現した。
「お嬢、それは……?」
「なんか..置いてあった..音の出るやつ..」
はすみは無機質な表情のまま、司を見上げた。
その瞳には、ささやかな発見を誇るような、微かな熱が宿っている。
「ウ゛〜!..ウ゛〜!..楽しい...」
自分の声が変質して響くのがよほど気に入ったのか、彼女はさらに喉を鳴らした。
そして、ふと思いついたように、その魔法の筒を司の方へと差し出す。
「やってみて?...」
無邪気な共有の誘い。だが、司の表情は動かない。彼は一歩踏み込み、静かに、しかし断固としたトーンで本題を切り出した。
「……お嬢、そんなことより、お伝えしないといけないことがありやす」
「..そんな..こと....」
はすみの動きが、ぴたりと止まった。
彼女は薄っすらと、けれど隠しきれない寂しさを瞳に滲ませると、大切に握っていた紙管を、未練を断ち切るようにそっと調理台へと戻した。
その小さな背中には、束の間の遊びを奪われた喪失感と、逃れられない「日常」への静かな諦めが、白く溶け込んでいた。




