表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/22

8【紙鉄砲】



今日から、俺ははすみちゃんの護衛という、願ってもない最高の大役を任されることになった。


荒草組の前線として使い捨てられる運命から脱出し、可愛いはすみちゃんの側にいられる。これ以上の生存戦略はない。



だが、初日から雲行きが怪しい。俺たちは今、閑静な住宅街を歩いているのだが、先を行く彼女の目的地がさっぱり見えてこないのだ。


「……はすみちゃん。一体どこに向かってるの?」


背後から尋ねると、彼女は前方を見据えたまま、事も無げに答えた。


「..秋山組」

「……え!?!?!?」


耳を疑った。心臓が跳ね上がり、思わず足が止まる。


「ダメでしょ!秋山組とは抗争中だし! 絶対攫われるって!」


必死に引き止めようとする俺を、彼女はどこ吹く風といった様子で言葉を返す。


「そのために..河合が..いる...」

「それはそうだけど……! ていうか、そのデカい新聞紙は何?」


「それは..ついてからの..お楽しみ..」


はすみちゃんが、不敵な、あるいは悪戯っぽい微笑をわずかに零す。




そうして辿り着いたのは、威容を誇る秋山組の屋敷だった。



「うーわ……」


見上げるような門構えに、延々と続く重厚な塀。

目の当たりにしたその規模は凄まじく、荒瀧組の事務所が四つは飲み込まれそうな広さだ。

さすがは巨大組織にして、メインヒロイン・秋山恵を擁する家系。


殺伐とした抗争の気配が漂う大邸宅を前に、俺の手のひらは冷や汗で濡れていた。


だが、おかしい。

これほどの屋敷で、しかも抗争中だというのに、門の周辺に見張り一人立っていないのだ。不気味なほどの静寂が、住宅街の中にぽっかりと穴を開けたように広がっている。



すると、はすみは抱えていた新聞紙を無造作に構えたかと思うと、それを天高くへと掲げた。


そして、まるで居合の達人が一刀を振り下ろすかのような、目にも留まらぬ速度で腕を叩きつける。




パァァァァァァァァン!!!!





鼓膜を突き破らんばかりの、馬鹿げたほどに巨大な爆音が住宅街の静寂を粉砕した。

大砲でもぶっ放したのかと錯覚するほどの衝撃波が、俺の全身を揺さぶる。



「うげっ!?」



あまりの音のデカさに、俺は情けない声を上げてその場に飛び上がった。


仕掛けは単純だ。新聞紙を上手く折り畳んで作った「紙鉄砲」。

だが、彼女が放ったそれは、大きさも相まってもはや玩具の域を完全に逸脱した「兵器」に近い代物だ。



静まり返っていた秋山組の屋敷が、その一撃を合図に一気に沸き立つ。



「なんだ今の音は!?」

「敵襲か!? 門へ急げ!」



奥から聞こえる怒号と、石畳を叩く無数の足音。

不気味な静寂は消え失せ、殺気立った男たちが怒涛の勢いで門へと押し寄せてくる。

戦場から離れたつもりが、俺は今、お嬢が自ら引き起こした「宣戦布告」の最前線に放り出されていた。


「は、はすみちゃん! 逃げないと……!」


俺は本来彼女がいたはずの場所へと視線を飛ばす。

しかし、そこに彼女の姿はなく、ただ静まり返った空気だけが取り残されていた。


「や、やっべぇ!!」


心臓の鼓動が耳元でうるさく跳ねる。午前十時。白日の下、逃げ場のない路上で護衛対象を見失った事実に、背中を冷たい汗が伝った。


その刹那、重厚な門が勢いよく開き、俺の姿が白日の下に晒される。


「いたぞ! こいつだ!!」


怒号が午前中の穏やかな街並みを切り裂いた。門の向こうから飛び出してきたのは、殺気を剥き出しにした秋山組の面々だ。


「絶対に逃がすな!!!」


男たちの鋭い眼光が一斉に俺を射抜く。

はすみはどこへ消えたのか。最悪のタイミングで孤立した俺を、秋山組の包囲網が無慈悲に狭めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ