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第一話【亀】



「お嬢、なにしてんですかい?」


静まり返った屋敷の縁側で従者が呆れ混じりの声を漏らした。


そこにいたのは、極道一家の令嬢という肩書きを感じさせないほど無防備に床へ座り込み、一点を見つめる荒瀧はすみの姿がある。


彼女の手元では、生きた亀たちが信じられないバランスで積み上げられている。


「...重ねてる」


はすみは表情一つ変えず、しかし指先には職人のような繊細さを込めて、亀の甲羅を合わせた。


下向き、上向き、また下向き。手足をバタつかせる亀たちを、絶妙な均衡で塔のように積み上げていく。


「...それ、楽しいんですかい?」


あまりにシュールな光景に、従者が尋ねた。二人の間には、長年連れ添った者同士の気置けない空気が流れている。


はすみは作業を止めず、ぼそりと本音をこぼした。


「...たの...しくない..」

「じゃあなんでやってんでさ」

「きろくを...伸ばしてる」

「記録ですかい...?」


従者がやれやれと肩をすくめる中、はすみはさらに神経を研ぎ澄ませる。


「私は..本気で..集中..してる。はなし..かけないで」

「は、はぁ。そりゃ失礼しやした」


彼女の静かな、だが必死な拒絶に、従者はそれ以上突っ込むのをやめて、隣でその作業をのんびりと見守ることにした。


周囲の騒がしい事情などどこ吹く風で、彼女はただ、五段目の亀のバランスを保つことだけに全精力を注いでいる。

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