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プロローグ




「お、お嬢!何やってんでさぁ!!」


静まり返った厨房に、場違いな怒号が響き渡った。

慌てて駆け込んできた従者の視線の先。そこには、踏み台に乗ってコンロの前に立ち、真剣な眼差しで鍋を見つめる幼き主の姿があった。


「...揚げてる」


お嬢様は表情ひとつ変えず、淡々と、しかし確かな手つきで菜箸を動かす。


パチパチと軽快な音を立てる油の中では、何やら「黒くて丸い何か」がカラリと揚がっていた。


「それは見りゃ分かりやす!ですが!それは揚げるもんじゃねえ、この世の食卓に並んじゃいけねえ代物でさぁ!」


「...食べる?」


主はひょいと、揚げたての「それ」を菜箸で差し出した。湯気の向こうで、黄金色の衣を纏ったナニカが艶やかに光っている。


「食べやせん!いいから今すぐ捨てておくんなさい、お嬢!」


悲鳴に近い懇願にも、少女はどこ吹く風だ。

大事そうに鍋を抱え込み、頬をわずかに膨らませる。


「だめ...。これは....私の..もの」


「やめてくださいお嬢!いいですか!ゴキブリは食べ物じゃねえんでさ!!」


必死の説得に、お嬢様はようやく心外そうに眉を寄せ、ポツリと反論した。


「..これは...ゴキブリ...じゃない。さっき庭で..取ってきた...アブラムシ」


「どっちにしたって食えやせん!お願いですから捨ててくださいな!!」


差し出された箸を全力で回避しながら、従者の絶叫が再び深夜の屋敷にこだました。

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