第十話【点と点と天】
「.....」
はすみは手元にあった二本の木刀を、先端を真下にした状態で事も無げに床へ垂直に立てた。
接着剤でも使っているのかと疑いたくなるような精度で、木刀は逆さまに一本足で自立している。
その異様な光景のまま、彼女は床に深々と刺さっていたナイフをひょいと拾い上げた。
「…あの~? はすみちゃん?」
「はすみ? なにしてる?」
俺とメアリーの困惑をよそに、彼女は淡々と告げる。
「...ゲームを..しよう..」
「げ、ゲーム!?」
「ゲーム……」
さっき暗殺されかかったばかりだというのに、この子の精神構造はどうなっているんだ。
「二人とも...木刀の...後ろ..に..行って..」
指示されるまま、俺たちは配置につく。
(すげえなこれ。はすみちゃん当然のように立たせてたけど…どんなバランス感覚だよ……)
俺が内心で戦慄していると、はすみがさらに微調整を求めてきた。
「...二人共..もう少し..後ろ」
「ここ?」
「...そう」
位置が決まった瞬間、はすみが手元にあったナイフをまるで紙屑でも放るような軽やかさで、逆さまに立つ木刀の一本へと投げた。
ナイフは切っ先を真下に向けた状態で垂直に落下し、あろうことか木刀の柄の先端に、一点の狂いもなくピタリと静止した。
「!?」
「!?(いや、すご!!なんだそれ!?物理法則完全に無視してねえか!?)」
俺とメアリーはその現実離れした芸当に驚きの表情を隠せなかった。
だが、はすみにとってこれはまだ、遊びの「準備」に過ぎなかったらしい。
「次..メアリーの..ばん」
「……え?」
はすみはいつの間にか取り出していた予備のナイフを、メアリーの手に握らせる。
「はすみ…これは?…」
「投げて..重ねて..崩れたら..負け..ゲーム..」
(いや、絶対に勝てないやーつ!!)
逆さまの木刀、その細い柄の上にナイフを、さらにその切っ先の上に別のナイフを垂直に積み重ねていく。
暗殺未遂に使われた凶器を「積みゲー」の道具に転じるという、あまりにもシュールな遊びが幕を開けた。




