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4【サブヒロイン登場】



ピンポーン、と荒瀧組事務所のインターホンが静かな空気を破った。


「俺が行きます」

「お〜う、頼むわ」


小宮の兄貴の横でノートパソコンを叩いていた俺は、玄関へと向かう。

玄関扉を開けると、そこには配送業者の男が立っていた。


「はすみさん宛に宅配でーす。こちらにサインお願いしまーす」

「はすみちゃん宛?」


少し意外に思いながらも受領印を押し、俺は小ぶりな段ボール箱を抱えて事務所の奥へと戻った。


「なんだったー?」

「宅配ですよ。はすみちゃん宛の荷物です」


ソファでくつろいでいた小宮の兄貴が、身を乗り出して箱を凝視する。


「なにぃ? 開けてみろ」

「え、勝手に開けて大丈夫なんすか?」

「おいおい、お前は着火寸前の爆弾をそのままはすみの嬢ちゃんに渡すのか〜?」

「い、いや……」


……その例え、物騒すぎてツッコミどころしかねーよ。

爆弾なんてまず届かねーだろ…いやこの世界ならありえるのか?。


「小宮の兄貴。そもそも、爆弾自体渡すことは稀です」


事務作業をしていた清水の兄貴からの冷静なツッコミが飛ぶ。そんなやり取りを横目に、俺は慎重にガムテープを剥がして箱を開けた。


「……ぬいぐるみ?」

「どこからだ?このぬいぐるみ」


箱の中から現れたのは、可愛らしい一体のぬいぐるみだった。送り主の伝票を確認すると、そこには見覚えのある名前が。


「長谷川組……か」


長谷川組。

確か、サブヒロインである長谷川ひまりの実家の組だ。ゲームの知識によれば、荒瀧組と長谷川組は古くからの付き合いがあり、関係は良好だったはず。


だが、シナリオ上では陽太たちが学園に入る前のこの時期、はすみとひまりにはまだ深い面識はない。

なぜ、このタイミングで個人的な贈り物が届いたのか。


俺はぬいぐるみを抱えながら、ゲームの既定路線とは少しずつズレ始めている「今」という時間に、微かな違和感を覚えた。



「おい河合、そのぬいぐるみ箱にしまえ。そんで、はすみの嬢ちゃんのとこに届けてこい」


小宮の兄貴が、顎で箱をしゃくりながら短く命じた。


「え? いいんですか?」


「鮫島組や荒草組だったら即捨ててんだがな。長谷川組なら…まぁ〜大丈夫だろ〜」


兄貴が事も無げに言う。どうやら送り主の家紋一つで、荷物がゴミ箱行きになるかどうかが決まるらしい。

俺はぬいぐるみを丁寧に箱へ戻すと、ふと居場所を尋ねた。


「ちなみにはすみちゃんはどこにいるんですか?」

「ついさっき司の兄貴がお嬢の友達連れて道場に行ってたから、道場にいると思うぞ〜」


清水の兄貴がパソコンを叩きながら教えてくれた。場所は把握した。


「わかりました、では渡してきますね」


俺が箱を抱えて背を向けた、その時だ。


背後で小宮の兄貴が、引っかかりを覚えたような声を上げた。


「おい、つか、お前。……はすみの嬢ちゃんのことはすみちゃんって、今……」


(……あ、やべ)


昨日、本人からそう呼んでほしいと言われたばかりなのだが、それを今ここで説明するのは色んな意味で面倒くさい。


俺は兄貴の追求を遮るように、足早に事務所のドアを閉めた。


「……よし」


背後で何か叫んでいる気配を背中で受け流しながら、俺は木の香りが漂う道場の方へと歩き出した。




−−−−−−−−−−




「はすみちゃん、入るよ〜」


そう声をかけながら、俺は道場の重厚な引き戸をゆっくりと開け放った。


木の香りが漂う静謐な空間の中、まず目に飛び込んできたのは、床にぺたりと腰を下ろして無心にどら焼きを頬張っているはすみちゃんの姿だ。

平和な光景に安堵したのも束の間、俺の足は次の瞬間に凍りつく。


視線を少しずらした先に、本来そこにいるはずのない「意外な人物」がいたからだ。



「……メアリー…」


思わず独り言が漏れる。

陽光を弾く鮮やかな金髪、その可憐な容姿に見合わぬ氷のような威圧感。俺を射抜くような鋭い眼光を向けてくるその少女は『極アル』の中盤に登場するサブヒロイン――メアリーだった。


「…だれ?」


低く、突き放すような問いかけ。


(……メアリー。なぜこんなところに?)


彼女は荒草組専属の暗殺組織で英才教育を受けた、殺し屋の中の超エリート。

本来なら『極アル』のシナリオが進むにつれて荒草陽太と深く関わっていくはずのキャラ。


とにかく謎が多いことでも有名のヒロインでもある。


キャラクター資料の中に妹がいると書いてあったが、メアリールートに入って見てみても、作中で一度も姿を現さなかった「妹」の存在。


そして、ある男を捜していると口にしながら、結局最後までその正体が明かされずに終わる不完全なフラグ。


そして何より謎なのが、メアリールート以外のルートだと最終的にいなくなること。


「………」


(…待てよ。ゲーム内セリフで「仲の良い極道の友達がいる」って言ってたな…はすみちゃんのことだったのか)


点と線が、想定外の場所で繋がる。


天才の暗殺者と、立ち絵だけのモブお嬢様。

本来なら画面上で決して交わることのなかった二人が、こうして「友達」としてどら焼きを囲んでいる。


(……すごいな。なんかゲームの外側を見てるみたいで、変に感動するわ)


そんな場違いな感慨に浸っていた俺の思考を、鋭利な殺気が切り裂いた。


「誰って聞いてる!!」


メアリーが俺を射抜くように睨みつけ、その右手をスッと後ろポケットに忍ばせる。


ヤバい、よく分からんが地雷を踏んでるらしい。エリート殺し屋の「抜き」の動作を前に、俺の生存本能が激しく警報を鳴らす。


その時、どら焼きをモグモグと咀嚼していたはすみが、ふと思い出したように口を開いた。


「...先日...入った..新しい..組員...」


彼女の途切れ途切れでマイペースな説明に、メアリーの警戒心がわずかに解ける。……が、俺に向けられた不機嫌そうな眼差しはそのままだ。


「…なにしにきたんですか?」


メアリーはムッとした表情を隠そうともせず、俺を「お嬢との時間を邪魔する部外者」として切り捨てるように問い詰めてくる。


「あ、いや…はすみちゃんに荷物が届いてて」


俺はメアリーの刺すような視線を受け流しながら、はすみちゃんの側に近づき箱を置く。


「これ届けに来ただけだから。邪魔したね、じゃあ俺はこれで」


一刻も早くこの場を離れようと背を向けた、その時だった。


「..まって」


はすみが俺の裾をちょこんと掴む。


「どら焼き..一緒に..食べよう..」

「っ!?」「へ?」


メアリーと俺の声が綺麗に重なった。


「なんで?」と不満げなメアリーと、「え、俺が?」と戸惑う俺。

そんな二人の空気も知らず、はすみはただ無邪気に俺を見上げていた。



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