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始めてのお仕事。

 ジョエルのファミリーになって一週間が過ぎた。

 私は特に仕事は任されていない。

 ただ、社会勉強とやらをやらされている。

 なぜこんな事を……でも、人攫いの仕事よりかはマシか。


 「眠たそうだな」

 「うん、何の為にこんな事を毎日してるのかわからないし、本に書いてある文字も読めない」


 「文字なら半分くらい読める様になっただろう。

  それに、大将は言ってただろう。

  お前等の面倒みてやるって。

  何かしらの理由で大将の手から離れても、一人でやっていける様に勉強してるんだ。

  とは言え、そろそろ仕事の方もやってもらわねえとな」

 「人攫い?」


 「いんや。

  あんな薄汚ねえ仕事はファミリーじゃやってねえよ。

  ジャマルはうちらのファミリーじゃねえ」

 「ふーん」


 人攫いじゃないなら少しはマシか。

 酷い仕事じゃなければいいけど……

 ラルフは資料に目を通している。

 あれでもないこれでもないと呟きながら一生懸命私に見合った仕事を探してくれているようだ。


 「おお、これなんか良さそうだな」

 「どんな仕事?」


 「悪い奴等をやっつけるお仕事だ。

  まあ、着いて来な、ミリアは相手をぶっ飛ばすだけでいい。

  俺が合図したらぶっ飛ばせ」

 「本当に悪い人?」


 「本当に悪い人だ。

  胸糞悪くなるくらいのな」

 「わかった」

 

 ラルフと共に屋敷の外に出ると、ここで待機する様に命じられた。

 忘れ物でも取りに行ったのだろうか?

 しばらくすると、ミックを連れてラルフが戻って来た。

 ミックの表情が少し暗いな……どんな生活をしているのだろう?


 「ミック?

  あまり顔色がよくないみたいだけど大丈夫?」

 「ミリア……俺もう勉強は嫌だよ」


 「ああ……私も……」

 「ミリアもか。

  でも、やっと身体動かせるんだな!」

 

 ミックの表情が少し明るくなった。

 それに、よく見ると少し太っただろうか?

 ちゃんと食事は取っているみたい。


 「ミック。

  お前は今日、手を出すなよ。

  俺の仕事を見て覚えろ。

  必要になったら指示を出す。

  出来る様になったらミリアと二人で仕事に行って貰う事もあるかもしれねえ」

 「……わかった」


 ミックは不満気だ。

 ずっと勉強ばかりしてたから暴れたくて仕方ないのだろう。

 ラルフに連れられて裏通りの路地をクネクネと進む。

 この辺りは来た事がないので、全く道が分からない。


 やがて私達は一軒の酒場へと辿り着いた。

 ラルフが店の中へと入って行ったので私達も着いて行く。

 ここで仕事をするのだろうか?


 「いらっしゃい。

  ああ……こっちのカウンターへどうぞ」


 ラルフがカウンターの席に座ったので、ミックと私も隣に座った。

 後ろの席からは「子連れだぞ」と言ってケラケラ笑う事が聞こえる。

 ラルフは気にしていない様だ。


 ラルフの席にお酒が用意される。

 それと……何か文字が書かれた紙切れも渡されたみたいだ。

 その後、酒場の主人は私達にもミルクを出してくれた。


 「まだ来てないのか……面倒だな」


 ラルフがそう呟くと酒場の主人が苦笑いを浮かべる。


 「ねえ、君達。

  どこから来たの?

  お父さん大きいねえ」


 酔っぱらった客が私達に絡んで来た。

 ミックが睨みつけると「怖いこわい」と言いながらも頬を叩いて挑発してくる。

 ミックがキレてしまいそうなので、腕をギュッと掴むと「わかってる」と言って頬を膨らませた。


 「悪いな、俺達こういうもんなんだわ」


 ラルフが袖を捲って腕を見せると絡んで来た男達は顔色を変えて「失礼しました」と言って店を出て行った。

 なんだろうと思ってラルフの腕を見ると、刺青(いれずみ)がしてあった。

 ジョエルの屋敷でよく見るやつだ。

 

 「それは何?」と聞くとラルフは苦笑いを浮かべる。

 ラルフは「後で教えるから、そう言う事はここではいっちゃだめだ」と耳打ちして来たので「うん」と言って頷いた。


 客が何度か入れ替わり、ひたすらミルクを飲み続ける。

 あれから絡んで来る客もいないし、ミックは眠たそうだ。

 また新しい客が入って来たタイミングで酒場の主人がまたラルフに文字入りの紙切れを手渡した。

 ラルフは「やっとか」と呟いて出されたお酒を飲み干す。


 この客がターゲットなのだろう。

 その男達をじっと見ていると、私に向かって手招きをしてきた。

 ラルフの方を見ると頭を抱えている。


 仕方ないといった表情でラルフは立ち上がり、今入って来た客の前へ立ちはだかる。

 ミックはラルフの指示で入り口に陣取る。

 相手は8人。

 いつ合図を出されるのか分からないので私はラルフの傍でじっと眺めている。


 「俺はジョエル一家のラルフだ。

  出すもんだしてもらおーか」

 「ジョエルだ?

  面白れーな。

  そっちのは新しい商売か?

  子守歌なら俺でも歌えるぜ」

 

 高笑いする客達にラルフは特に何もする様子はない。

 酒場の主人はそそくさと他の関係のない客を外へと誘導している。

 なるほど、ラルフは関係のない客がいなくなるのを待っているのか。

 他の客がいなくなった所でラルフは一人の胸倉をつかみ上げた。


 「薬持ってるんだろ?

  逃げられると思うなよ」

 「逃げるだあ?

  ははっ子連れに何が出来るんだよ」


 ラルフが「ミリアやれ」と呼んだので即座にラルフの掴んでいる男以外に攻撃を仕掛けた。

 一応手加減をして動かなくなるまで殴り続けた。

 逃げようとした奴もいたけどミックに阻まれ、私がそれを引き戻して動かなくなるまで殴った。


 「なんだよその嬢ちゃん……」

 「何者でもねえよ。

  うちらの家族だ。

  薬はどいつが持ってる」


 胸倉をつかまれた男が指さした男をラルフが調べて、懐から袋が出て来た。

 あれが薬なのだろうか?

 その後、ラルフは男達を縛り上げ、男達が目覚めると店の外へと連れて行く。

 そのまま見覚えのある岬まで辿り着くと、ジョエルが待っていた。

 

 「ご苦労さん。

  ラルフ、ミリア達の初仕事はどうだった?」

 「勉強は出来るが、ミリアはまだまだ勉強が必要だな。

  ミックの方はなかなかだったぜ」


 ジョエルは「悪くなかったみたいだぜ」と言って強く私とミックの背中を叩いた。

 大した事はしなかったけど、褒めて貰えると少し嬉しいかな。

 私達の仕事はここまでと言う事で、ラルフを置き去りにしてジョエルに連れられて屋敷へと戻る。


 ジョエルの部屋で今日あった事を報告するとジョエルは色々と教えてくれた。

 ラルフの刺青(いれずみ)に関しては、普段ジョエル一家は表へ出ない様にしている。

 ジョエル一家の人間が居ると他の人は委縮してしまい色々と困るらしい。

 だから刺青(いれずみ)の事を人前で聞いたりはあまりしない方が良いらしい。

 それと、ターゲットの相手をじっと見るのはかなりまずい事らしい。

 場合によっては、本来得られる情報や、追い詰めるタイミングを見逃したり、相手に感づかれて逃げられたりするので、軽く気配を探る程度にしておくのが良いみたい。


 私はそう言うものなのかと納得した。

 薬の事を聞くとジョエルの口が少しくぐもった。

 聞こえずらかったのでもう一度聞くと、悪魔に魂を売る薬らしい。

 「何それ?」と思わず口にすると「今は知らなくていい」と言われたので、興味もないし言及するのを止めた。


 こんな仕事ばかりなら物乞いをしているよりよっぽど楽だ。

 皆の事は心配だけど、どうにかやっていける。

 この時、私はそう思った。

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