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力だけではどうにもならない

 ん? 鍛冶屋の前まで戻ってくるとミックが外で出迎えてくれた。

 私の姿を見て駆け寄り、手を振り上げたのでパン!とハイタッチする。


 「あいつ等をやって来たんだろ?

  上手くいったのか?」

 「全部じゃないと思うけど、力は見せて来た。

  ジャマルと火をつけた奴はやったよ」


 ミックは「ガハハ」と豪快に笑い声をあげた。

 

 「中へ入らないの?」

 「んー? あいつら俺にビビって辛気臭せえから外に出てやってるんだ。

  ミリアも中へ入るなら返り血は落として行った方がいいぜ。

  あいつらビビりだから」

 

 確かにこのままでは怖がられそうだ。

 近くにあった桶に水が溜まっているのでそれで血を洗い流す。

 服も脱いでガシガシと洗ったので驚かれる事もないだろう。


 私はミックの肩に手を回し、二人で鍛冶屋の中へと入る。


 「ええ? なんて格好で入って来てるんだ」

 「何? なんで驚くの?」


 鍛冶屋のリーダーの少年があたふたして、何故か上着を持ってきてくれた。

 別に寒くはないのだけど……


 「恥ずかしくないの?」

 「下着は付けてるけど?」


 リーダーの少年はハア―っと溜息をついて頭を抱え、ビルはそれを見て笑っていた。

 笑えるくらいには傷が回復したのね。

 少しホっとした気分になる。


 そのまま雑貨屋の5人で集まって先程してきた事を報告する。

 これから私達はどう行動すべきか、ロイとビルの意見が聞ききたい。


 「ん-……やってしまった事は仕方がない。

  裏通りの奴等と交渉して、商売でも始めるか」

 「商売? 私達売る物なんてないよ?」


 「俺が交渉して、ミックがボディーガード。

  エミーはまだ働くには早いからお留守番。

  ミリアは力を使った仕事をしてもらう。

  頼りっぱなしになるが、しばらくはそれでいこう。

  俺も……いや、俺達も必ず役に立てるだけの力はつける」

 「私は全然それでも構わないけど、力を使った仕事って具体的には?」


 「用心棒とか、ちょっとした傭兵。

  他には家屋の取壊しとかだな。

  まあ、適当に交渉してやれそうな事があれば持ち帰って来るよ」

 「ふーん」


 ビルが考えてくれたのだからそれを信じよう。

 新しく住む場所はすぐに決まった。

 廃屋はまだ誰も手を付けていないはずだから、そこを新しい私達の拠点にする。

 ここに居座っては鍛冶屋に住んでいる子達にも迷惑だし、ミックも居心地が悪そうだから、今から皆で廃屋へ行こうと切り出した直後、ドアを誰かがノックした。

 

 リーダーの子が「誰だ」と言ってドア越しに会話を始めると、相手は私に用があるらしい……

 ドアが開かれる。


 「よう、ミリアちゃん」

 「ラルフ? 何の用?」


 「実はな、うちの大将そうとう運動不足でな。

  ミリアちゃんの話をしたら久しぶりに喧嘩がしたいって言いだしたんだ。

  相手して貰えるか?」

 「それって私達と敵対するって事?」


 「いんや? 大将がミリアちゃんと遊びたいってだけだ。

  部下の俺からしたら手加減してやってほしい。

  ああ、勝ったら旨いもん食わせてやる」

 「やると言うまで交渉を続けるんでしょ?

  それなら、やるわ。

  場所と時間は?」


 「今すぐ。

  商船のあった場所だ」

 「わかった。

  すぐ向かう」


 ラルフと共に商船のあった場所へとまた戻って来る。

 もうすっかり日もしずんで真っ暗だ。

 それに静かで波の音がやけに大きく聞こえる。


 「誰もいないじゃない」

 「待ってくれ、今若いのに大将を呼びに行ってもらってる」


 ラルフは手下と共に周囲に焚火を焚いて明かりを灯していた。

 しばらく待っているとラルフの言う大将が現れた。

 想像していたよりも見た目は若く、筋骨隆々の男がやって来た。

 身長はラルフの方が大きいけど、なんとなく圧のようなものを感じる。


 「こんばんわ。

  急な呼び出しで済まない。

  俺はジョエルだ。

  裏通りじゃあ一番権力を持っている」

 「私はミリア。

  肩書なんてないわ」


 ジョエルは不敵な笑みを浮かべた。

 もう初めてのいいのだろうか?

 そう思っているとジョエルが私の懐に飛び込んで来る。


 その攻撃はとても遅く、軽く身体を翻しただけで簡単に避ける事が出来た。

 そして、躱した私に追撃。

 躱そうと思えば躱せる。

 しかし、躱すまでもない。

 まともに当たってもビクともしない私に彼は驚いている。


 足元を軽く蹴り上げ、顔を殴ろうとしたけど躱された。

 加減しすぎたか……

 ジョエルの手に赤い光が灯る。

 魔法かな?

 しかし確信がある。

 この体には魔法も通用しない。


 案の定、炎の(つぶて)を飛ばして来たので、左手でそれを振り払った。

 ジョエルの想定通りだったのか驚いた様子はない。

 

 私は先程より早くジョエルの体に攻撃を打ち込む。

 すると……急に身体が回って夜空を眺めている。

 攻撃したはずの私が倒された。

 不可解だな。

 すぐさま起き上がり、もう一度ジョエルに攻撃する。


 また体が宙に回り、地面に寝かされている。

 それなら……

 私はもっと早く動いた。


 今度は手応えがある。

 しかしジョエルにはガードされた。

 それでも遥か後方へと吹き飛ばし、ダメージは与えられただろう。

 ジョエルは起き上がってフーフーと息を乱している。


 「ちょっと待った。

  もっと早く動けたりするのか?」

 「動ける。

  もう降参する?」


 ジョエルは高笑いした。

 これで満足してくれただろうか?


 「俺の負けだ。

  まあ、それでもだ」


 そう言ってジョエルは私の後ろを指さした。

 そこには捕らえられた鍛冶屋の子達の姿があった。


 「ビル達はどこ?」

 「無事だよ?

  俺の屋敷にいる」


 怒りを覚えた。

 しかし……どうする事も出来ない。


 「状況が分かったか?

  いつでも殺せるし、お前の手は届かない。

  俺の指示通り動く。

  それが今のお前の取れる最適解だ」

 「卑怯者!」


 「なんとでも言え。

  勝負には俺が勝ったな」


 ジョエルは再び高笑いを上げた。

 こんな事ならビル達の傍を離れるんじゃなかった……

 そんな事を考えても今更すぎる。

 私は選択肢を間違えたんだ。


 「とりあえずだ。

  俺の屋敷へ来い。

  飯でも食べながら話をしよう」


 ラルフが私の前を歩き先導する。

 悔しい……


 「お前を見逃すべきじゃなかった」

 「おいおい、怖い事いわないでくれ。

  大丈夫だ。

  悪い様にはしねえって約束するから怒らないでくれ」


 なんだこいつの態度は。

 もしビル達に何かあったらまっさきに殺してやる。

 

 屋敷へとやってきた私は、大きな部屋に通された。

 この部屋だけで雑貨屋と鍛冶屋で使っていた部屋がすっぽり入るくらいに大きな部屋だ。

 椅子に座ると、ジョエルの手下の男達が食事を運んでくる。

 この後に及んで毒を盛られるなんて事はないだろう。

 私は用意された食事を自棄(ヤケ)になり食べ始めた……美味しい……

 お腹が空かないから何も食べて来なかったけど、食べてみるとどことなく満たされた気分になる。


 「ははっ随分食べるな!

  おい! どんどん持ってきてやれ!」


 自棄(ヤケ)で食べているだけなのだから余計なお節介だ。

 ムカついたのでテーブルをドンっと強く叩いた。


 「ビル達はどこ?」

 「おいおい、癇癪(かんしゃく)起こすなよ。

  俺はお前とゆっくり話がしたいんだ。

  しかし、まあ、このままじゃ話にならねえか……」


 ジョエルが指を鳴らすと手下が部屋に入って来た。

 そして「一番賢そうなのを連れてこい」と言った。

 しばらくすると手下がビルを抱きかかえて椅子へ座らせた。

 

 「さて、俺はジョエル。

  君の名前は?」

 「ビルです」


 「そうか、ビルとミリア。

  俺はお前達にお願いがあるんだ、聞いてくれるか?」

 

 私はビルに視線を送った。

 どうせそのお願いを聞かなければ仲間を殺すと脅されるのは分かり切っている。

 だから私はビルに全部を委ねる。

 

 「お願いを聞き入れます。

  でも、それは条件付きです。

  俺達の仲間の安全を保障して下さい。

  断れば、ミリア……」


 その先の言葉は言わないでほしい。

 そう思って私はビルから目線を反らした。

 けど理解出来る。

 もう絶体絶命なんだ。

 だから私は安全を保障しないと言われた時、ジョエル達皆殺しにして、生き残る。

 誰か一人でも助ける事が出来ればやっていける……

 誰も助けられなかったら……

 考えたくないな。


 「安全かー……まあ、俺達がお前らに手を出す事はない。

  それと、お前達を俺達が守ってやると約束もする。

  ようするにだ、お前等全員、俺達のファミリーになれ」

 「……本気ですか?

  俺達はただの孤児ですよ?」


 「ミリアは特別だ。

  それだけで十分俺達の仲間に引き入れる価値がある」

 「それならまた別の条件を付け足してもいいですか?」


 「欲張るねぇ。

  なんだ、言ってみろ」

 「定期的に食事の時間を作って欲しい。

  俺達5人の時間です。

  それと、もしミリアが力を失っても継続してファミリーの一員として扱って欲しい」


 「ファミリーとして迎え入れた以上、ミリアが力を失ってもその一員として認める。

  だが、5人揃っての食事はなしだ。

  最低でも一人はこっちで預かる。

  一応保身の為だ。

  お互い信用が出来る様になったら5人での食事も認めよう。

  というか……11人じゃないのか?」

 「11人だと鍛冶屋の孤児達も含まれていますね。

  鍛冶屋の孤児達は俺達とは無関係です」


 「そうか、まあ何かの縁だ。

  そいつらの面倒も見てやるよ」

 「わかりました」


 こうして交渉は成立して、私達はジョエルのファミリーとなった。

 

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