探し人
「おはようミリア」
ビルの声……?
目を開けると、ビルが目覚めている。
「おはよう、怪我の具合は?」そう聞くとビルは「凄く痛いよ」と首を横に振った。
両足が痛む様で、移動する時はその辺りを這いずっている。
私に気が付き、ロイとエミーも「おはよう」と挨拶してくれる……一人足りない。
私は挨拶の後「ミックは?」と問質すと、朝一番でロイがミックを見送ったとの事だ。
私は溜息をついた。
ミックは寝坊助だ。
朝一番に起きる時にはたいていトラブルになる。
早速仕返しにいったのだろう。
近所の悪ガキ相手ならなんとでもなっていたけど、今度の相手は組織を作っている大人だ。
まあ、どの道目をつけられていたんだ。
遅いか早いかの違いでしかない。
私はロイに留守番を頼み、廃屋の方へと向かった。
廃屋に近づくにつれ、ワーワーと喧騒が聞こえ始める。
辿り付くと、昨日ミックを殴った男は地面でへばっている。
ミックは向こうの喧嘩自慢の男と戦った後のようで、ぐったりと横たわっている。
私が起こしてやると「あいつら三人掛かりで……卑怯者め……」と言っていたので「一人で乗り込むあんたが馬鹿だ」と言って額を小突いてやった。
私の方へ男共が数人来て、好き勝手言って帰って行った。
ゴロツキ達がお気に入りの脅し文句だ、気に留める必要はない。
まあ、私を見て高く売れそうだと言った事は聞き逃せずに睨み返した。
ボロボロのミックを連れて帰ると、ロイが軽い手当を施す。
ビルに処方されたお茶を飲むと、瞬時に痛みは引いたらしい。
「そんなわけあるか」とビルにおしりを叩かれて悲鳴を上げていたけど、ミックは丈夫なので心配はない。
三人を連れていつものシルヴァスの宿へ向かうと、チビ達がいつも物乞いをしている場所に別のチビ達がいる……
早速喧嘩早いミックが絡み始める。
「お前等、鍛冶屋に住んでいる奴等か。
俺にビビってたくせにいい度胸じゃねえか」
「ジャマルの奴等に脅されたんだ……仕方ないだろう」
相手のチビ達は5人いるけど、ミックは怯む事なく殴りかかり、もみくちゃになっても一人ひとり片付けていく。
熱が冷めるまではここには来ない方がいい。
仕方ないので私は三人を引き連れて別の場所へと向かう。
大通りも駄目か。
物乞いはいないけど、普段見かけないガラの悪い連中がたむろしている。
ここに三人を置いて行くのは危険だ。
他に良い場所がないわけではないけど、私達とは別の奴等が縄張りにしているから手を出すのは得策ではない。
そんな事をすれば自分達の縄張りを乗っ取られたのだと馬鹿にされるだけだ。
仕掛けて来たのならやり返されても文句はないだろう。
私の心の奥底が冷たくなった様に思えた……
しかし、一抹の不安がよぎる。
あいつ等はすでに私達に仕掛けてきている。
ビルは大丈夫だろうか?
三人を連れて急ぎ足で雑貨屋へ戻ると、不安は的中していた。
雑貨屋が燃えている。
チビ達を待機させ、急いでビルの元へ駆けつける。
煙を吸って気を失っているようだけど、呼吸をしている。
ビルを表へ運び、雨水をためていた桶の水をバシャーっとビルに浴びせる。
「ミック……」
「ミリアごめん。
俺のせいだ」
居場所を失った。
しかしそれはミックのせいという訳ではない。
どの道、質の悪い奴等に目をつけられていたのだからこうなる事は予想していた。
私はミックの頭にポンっと手を置いて「これから私の言う事はちゃんと聞いて」と伝えると、ミックは素直に頷いた。
少し前にミックがボコボコにしたチビ達の住んでいる潰れた鍛冶屋へとやって来た。
そして、扉を開けて中へ入る。
「おいおい……何しに来たんだよ」
「私達に喧嘩売って来たんだろ?
乗っ取りに来た」
「待ってくれ!
俺達はジャマルに脅されてるんだ!」
「それが私達になんの関係がある?」
ジャマルと言うのは知らないけど、多分子供攫いの誰かだろう。
そして、話している相手はここのリーダーで自分より小さいミックの事を心底恐れている。
「まあ、いつまでも居座るつもりは無い。
しばらくしたら出て行ってあげる。
それと、あいつ等に復讐したら組織を立ち上げる。
それで誰も私達に歯向かわない様にする」
「お前達でか?
出来るわけないだろう……
まあ、お前達がそれでいいなら勝手にしろ……
腹減ってるならそこの棚の物は食っていい……」
棚を見ると貰い物のお菓子なんかが置いてあった。
エリーがそれを欲しがったので額を小突いた。
あれはきっとここのチビ達が楽しみにしているものだろう。
私は覚悟を決めた。
もうチビ達が飢えて苦しまないようにする!
ミックにエリー達を守る様に指示して「片を付けてくる」と言って、裏通りの奥へと進んだ。
ガラの悪いのに絡まれたので「ジャマルを探している」と伝えると「こっちだぜー」と案内してくれた……しかしそれは嘘だった用で、私に袋をかぶせて来たのでそのまま攫うつもりなのだろう。
私は身をよじり、壁に頭を擦りつけて袋を破いた。
そして目の前にいる男達を殴り飛ばし、動かなくなったので再び大通りへ出る。
血にまみれたせいか、周りにいた奴等の反応が少しが変わった。
まあ、そんな事はどうでもいい。
ジャマルを見つけて報復し、組織を力でねじ伏せる。
きっとそれでうまくいく……のか?
もう少しビルとロイに相談したかったな。
裏通りを奥へおくへと進むと「おい」と野太い声に呼ばれたので振り返る。
振り返ると大きな男が立っていた。
この辺りにいる奴等より清潔感がある……服も高いのを着てそうだ。
それに周りがザワザワしている。
この辺りの偉い奴だろうか?
「なんの用?」
「ジャマルを探しているんだろ?
そっちの岬にある商船で捕まえた子供を売っている所だ」
男はニヤ付いている。
騙されれるのはこりごりだ。
私は男の腕を掴み、言われた方へと歩き始めた。
「おいおい、なんだ!?
すげー力だな!」
男がもがいているが関係ない。
騙していたらその場で報復してやる。
男がジタバタして動きずらかったけど、商船へと辿り着いた。
商人と子供達を連れたガラの悪い奴等が取引をしていると言うのは本当だったようだ。
「どれがジャマル?」
「商人と話してるあの男だ。
そろそろ離してもらえねえか?」
離しても良かったけど、あの男がジャマルじゃない可能性もあるので、逃げない事とあれがジャマルだと言う事を証明する事を約束させて解放した。
「ほー痛てててて」と言って男はジャマルの方へと駆け寄る。
「おーいジャマル。
お前にお客さんを連れてきたぞ」
「おお! ラルフさん!
お客ってのは……あの女の子ですかい?」
どうやら本当にジャマルの様だ。
私は二人に近づき、質問する。
「私達のねぐらを焼く様に指示したらしいな?」
「ん? お前雑貨屋の……ガキか!
ラルフさん……このガキとどういう関係ですか?」
「俺は道案内しただけだ。
お前に会いたいらしいから連れて来た」
「そうですかい……
このガキはうちのもんに舐めた事してくれたガキなんです。
今からこのガキ絞めますんでちょいと待っていて下さい」
私達がもめて居るのを見てワラわらと見物客が集まって来る。
ジャマルの手下は全部やっときたいな。
しかし私の目ではどれがジャマルの手下なのか判断つかない。
「ねえ、雑貨屋を焼いた奴を出して貰える?
一対一の勝負よ。
まさか私一人に怖がって出てこないなんて事はないよね?」
「ははっおもしれえ。
野郎共!
ジンを呼んで来い!」
さて、ジャマルが声を掛けて動いた奴の顔は覚えた。
全部じゃないかもしれないけど、そいつらは殺す。
しばらくして、やってきたのはニックを殴ってニックにやられていた男。
男が前に立つと「めんどくせえな」と言って唾を吐き捨てる。
だいたい揃ったか。
もう待つ必要もない。
私はこの男の首を掻っ切った。
すぐさまジャマルも思い切り殴り飛ばし、さっき覚えたばかりの顔を全部殴った。
スピードが乗っているせいか殆どの奴は殴った瞬間に吹き飛んだ。
最初に殴ったジャマルも死んでいる。
「ラルフと言ったかしら?
あなたもやっておいた方が私達の為になる?」
「ん-どうだろうな?
少なくとも俺は君に何もするつもりはないぜ」
ジャマルの居場所を教えてくれたし、私はラルフの事は見逃す事にした。
これから新たな居場所を作っていかなければならない。
ビルとロイならきっといい提案をしてくれるだろう。
私は来た道を引き返し、皆の待つ鍛冶屋へと帰って行った。




