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変わりゆく日常

 血の海に佇む私は一体何者なのだろう……?

 この体はナイフも刺さらず、棒で殴られても平気だった。

 力も凄い。

 片手で人を容易く放り投げる事も出来る……


 力自慢の冒険者ならゴロツキ相手にそれくらい出来るかもしれない。

 しかし、私は何の能力も無いガリガリにやせ細った孤児だったはずだ。

 知らない間に少し太っている……

 お腹も減らないし、そういう体になってしまったのだろう。


 リーダー格の男が私を認識出来ていなかったのは見た目に変化があったからなのだろう。

 チビ達といた時は変化がなかったのだろうか?


 私は雑貨屋へと戻った。


 「おかえりなさい!」


 ドアを開けたとたんエリーが抱き着いてくる。

 私は「ただいま」と言ってエリーの頭を撫でた。


 「ロイ、私の見た目……変わった?」

 「ああ、ビル(ニイ)を探しに行って帰って来た時から変わってたよ。

  でも、あの時はすぐに寝ちゃったから……

  顔色も良くなってるしミリア(ネエ)はミリア(ネエ)だったから皆気にしてなかったよ」


 私は「そう」っと返事をして、さっきあった事を話した。

 そして、あの日出会った冒険者らしき男と何があったのかも……


 「その男の人がミリア(ネエ)に力を?

  それ以外に何も心当たりはないの?」


 ロイの質問で私はあの日の事を思い返す。

 しかしあの男が「悪いな……受け取ってくれ、全部」と言っていた事以外に思い当たる節はない。

 だから私はロイに「ない」と返事をした。


 「そうか……それなら、その男の人の事を調べたら何かわかるんじゃないかな?

  冒険者だったのなら、冒険者ギルドに聞けば何かわかるかもしれない」

 「別に調べなくたっていい。

  私の目の前でアレは干乾びて死んだ。

  妙な疑いを掛けられても困る」


 「うん。 でも、その力の事は把握しておいた方がいいと思う。

  それだけの力なら何か代償もあるのかもしれないし」

 「そうね……自分で色々と試してはみる。

  ビルが動ける様になったらギルドにも聞いてみる」


 代償か、あまりはっきりとは思い出せないけど……あの男が幸せそうには見えなかった。

 あの男にとって良い力だったのなら、その力を誰かに譲るなんて事はないはずだ。

 そもそもそんな力を渡すなんて事が可能なのだろうか?

 解らないけど、今の私にとっては都合のいい力だ。


 ビルは今も痛みで苦しんでいる。

 薬を買うお金はない。

 それなら……


 「ちょっと出て来る」

 「ああ、それならミックを連れて行ってあげて。

  ビル(ニイ)の事なら僕とエミーで見てるから」

 

 「一人がいい」

 「駄目だよ」


 ロイはこういう時とでも頑固だ。

 絶対に私を一人にはしてくれない。

 仕方がないな。

 私はミックの方を見ると「ヘヘヘ」と笑みを浮かべて私の手を握って来た。

 溜息をついた私は、「わかった」と言って、ミックを連れて出て行った。

 

 「ミック?

  別に面白い事をしようとしているわけじゃないけど、いいの?」


 ミックは一言「ロイが心配してただろ」と言って私をジトッとした目で見上げて来る。

 「うん」とだけ返事して私は大通りにある一番高い薬屋へ向かった。

 

 薬屋へ辿り着いたものの、どうしたものやら……

 力を使って薬を一つ譲って貰おうと思っていたけど、今はミックがいるし危ない事はさせられない。

 私はミックを連れて薬屋のドアを開き、中へ入った。


 「いらっしゃい……アラ?

  あなた達いつも物乞いをしている子供達よね?

  お金はあるの?」


 この店の主人は太ったおじさんだけど、話しかけて来たのは初めて見る女の人だった。

 店の番をしていると言う事は、雇われた人なのだろう。 


 「少しならあります。

  友達が怪我をして痛みに苦しんでいるんです。

  足りない分は私がなんでもするので、薬を譲って下さい」


 私は膝を突き深々と頭を下げた。

 ミックも私と同じようにしてくれる。

 足音が私達の方へと近づいてくる……私は殴られても平気だ。

 でも、ミックに手を出したら許すつもりはない。

 

 「ここはあなた達の来るべき場所じゃないわ。

  こっちに行きなさい。

  道は分かるかしら?」

 「三番通りの……裏路地?」

 

 「そうよ。

  そこにいる人なら条件次第で薬を譲ってくれるはずよ」

 「ありがとうございます」


 門前払いじゃないだけでもマシかと思っていたけど、初めて会ったのに親切にしてくれた。

 本当にここへ行けば薬を譲って貰えるのだろうか?

 半信半疑ではあるけど、他にあてもないので言われた場所へと向かう。


 三番通り。

 裏通りよりはマシだけど、ここもあまり安全ではない。

 酒場があるので酔っ払いが多い。

 今は明るいので夜来るよりはマシだけど、道にへたり込んだ人が居たり騒がしい人達がいる。


 あまり長いはしたくないので、急ぎ足で路地裏へと入っていく。

 教えて貰った場所に辿り着くと、小さな家があるだけだった……

 薬屋には見えない。

 騙される事はよくある事だけど、一応ドアを叩いてノックしてみる。

 中から足音がしてドアが開いた。


 「んー? おお!

  よく来たね!

  なんの用だい?」


 出て来たのは痩せたおじさんで、私の顔を見てパーっと表情が明るくなった。

 子供が好きなのだろうか?

 私は事情を説明して、薬が欲しい事を伝えた。


 「そうか、それならおじさんがその子を見てあげよう。

  薬にも色々種類があるからね。

  なんでもいいという訳ではないんだ」


 親切だな。

 いや、親切すぎる。

 私にとって親切にされると言うのは最も警戒すべき事。

 当然だ。

 悪人が馬鹿正直に冷淡な態度を取るなら誰も騙されたり、陥れられたりはしない。


 「おじさんはどうして私達を助けようとくれるんですか?」

 「アハハ! もちろん対価は頂くよ?

  君達との取引はおじさんにとっても利益になるからね」


 「利益? 本当に?

  お金は少ししかないですけど……」

 「構わないさ!

  心配しなくてもいい。

  さあ、怪我をしている子の所へ案内してくれるかな?」


 おじさんは大きな鞄を抱えて私達の後を着いて来る。

 言動は怪しいけど、たぶんビルの事はちゃんと見てくれそう……

 対価に何を求められるのかはわからないけど……


 少しだけ遠回りをして考えを巡らせてみたけど、何も思い浮かばず、雑貨屋へと辿り着いてしまった。

 おじさんを迎え入れると、ロイもエリーもギョッとした表情を浮かべる。

 おじさんがニコやかな表情で「こんにちわ」と挨拶すると二人も釣られて「こんにちわ」と挨拶をした。


 おじさんが床に寝転がっているビルの横に座り、ペタペタと体を触って様子を見ている。

 私達はそれをじっと見ている事だけしか出来なかった。


 おじさんはその後も「これは酷いね」などと言いながらビルの怪我を治療してくれている。

 しばらくしてビルの治療が終わった様だ。

 

 「これでヨシっと。

  この薬草は痛み止めだ。

  彼が痛がっている時に煎じて飲ませると少しマシになる。

  若いし傷はどんどん良くなってくると思うけど、一月は無茶しないように」

 「ありがとうございます」


 「それじゃあ……お代の事だが、君かその子。

  私について来てくれるかな?」


 おじさんは私とエリーを指さしてそう言った。

 エリーに手出しはさせない。

 私が一歩前へ出るとおじさんは「君だね」と言って私の手を握った。

 ロイとミックにビル達の事を頼み、私はおじさんと共に三番通りの路地裏に家の中へと戻って来た。


 家へ入るなりおじさんは興奮気味だ。

 息を巻いて「こっちへおいで」と私の手を引き、おじさんは奥の部屋のドアを開いた。

 部屋の奥には……なんだこれは?

 見た事の無いような派手な部屋。

 目にする物全部が初めてだ。


 「この部屋にはまだ足りないものがあるんだ。

  何かわかるかい?」

 「わかりません」


 おじさんは笑みを浮かべながら「それはね」と言った後、大きな箱の中から何かを取り出した。

 ヒラヒラの着いた大きな布?

 綺麗な布だとは思うけど、部屋の飾り付けにでも使うのだろうか?


 「それじゃあ、おじさんが着せてあげよう」


 おじさんは無造作にその布を置いた後、私に近づき服を脱がせた。

 とても嫌だけど、ビルを助けて貰った。

 その事を考えれば……安いものだ。


 おじさんは私の服を脱がせた後、何故か床に置いた布を拾い上げ、私をその布で覆った。

 何がしたいのかわからない……


 おじさんはしばらくの間、布に夢中になり、それからしばらくして今度は私を椅子に座らせた。

 椅子と言っても、これが椅子と言われるまで私はこれがなんなのか分からなかった。

 

 今度は私の顔にパタパタと粉の着いた布を押し当てて来る。

 へんな道具も使って私の顔にあれこれと……

 爪も妙な色を塗られた。


 「素晴らしい! こっちに来てくれ」


 おじさんは私を大きな鏡の前に立たせる。

 ああ、なるほど……

 鏡に映る私を見ておじさんがしたかった事が少し理解出来た。

 一番通りにある高級店の立ち並ぶ場所で一度こんな格好の人形を見た事がある。

 おじさんは人形遊びを等身大でやりたかったのだろう。

 

 「美しいだろう?

  生まれ変わった自分を見てどんな気分だい?」


 困惑する。

 確かに綺麗と言われればそうなのかもしれない。

 けど、私は何も変わってはいない。

 私は首を傾げた。


 「おや? あまりうれしくはなさそうだな。

  まあいい、おじさんは満足だ!

  それじゃあ、お茶でも飲もうか」


 それからおじさんは紅茶と言うものを用意してくれた。

 凄く香りが良い。

 そして私はただお茶を飲んでいる。


 おじさんがずっと貴族や劇の話しをしているけど私の頭には入って来ない。

 相槌すらしてないにも関わらずおじさんは饒舌に話しかけて来る……

 私は何をさせられているのだろう?


 夕暮れが近づいて来た頃合いにようやく私は開放される。

 これでビルを治療して貰った対価になったのかは分からないけど、おじさんはそれで満足しているらしい。

 ビルが元気になったらエリーも連れて来てほしいと言われたので、また来る事を約束して私は皆のいる雑貨屋へと帰って来た。

 「ただいま」と言って中へ入るとロイが出迎えてくれた。


 「おか……ミリア(ネエ)

  なんかすごく綺麗になってるけど、また何かあったの?」

 「ああ、これ……」


 私は貯めた雨水の桶を使って顔を洗い、布を使ってゴシゴシと顔を拭いた。


 「元に戻った?」

 「うん、いつものミリア(ネエ)だ」


 それから今日あった出来事をロイに話していると、物乞いに出ていたミックとエミーも帰って来た。

 二人にも今日あった事を伝え、エミーも今度は二人でおじさんの家に行くと伝えると、私と違ってエミーは少し楽しみにしているみたいだった。

 ロイが妙な事を言うから変な期待をさせてしまったんだと思う。

 私がお姫様の様だった……

 見た事もないのにどうしてそんな例えが出て来るのか?


 馬鹿ばかしくなってそろそろ寝ようとした所、外で足音が聞こえた。

 シーっと口元に指を置き、皆で耳を澄ませていると、誰かがドアを叩く音がする。

 ミックがドア越しに「何の用だ?」と問いかけると「聞きたい事がある」と大人の男の声が聞こえた。

 こんな事は初めてだ。

 

 私はミックの隣に立ち、ドアを開ける。

 立っていた男は見覚えのある顔だ。

 知っている人物とは言えないけど、裏通りの奥で活動している子供を売っている組織の男だ。

 仲間は引き連れていない……変な動きをしたらその時は攻撃しよう。

 男は部屋の中の様子を窺う。

 

 「ガキが五人……情報通りだな。

  奥で俺の子分共がやられたんだ。

  何か知らないか?」

 「知らねえ」

 

 「お前ミックって名前だったか?

  あいつらと揉めてたんだろ?

  何も知らねえって事はねーだろう?」

 「知らねえ」


 「そうか……」


 男は背を向けて立ち去ろうとした……様に見えたけど、即座に反転してミックを思い切り殴った。

 ミックは後ろへ飛ばされて倒れた。

 「口に気をつけろよ、ガキ」と言って男は去って行った。


 ミックはすぐに立ち上がって「あいつ、いつかぶっ飛ばしてやる」と言っているので大丈夫そうだ。


 嫌な奴等に目をつけられたものだ……

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