初めてのダンジョン
あれから一週間。
特に変わらない日常。
ラルフは何も言って来ない。
まあ、そう言う事なのだろう。
気に留めても仕方がない。
私は精一杯仕事をやるだけだ。
「今日の仕事は?」
「ああ、今日は無しだ。
遊んで来い」
遊んでこいと言われても相手がいない……
とりあえず散歩にでも出よう。
屋敷の外へ行くと武装したミックが居たので話しかけてみる。
「今からお仕事?」
「ああ、仕事と言うか……訓練ついでに金稼ぎ」
「面白そうね。
私も連れて行ってよ」
「いいけど、手を貸してくれと言うまでは手を出さないで欲しい」
「いいよ」と返事して何をするのか聞くと、近くにあるダンジョンへ行くらしい。
ダンジョンが分からないので首を傾げると、ミックは丁寧に説明してくれた。
原理は分からないけど、モンスターが沢山いる洞窟のような場所で、希少な素材なんかが取れる。
モンスターと戦えば強くなれるし、罠なんかも仕掛けられているので、精神的な面でも訓練にもなる。
そういう場所らしい。
ミックと話をしていると、ヘイグナーが女の子を連れてやって来た。
この二人に比べると明らかに場違いな気がするけどこの子も戦うのだろうか?
「ミックさんお待たせしました。
あの、そちらは?」
「ミリアだよ」
「ああ、エミーちゃんのおねーさんの!?
あの、初めまして!
私はケイト! 少しだけ魔法が使えます」
「私はミリアよ、よろしくね。
魔法が使えるって事はエミーと一緒にいるの?」
「はい! エミーちゃんは凄いです!
上達も早いですし、魔力量も私なんかより多いです!」
「教えてくれてありがとう。
もっとエミーの事教えて欲しい」
ケイトはダンジョンへ向かう途中で、色々とエミーの事を教えてくれた。
仕事はまだしていないみたいだけど、魔法の素養が高いらしく、まだエミーはその力をコントロールできないでいるみたい。
それでも実用的な魔法はいくつか使える様になっているので、近いうちに魔術師教会へ登録するかどうかの選択があるとかないとか……
エミーはまだ幼いし、ちゃんと決められるのだろうか?
まあ、ジョエルに限ってエミーを不幸な目に合わせるなんて事はないと思うので大丈夫だろう。
ダンジョンに辿り着くと、門番がいて、入り口は重そうな扉で塞がれている。
モンスターが外に出ない様にしているらしい。
ヘイグナーがお金を払うと門を開けてくれたけど……金貨?
ここを通るだけなのに結構な額を支払っていた様にみえる。
そして、門番からヘイグナーは赤いベルを手渡された。
このベルを鳴らすと外から門番の人が扉を開けてくれるらしい。
そして、このベルは一度使うと壊れしまうので中で使ってしまったらダンジョンからは出られなくなる。
モンスター対策らしいけど、一つしか渡されていないし、無くしそうで怖いな。
ダンジョンの中へ入ると真っ暗なので、松明を着ける。
こんな薄明りの中をモンスターと戦いながら突き進んで行くのかと思ったけど、途中からダンジョン内には光が射していた。
昼間の様に明るいけど、光源は見当たらない。
どうなっているのかミックに尋ねると「こういうもんだ」と答えてくれた。
つまり、ミックも理解していない。
ケイトは少し理解しているらしく、ダンジョン内は光りの粉が充満しているから明るいらしい。
ミックとヘイグナーは先頭に立ってどんどん突き進んで行く。
罠もモンスターも二人に掛かれば何の問題も無かった。
「楽勝ね」
「まあこの辺りはな。
一つ下の階へ行くと難易度が跳ね上がるからミリアはケイトを守っていてくれ」
ミックの言葉通り、一つ下の階へ降りるとモンスターは手強くなった。
ケイトが魔法で援護しつつ、罠を避けて少しずつダンジョンの奥へと進行する。
上の階では何もしていなかったけど、この階では石を掘ったりモンスターの一部を剥ぎ取ったりしている。
そしてさらに下の階。
一部の上級冒険者くらいしかこの先へは立ち寄る事はない。
それくらい危険な場所。
ミックとヘイグナーもこの階より先へ進んだ事はないらしい。
ここから二人は命がけなので、ピンチになったら私の手を借りると前もって言われた。
二人が集中してゆっくりと進行している……私も緊張しているし声を出さない。
前から人が歩いて来る。
そう思ったけど……骸骨?
あれもモンスターなのだろうか?
ケイトがミックに向けて炎の魔法を放つ。
驚いたけど、ミックはその炎を剣に纏わせて骸骨を斬りつけた。
骨しかないのに一撃では倒せない。
それに、骨なのに勢いよく燃えている。
ヘイグナーもすぐに追撃する。
倒したかに見えたけど、骸骨はすぐに起き上がった。
もう一度ミックにケイトが炎を放ち、その一撃で骸骨は倒れたようだ。
不思議な世界だ。
背後に気配を感じたので振り返ると、ミック達が倒したのと同じ骸骨が居た。
私は「こっちはどうする?」と聞くと「ミリアに任せた」と返してきたので殴りかかる。
さっきの戦いを見てこれくらいかと加減して殴ってみた。
骸骨は起き上がる。
もう少し強めに殴ってみる。
骸骨は起き上がって来なかった。
なるほど。
これなら多分ジョエルの方が打たれ強い。
隣にいるケイトを見ると、後退りして尻餅をついた。
私が強くて驚いたのだろう。
私だって信じられない。
「あの……スケルトンって凄く固いんですよ?
痛くないんですか?」
「言われてみれば固い感じがしたかも?」
とぼけているわけでは無い。
あの冒険者と会って以来私は痛みを感じた事が無い。
「凄いですね」と口にしたケイトに手を差し伸べて、立ち上がらせる。
立ち上がったケイトは「普通の手だ……」と呟いていた。
ミックの手荷物がいっぱいになったので、ケイトが魔法を使って収納する。
こういった魔法はダンジョンを攻略する際には必須の様で、上位の魔術師なら魔法で何処かへ送り届ける事も出来るらしい。
更にダンジョンの先へ進むと、突然ヘイグナーが「うおおお!」っと雄叫びを上げた!
ミックも「来ちまったか!」と言って剣を構える!
ドシドシと大きな足音を立てて何かが近づいて来る。
そして、角の先から現れたのは大きなモンスター。
平原で戦ったオーガによく似ているけど、それよりもずっと筋肉が発達している。
あんなのにこの狭い通路で暴れられたら一溜りもない。
そう思っていたけど、ミックはダンジョンの壁を上手く使って攻撃をかわし、ヘイグナーは真面に正面から攻撃を受けず、受け流して回避している。
二人共反撃の手を出し、ケイトもちゃんと援護出来ている。
モンスターは見た目通り力もあって素早い、けど、三人は戦えている。
ミックの攻撃は軽いけど、ちゃんと目や鼻などの急所を的確に狙い、ヘイグナーは足と顔を狙う。
時折大振りの一撃を体にも当てている。
ケイトは主に炎の魔法で目を狙い、さっきの様な連携は取っていない。
今は一撃よりも手数を優先しているって事かな?
殆ど一方的に攻撃を仕掛けている様に見えたけど、モンスターの一撃がミックに当たって壁に叩きつけられる。
頃合いかと思い前へ出ると「まだ早い」と言ってミックに止められる。
ミックはすぐに立ち上がった。
少し後方に下がってケイトに魔法をかけて貰う。
前へ出ているヘイグナーはモンスターに体当たりをして時間を稼いでくれたみたいだ。
ミックが「いけるぜ!」と声をあげてヘイグナーと入れ替わる様にして前へ出て行った。
ケイトは後ろへ下がって来たヘイグナーにも魔法をかけた。
モンスターの動きが少し鈍った様に感じる。
二人は畳み掛ける様に苛烈な攻撃を仕掛けた。
モンスターが怯んで後ろへ下がった。
そこへ、ヘイグナーはまた体当たりをして壁に押さえつける。
ケイトが魔法を放ち、それをミックが剣で受け取ってモンスターの体に突き立てる。
モンスターの断末魔の叫び声がダンジョン内に響きわたる……モンスターは動かなくなった。
二人はモンスターにもう一度止めを刺してから爪や角、牙などを剥ぎ取っていく。
そして、ケイトの持ち物も余裕がなくなって来たので、これから来た道を引き返す事となった。
階層を上がろうとしたその時、またドシドシと言う足音が聞こえる……
前から来る。
私は後方へ下がり、ケイトの護衛に回る。
ミックとヘイグナーは再び臨戦状態へと移行する。
さっきと同じモンスター……でも、さっきのよりも大きい。
二人は先程と同様に戦うけど、疲れているのか動きが鈍い。
ケイトも補助の魔法を使っているけど、さっきよりも効果が薄い様子だ。
それでも三人は諦めずに戦っている。
そして、ヘイグナーは攻撃を受け止めきれずに膝をつき、ミックも攻撃に被弾して壁に叩きつけられる。
すぐに立ち上がりはしたものの、次の攻撃を避ける術はない。
ケイトも魔力が切れたようだ。
「ミリア、力を貸してくれ」
私はその言葉を待っていた。
まあ、声を掛けられなくても次にモンスターが攻撃に移ったら問答無用で手を貸すつもりだったけど……
私は素早くモンスターの懐へ入り、全力で殴った。
さて、何発耐える?
そう思っていたのに……
モンスターはその一撃で風穴が空き、断末魔を上げる間も無く倒れた。
なんという事だろう。
ミックとヘイグナーが命がけのこのダンジョンでも私は敵無しのようだ。
ヘイグナーは重い身体を持ち上げ、上の階へと大笑いしながら登って行った。
ミックもモンスターから取れる物を取ってケイトに渡し、笑いながら上の階へと上っていく。
二人共どんな気持ちなのだろうか?
私はケイトと一緒に上へと上がり、皆で来た道を引き返す。
そして扉の前でヘイグナーがベルを鳴らし、ダンジョンの外へ出るともう辺りは暗くなっていた。
あっという間だった様に感じたけど、ダンジョンにいた時間は思いのほか長かったようだ。




