大人のお店に行く
私達はジョエルの屋敷へと戻り、皆でヘイグナーの部屋へとやって来た。
少し聞きたい事があったからだ。
「ダンジョンの先には何があるの?」
「より珍しい素材。
もっと強いモンスター」
ヘイグナーの言う通りなら、もっと深くへ行けばそれだけお金も稼げる。
そして、あの冒険者が私と同じ力を持っていたのだとしたらもっと深くまで潜っていてもおかしくない。
「あそこへは上級冒険者でも立ち寄らないって言ってたけど、そう言う人達ってどれくらいいるの?」
「この街のギルドなら一チームだけだ。
人数にすると6人」
倍の人数か……それならミック達でもあそこでしばらく滞在する事は出来そう。
つまり、一部の上位冒険者とミック達の実力にそれ程差はない。
「もっと深い所まで行ける冒険者は?」
「いるにはいる。
だが、三層より先に行って帰って来られた奴は三人だけだ。
世界でな」
世界でたったの三人?
たぶん私なら行けそうだけど、そう聞くと一人で行くのは怖いな……
「その人達に会えたりはしない?」
「世界中を旅するなら一人くらい会えるかもしれない」
三人共世界中を旅してるって事かな?
そう言えば冒険者ってランク分けされているんだっけ。
「Sランク冒険者ってこの街にいるの?」
「Sランク冒険者はその三人だけだ。
ああ、一人この街へ来ていたそうだが、恐らくもういない」
「それってサメディ―って人?」
「よく知っているな。
冒険者になりたいのか?」
「ううん。
私の力の事が知りたくって」
「そうか。
サメディ―の事が知りたいならボスに聞くといい」
「ええ? サメディ―とジョエルは知り合いだったの?」
「いや、知り合いでは無い。
たが、サメディ―を良く知る女を知っているはずだ」
サメディ―を知る女の人か……
私は「ふーん」と相槌をうって、ジョエルの元へと向かった。
◇
「サメディ―の事ねぇ……」
「知っちゃ駄目?」
ジョエルはあまり答えたくはなさそうだ。
ただの興味本位だし、別に答えて貰わなくてもいい。
それに、その気になれば自分で情報を得る事も出来るだろうし……
「一応俺も聞いてみたんだ。
しかしまあ、サメディ―って野郎は秘密主義者でな。
肝心な事は秘密にしてるらしい。
一応聞きたいなら直接聞いて来な。
これがその女のいる場所だ」
ジョエルは私に一枚のカードをくれた。
これは……なんだろう?
ジョエルに聞くとラルフに連れて行って貰えと返された。
仕方ないのでラルフを捕まえてこのカードを見せる。
そして、その人の所へ連れて行って欲しいとせがんだ。
「いやいやいや……これ、太客に渡す名刺じゃねーか……」
「名刺?」
「まあ、身分証みたいなもんだ」
「客って事はお店をしている人って事?」
「そうだけど、大人のお店のやつだな」
「大人のお店?
私じゃ入れない?」
「大将が渡したんなら別にいいかー……
連れて行ってやってもいいけど、行きたいのか?」
「行きたい」
ラルフは大きなため息を吐いた。
「教育によくねえなぁ」と呟きながら私の服を選んでくれている。
大人の店という事で、それなりの服装をしていかなければならないらしい。
ラルフもビシっとした服装に着替えている。
私もドレスを着せられた。
おじさんの所で来たドレスよりもずっと可愛らしい。
ラルフに連れられて大通りを進んでいく。
この辺りは兵士が見回りをしていて、物乞いをしていた頃は近づく事も出来なかった。
しばらく進むと、私と同じようにドレスを着た女性達が居る。
本当にこんな服を着て出歩いているのかと目を疑う。
これを来て出掛けるとラルフが言った時には正気か疑ってしまったけど、本当にドレスを着て歩いている。
ここに来るまでドレスはお人形専用の服かと思っていた。
初めてみる街並みに、私はキョロキョロと辺りを見回しながら歩いている。
ラルフが転ばない様に手を握ってくれた。
どの道をどう通って来たのか覚えていないけど、目的の場所へと辿り着いた様だ。
大きな看板。
そして、入り口にはビシッとした服装の男性が立っている。
ラルフはその人に近づき、話をしている。
私は少し離れた所で待つように言われた。
しばらくするとラルフが手招きをしたので、駆け寄ると店の中へと案内される。
ここはどこだろう?
おじさんが見せてくれた綺麗な部屋に似ている。
店内は明るく、そして赤い。
絨毯やよく分からない飾りだらけの照明器具。
天井を見上げると何の為にあるのか分からない赤い布がロープを引っ掻けているみたいになっている。
ここは別世界だ。
私の知っている場所とは違い過ぎる。
あっけにとられている私の手を誰かが引いてくれている。
思わず誰だ?と思ったけど、ラルフだった。
ラルフも男の人に案内され、店内の奥にある部屋へと通された。
部屋の中へ入るとここも別世界。
そして、一人の女性が私達を出迎えてくれた。
ものすごい美人。
それに、私と違って露出の多いドレスを着ている。
すごく大人っぽい。
「こちらへどうぞ」と言われ、私とラルフは椅子へ座る。
その人は「椅子が無いので私はこちらに」と言って地べたに膝をついて座った。
こんな身分の高そうな人を床に座らせたら駄目だと思い、ビックリした私は急いで椅子から下りて「こっちに座って下さい」と言うと「そう言う訳には」と言って譲らない。
ラルフは「それじゃあ俺もこっちでいいや」と言って三人で床に座ると、女の人は楽しそうに笑い声をあげる。
「ご挨拶が遅れました。
私はエリーゼと申します。
お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「私はミリアともうします。
こっちはラルフともうします」
「おいおい、何緊張してるんだよ……
一応こっちが客なんだから、敬語じゃなくてもいいんだぞ」
私は困惑している。
どう見たってエリーゼさんはラルフより身分の高い人だ。
客だからと言ってそんな無礼が許されるのだろうか?
「ラルフ様の言う通りですよ。
緊張なさらなず、ミリア様も気を緩めてお話したい事を言って下さい」
ミリア様? 私がドレスを着ているからだろうか?
そんな事はないと思う。
どう見てもエリーゼさんの来ているドレスの方が凄い。
それならラルフが身分を偽っている?
その可能性は高い。
私達はエリーゼさんを騙している?
なんともいたたまれない気持ちになるなぁ……
とにもかくにも目的を果たそう。
そして、ここは落ち着かないし早く帰りたい。
この人にサメディ―の事を聞かなくては……
「あの、サメディ―って人の事を聞きたいです」
「本当なら他のお客様の事を話すのはいけない事ですが、特別に教えて差し上げます。
ミリア様がとても可愛らしいので。
特別ですよ」
ボーっとしていた。
ドキドキしていた。
この人を見ているとそんな気持ちになる。
私はここへ何をしに来たのかを思い出した。
「さ、サメディ―って人の事を聞きたいです」
「ミリア……さっきも同じ事いっただろう。
具体的に何が聞きたいのか言わないと答えずらいだろう」
「大丈夫ですよ。
あの方は……」
ふいにエリーゼさんはラルフの顔を見ると、即座にラルフは首を横に振った。
何のやり取りだろう……?
エリーゼさんの視線が再び私の方へと返って来る。
「あの方は自分の事は何も語らず、ただ私の事を求め……いえ、褒めて下さいました。
最後に私を指名して頂いた際には、元の世界へ帰るとおっしゃっていました。
そして、安らかな眠りにつくとも……
少し思い詰めた様なお顔だったので、私も行方は気になっていました」
「んー……サメディ―って人は力について……とか、ダンジョンがどうとかって言ってましたか?」
「そう言った事はお話になられませんでしたね」
「そうですか。
じゃあ良かったです」
「ミリア……お前、全然頭回ってねえじゃねえか。
要するに、エリーゼからは何の情報も得られないってわけだな」
「お役に立てず申し訳ございません」
「エリーゼさんは悪くないです。
謝らないで下さい」
ラルフは立ち上がり、私の手を引く。
エリーゼさんは笑顔で手を振り「また機会がありましたら、宜しくお願い致します」と言って見送ってくれた。
夢見心地。
まさにそう言う気分だった。
こんな世界があるのだと知った私はこの先何を夢見るのだろう?
「おい」
私は思わず叫んだ!
きっと「にゃああ」みたいな変な叫び声をあげた!
「なんだなんだ!?
俺の方がビックリするだろう」
「急に耳元で話しかけられたらビックリするでしょ!」
「いや、手を離したら急に立ち止まったからどうしたのかと思って話しかけたんだろう……
こっちの空気に当てられたって感じだな」
「空気に当てられた?」
「感化されたって言うか、環境の飲まれたと言うべきか……
まあ、物乞いやってたんならこっちの景色なんて想像も出来なかっただろう?」
「ん-……たぶんそれで合ってる」
ラルフは私の頭を撫でた。
何か言いたそうにしていたけど、何も言ってくれなかった。
少し寂しそうな顔……なぜだかわからないけど、私の目にはそう映った。




