作戦会議
外が夕焼けで赤く染まり始めた頃。
ヘルガはダヴィド、エヴァンジェル、ティナの3人から偵察報告を受けていた。
「王城の警備ですが、表面上は貴女が見せてくれたあの資料と遜色ありませんでした。中に関しては流石に覗けなかったので内部の警備は申し訳ありませんが、解りません」
ダヴィドが工作員として報告すれば、ヘルガは「ありがとう」と、短い感謝をした。
すると、今度はエヴァンジェルが報告してきた。
「内部の気配に関しては貴女の言う通り、アンデッドの気配多数と2人のクソ。そして、2人の生者の気配を確認した。勿論、表面と言うか外回りの警備もアンデッドだったわ」
永い年月を生き、戦い続けた真祖の吸血鬼として気配から内部を読み取ったエヴァンジェルが報告すれば、ヘルガはあの情報屋から貰った資料を取り出して見せながら尋ねる。
「アンデッドの位置は解る?」
「多過ぎて解らないわ。でも、貴女の言うクソ2匹の位置は覚えてる」
そう返すと、エヴァンジェルはヘルガの資料にある王城の見取り図を指差して言う。
「私が偵察で確認出来た位置は此処と此処」
「玉座の間に1。同じフロアにある王の寝室に1か……2人の救出対象は?」
「その2人は地下から気配がしたんだけど、具体的な位置までは掴めてない」
エヴァンジェルが正直に解らない。
そう告げると、ティナがそれを修正する様にして言う。
「お二人の救出対象は地下の牢獄です。今、覗いてるんですけど……別々の房に入れられてます」
「アンデッドにされては……居ないと見た方が良さそうね。生者の気配するってエヴァ言ってたし」
ヘルガがティナを介して碩学2名の生存を確認すると、ダヴィドはティナにお願いする様に要求して来た。
「その2人の顔を此方に見せられますか?本人か?確認したいんですが……」
「そういう事でしたらどうぞ」
ティナが快諾して魔力で作った小さなモニターを2つ映し出して、別々に2人の顔が見える様にすれば、ダヴィドは確認する。
一頻り確認した所でダヴィドは報告する様に告げる。
「2人とも本人と見て問題無いと思われます」
「ダヴィドに悪いけど、2人は可能なら救出と後回しにせざる得ない。其処は申し訳無いと思ってるけどね」
指揮官としてヘルガは優先は2人の救助では無く、2匹のクソという怪物両名の殺害と儀式阻止である事を名言すれば、ダヴィドは反対しなかった。
「それは承知しています」
「ありがとう。ティナ、王都内の儀式と言うか術式に関しての報告をお願い」
「結論から言いますと、手を出すのは止した方が良いです。術式自体が厄介な代物で余計な事をすれば、手始めに勘付かれますし、1つ2つ壊すだけでは術式そのものに影響は無い可能性もありました」
魔女という魔導の専門家として残念そうに報告すれば、ヘルガは決定を下す。
「なら、大本のクソ2匹始末一択ね」
「その方が良いでしょうね。後、人柱と王都内に無数に施された小規模術式を見て解ったんですが、術者は相当な完璧主義者な可能性あります……なので、私の見立て通り、満月の夜に実行する可能性があると見て良さそうです」
王都内の術式を分析した者としてティナが術式を施した術者……恐らくは例の"魔人"は自分の見立て通り、満月の夜に実行する可能性がある。
そう報告すれば、ヘルガはその判断を信じる事を選んだ。
「なら、予定通り実行は明日で良いわね」
「とは言っても、貴女の様に考えるなら確証はありませんがね」
「其処は良いわよ。此方は全知全能な神様じゃねぇもん……流石に其処まで解ったら嬉しいけど、解らなくて当然よ」
ヘルガがさも当然の様に返すと、この遣り取りを黙って静かに見ていたマルグリットは思った事をそのまま口にする。
「本当に一介の冒険者なんすか?偵察報告受けただけで其処までの考えを巡らせるわ、作戦立案出来るわ……どう見ても歴戦の猛者。と、言うよりは名軍師にしか見えないんすけど?」
出会い最悪ならば、第一印象も最悪。
その上、具体的な作戦も無い。
そんなヘルガが意外な一面を見せるかの様に指揮官として振る舞う事にマルグリットが驚きに満ちた感想を漏らすと、隣に居たグローリヴルは言う。
「それがケレンなのよ。普段は面倒臭がりで物臭なのにこうして作戦立てたり、分析させたら下手な軍師や名将なんか目じゃない……だから、里の軍師や頭でっかちの古老達はヘルガを頼りながらも嫌ってたわ」
「嫌ってたって……あぁ、あの性格なら好かれるタイプってより嫌われるタイプっすね」
「そういう事」
マルグリットがヘルガの事を納得すると、ヘルガは2人に「テメェ等、真面目に話聞け」そう窘めてから具体的な作戦を発表した。
「やる事は単純。一言で言うなら、押し込み強盗。それか盗賊達の言う所の急ぎ働きの畜生働き……コレに尽きるわ」
「つまり、正面から仕掛ける?」
エヴァンジェルが確認する様に問えば、ヘルガは肯定する。
「そうよ。外部から何らかの干渉して術式そのものを破壊するのが難しい以上、直接仕掛けてクズ2匹をブッ殺し、術式を破壊ないし無力化するしか無いから当然でしょ?」
「それは解りました。ですが、仕掛けた時に術式を使われたらどうするんです?」
ダヴィドが当然の疑問を口にすると、ヘルガに代わってマルグリットが答えた。
「それなら多分大丈夫すよ」
その言葉に全ての視線がマルグリットに集まると、マルグリットは語る。
「あの2匹は専門とする事では極めて優秀すけど、戦いに関しての知識は自分の持つ強大な力だけでの蹂躙なんで其処のクソエルフの様に戦いに長けてる訳じゃないっす」
「つまり、戦術面はズブの素人って事?」
隣のグローリヴルが尋ねると、マルグリットは少しだけ否定して肯定する。
「ズブの素人ほどって言うよりは、予定外のアクシデントが起きたらどうする?って悩み、迷うタイプっすね……昔、殺り合った私の感想でしかないすけど」
それを聞くと、ヘルガはゲンナリして言う。
「その時にキッチリ殺しとけよ。お陰で私がアンタの尻拭いする羽目になってんだけど?」
「拭い甲斐のあるケツっすよ」
「ざけんなクソ枢機卿」
ヘルガはマルグリットに悪態を吐くと、気を取り直す様に話を続けた。
「初撃兼ねた突入は私、グローリヴル、クソ枢機卿でやる。敵には私達だけと思わせると共にあの2人に対し、私達の対処を強いる」
「それが第一段階なら、第二段階は?」
ティナが質問すれば、ヘルガは答える。
「私達が陽動も兼ねて2人の視線を向けさせてる間にティナ、エヴァンジェル、ダヴィドで転移による潜入。最優先は術式の無力化。可能なら"魔人"の対処ないし処理」
「死を弄ぶ者は?」
「それは私達で殺る。幸い、リッチーであっても地獄に送れるだろう聖職者が居るから」
ヘルガは答えると、マルグリットの方を見て指揮官として尋ねる。
「クソデブを除霊出来る?」
「出来ないとは言わないすけど、動きを封じてくれるならっ条件が付くっすね」
「なら、それは私と姉さんでやるから問題無いわね」
そうしてクソデブこと"死を弄ぶ者"を無力化する方法と手段が決まると、エヴァンジェルが手を挙げた。
「なら、"魔人"は私が殺っても良い?」
「殺してくれるなら助かる。寧ろ、殺して」
ヘルガが指揮官として承諾すると、エヴァンジェルはティナとダヴィドの方を見てお願いする様に言う。
「良かった。あ、ティナとダヴィドは術式の無力化をお願い……私は魔人を抑えとくから」
エヴァンジェルがお願いする様にしてティナとダヴィドの2人に術式の無力化を頼めば、2人は直ぐに承諾した。
「解りました。術式は私の方で何とかしてみるので、ダヴィドさんは周囲の警戒をお願いします」
「了解です」
こうして作戦の具体的な内容が決まると、ヘルガは実行の時を告げる。
「決行は明日の昼」
その言葉にグローリヴルを除く面々が驚くと、ヘルガは理由を語る。
「夜にしたい所だけど時間が無い。後、奴等が油断してるか、飯時に仕掛けて殴ってやる方が浮足立ってくれるかもしれないってのも大きいわね」
ヘルガの語った理由に面々は一応は納得すれば、作戦会議は終わりを告げるのであった。
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