希望的観測は負け犬のする事
"押し込み強盗"する事が決まってからは各人が思い思いに過ごしていた。
ティナは使い魔を介して王都を監視し、それをダヴィドが補佐。
エヴァンジェルはグローリヴルから了承を得た上で血を補給し、マルグリットは頭を抱える。
そして、ヘルガは資料と報告を照らし合わせながら細部をどうするべきか?それを考えている。
完全に出たとこ勝負。
勝ち目は薄い。つうか、下手すると無い。
それ以前に読み違えて今か今夜に実行された時点で敗北確定。
その時はクソ2匹にプラスして勇者召喚で来た奴等を殺さなければならない。
指揮官として非情に徹する深刻そうな面持ちと共にヘルガが大きな溜息を漏らすと、マルグリットが声を掛けて来た。
「何、そんなに深刻そうな顔してるんすか?」
その問いに対し、ヘルガは答える。
「勝ち目の薄い戦いだから頭抱えてるの」
「勝ち目薄いんすか?」
「薄いどころかブッチャケ無いんじゃね?ってくらいよ」
ヘルガのオブラートで包んだ答えにマルグリットが益々訝しんでしまう。
だが、ヘルガは気にせずにオブラートを自ら剥がす様に語る。
「あの明るい時間にも関わらず、碩学2人は牢内。未だ研究が完成してないなら研究させてるべき所なのに何故か牢内に居る……」
「つまり、疫病の悪用は実現可能な所まで進んでると?」
恐る恐る問われれば、ヘルガは肯定する様にして仮説を答えていく。
「そう。悪い方向に考えるなら研究は完成してしまったと見るべき状況。寧ろ、そう見ない奴が居たら救いようの無いバカすらある……」
合理性と共に悲観的に語ると、マルグリットは呆れてしまう。
「アンタ、物事を良い方向に考えられないんすか?」
「希望的観測って奴は負け犬のする事だからねぇ……こういうクソ厄介でクソ面倒なクソ仕事でそんなバカやったら成功するものも成功しないし、それ以前にそんな余裕も希望も無いから」
穏やかな笑みと共に返されてしまうと、マルグリットは頭を抱える様にして益々呆れてしまうしか出来なかった。
そんなマルグリットにヘルガは最悪に備える為に敢えて問う。
「勇者召喚が今や今夜に行われ、それが成功と言う形で結果を残したとして……召喚された勇者の扱いをどうすべきかしら?」
その問いにマルグリットは固まる。
すると、ティナの監視を補佐しながらも会話に耳を傾けていたダヴィドは告げる。
「帝国の立場としましては、今後を考えるならば召喚されてしまった勇者達の処理をしてくれる方が正直言って助かります。なので、私は、私の"独断"で始末する様に貴女へ"強く要求"します」
ダヴィドの独断と要請に対し、この時だけはヘルガとマルグリットは心の中で互いに「うわ、大人の対応って奴だ」そう呆れてしまう。
だが、ダヴィドの立場。更には帝国の立場や訪れるだろう最悪の情勢を考えるならば、責められる事じゃない。
そして、マルグリット自身も教国の枢機卿と言う立場ある人間。
それ故にマルグリットは……
「感情や本音としてなら保護して欲しいっす。しかし、それが無理な上に貴女の言う黒幕達の手に渡った危険性と被害を考慮するならば、枢機卿として正式に殺害を"強く"要請します」
現実的でシビアな判断を責任ある者として、枢機卿としてハッキリ命じる様に要求した。
本来ならば大人として、立場ある者として守るべき道徳と倫理。
其れ等を必要ならば覚悟と共に自ら踏み躙る決断を2人の立場ある大人が決断すると、ヘルガは何も返さなかった。
だが、その沈黙は了解と暗に告げていた。
それ故に2人はただ静かに頭を下げる。
すると、そんな重い空気を気にせずにエヴァンジェルが思い出した様にティナとマルグリットに尋ねた。
「ねぇ……儀式が発動したら、エレンの言葉通りなら魂すらも絞り尽くすのよね?」
その疑問にティナはエヴァンジェルの方へ振り向いて肯定する。
「えぇ、私の見立て通りならばエレンミアさんの言う通り、数え切れぬ人達の魂すらも絞り尽くす……死後の安寧すら奪われる唾棄すべき術式ですね」
ティナの解説にエヴァンジェルを除く面々の顔が青褪めてしまう。
だが、エヴァンジェルは気にせずに己の好奇心を満たすかの様に続ける。
「ならさ、死霊使いである死を弄ぶ者は魂が完全に喪われた無数の遺体をどうやって支配下に置くの?」
エヴァンジェルの疑問にヘルガとダヴィド。それに血を吸われて恍惚と酩酊に襲われるグローリヴルが大きな疑問と共に首を傾げれば、死霊関連の知識を専門的に持つマルグリットも同様に首を大きく傾げた。
「それだと死霊使いであっても、亡くなられた方々を操るのは不可能っすね」
マルグリットが口にすると、ヘルガは指揮官として尋ねる。
「どう言う事?」
「死霊使いはその言葉通り、死者の霊魂を支配下に置いて操るっす……しかし、その魂が御遺体から離れたばかりか、燃える薪の様に消えてしまえばその魂を介して御遺体を操るなんて所業は不可能に近いッすよ」
教国で最低でも150年はその手の問題を解決する事に携わってきた専門家として、マルグリットが自身の知る死霊使いの理論を口にすると、ヘルガは何かを思いついた顔と共にティナの方を見て尋ねる。
「ティナ。マリィが今言ったのは事実?」
「はい。模範解答と言っても良いくらいです」
ティナが魔女として肯定すると、ヘルガは続けて尋ねる。
「ならさ、魂が無いなら他所から用意するなりして遺体にセットして死霊使いとして操れる?」
とんでもなく嫌な問いをぶつけると、ティナは渋々ながらも認めた。
「不可能とは言いません」
「やっぱ出来るのか。そうなると……」
其処で言葉を止めると、ある事に気付いたヘルガはまたも尋ねる。
「例えばとしてだけどさ……魂が喪われた御遺体に他の魂を植え付けて御遺体を操り、その御遺体の頭に眠る知識とか経験、技術。それに特殊な召喚をそのまま生前の様に扱える?」
その疑問にマルグリットばかりか、ティナも流石に何言ってる?頭がイカれたのか?そう言わんばかりの表情と目を向けてしまう。
そんな2人の美女の珍しい表情を見ると、ヘルガは直ぐに理解して笑みを浮かべる。
「成る程。つまり、其処は専門家ですら未知の領域って訳だ」
「そうなりますね」
ティナが認めると、マルグリットは問う。
「何を思いついたんすか?」
「あのクソデブやら魔人にすれば、私は極めて珍しい大事な研究対象。更に黒幕は私の全てを欲している……」
其処で言葉を止めると、ヘルガは突然笑い出した。
それはもう愉快に笑い続けた。
突然1人だけ笑い続けるヘルガに対し、面々が首を傾げていると意識を気合で正気に戻したグローリヴルは皆に言う。
「あそこまで愉快に笑ってるんなら……ケレンは勝ち目を見つけたって事よ」
その言葉に皆は驚きを見せる。
しかし、当の本人は狂気にも似た笑いを続けている。
それから暫くして笑いが止まると、ヘルガは不適な笑みと共に告げるのであった。
「勝てるぞ。賭けは私の勝ちだ」
ブクマと星評価。
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