ゼロイン
無駄に出来る時間は無いに等しかった。
だから、荷物を廃坑内部に運び終えてから私はダヴィドとティナ。それにエヴァに人柱とツァールス王城の調査を含めた偵察を命じた。
残った姉さんとクソ枢機卿。
そして、私は持参した銃のゼロイン作業を進めていた。
「アホみたいに五月蝿いっすね。耳塞がなかったら鼓膜死んでるっすよ?」
呆れるマルグリットを他所に地面に伏せてHCARを発砲するヘルガに向け、グローリヴルは視線を300メートル先に置かれた紙製のマンターゲットをジッと目を細めて見詰めながら言う。
「2発目。1発目と同じ右斜め上命中」
それを聞くと息を整えていたヘルガは静かに引金を引いた。
またも耳を劈く銃声が辺り一面に響き渡れば、1発目と2発目の弾痕の直ぐ近くに3発目が穿たれる。
「3発目。2発目付近に命中」
それを聞いて構えを解いたヘルガは安全装置を掛けると、グリップから右手を離して静かにリアサイトのダイヤルを回し始めた。
カチカチと音をさせてアイアンサイトを調整すると、マルグリットは興味深そうに見詰めながら尋ねる。
「コレって何してるんすか?」
「狙って撃てば正確に当たる様にする為の準備」
グローリヴルがゼロインという専門用語を抜きに噛み砕いて解りやすく答えると、マルグリットは当然の様に浮かび上がった疑問を口にする。
「弓とは違うんすか?」
「全然違うわね。弓の方が静かだし、素直だし、御機嫌取り大変じゃないし……」
「武器の御機嫌取りって……手入れの事すか?」
「そう。手入れ……ケレンの銃って奴はね、可能な限り手入れ出来るならしないと臍曲げるのよ。どっかの誰かさんみたいにね」
グローリヴルが銃の整備は面倒臭いと答えると、それに答える様にまたも耳を劈く銃声が響いた。
耳を塞いでなかったマルグリットが銃声に驚き、涙目になる。
だが、耳栓をしていたグローリヴルは気にせずに言う。
「命中。真上」
その答えが返って来た。
同時に銃声。
またも的の中心の真上に命中。
グローリヴルが命中した事と弾着位置を告げれば、またも銃声。
「命中。2発目左」
先ほどと同じ様に弾着位置を告げられれば、ヘルガはまたもリアサイトのダイヤルを回した。
程なくして調整が終わると、ヘルガは引金を静かに優しく引く。
「命中。真ん中」
銃声。
「命中。真ん中」
銃声。
「命中。真ん中」
グローリヴルから3発全て、マンターゲットの中央に命中した。
そう聞かされると、ヘルガはスッと狙いを定め直して引金を引いた。
「命中。見事に眉間をブチ抜いてるわね」
呆れ混じりに眉間に命中した事をグローリヴルが言えば、マルグリットは訝しんでしまう。
「本当に当たってるんすか?」
マルグリットは不死者ではある。
だが、視力は常人と変わらない。
だから、マルグリットには300m先に設置された人間大のマンターゲットはゴマ粒よりも小さい。下手すると砂粒程度にしか見えなかった。
すると、グローリヴルはスッとモノキュラーを取り出し、マルグリットへと差し出す。
「どうもっす……うお!滅茶苦茶クッキリ見え……うわ、マジで当たってる」
現代地球のモノキュラーが異常な程にクッキリ見える事に驚き、更には自分の目ではゴマ粒よりも小さく見えるマンターゲットに全弾命中してる事にマルグリットはドン引き。
しかし、ヘルガは気にせずにHCARの上部にあるレールに用意していたホロサイトを取り付ける。
「このまま続けるの?」
グローリヴルがホロサイトの取り付けと固定を手でグッグッとやって確認するヘルガに問えば、ヘルガは当然の様に肯定した。
「時間が惜しいから」
「なら、止めないわ。マルグリットさん……耳塞がないと耳死ぬから塞いだ方が良いわよ」
その言葉にマルグリットが慌てて耳を両手で挟む様にして塞げば、グローリヴルはヘルガの肩をポンと叩いて合図する。
それから直ぐに銃声が響き、グローリヴルの声がする。
「命中。左下」
その後も先程と同じ様に3発撃ってはサイトを調整。
調整したらまた3発。
そんな繰り返しをして漸く、ホロサイトのゼロインも完了した。
其処で一息入れる様にして休憩すると、耳から両手を離したマルグリットはグローリヴルから受け取ったモノキュラーで再びマンターゲットを見る。
孔だらけのマンターゲットを一頻り見詰めてからモノキュラーを目から離し、自身の目だけで見詰め、またモノキュラーで覗く。
その繰り返しを何度もしたマルグリットはゲンナリとした声を漏らしてしまう。
「その銃って武器、デタラメ過ぎません?魔法も技量もないのにアレだけ遠くにある的を容易く何度も当てれるとか……こんなのがあって、兵全てに行き届いたら戦が根本から変わるっすよ」
長い年月を生きる不死者として本心から銃の脅威を口にすると、グローリヴルは思い出す様にして言う。
「それと似た事、私もさっきティナに言ったわ……ティナはマジかって顔してた」
「そりゃ、戦知ってる奴なら誰だってなるっすよ……寧ろ、何でアンタはそれを当然の様に言ってるんすか?」
恐れを浮かべるマルグリットから問われると、グローリヴルは答える。
「だから、母さんは幼い頃のケレンにコレを使うのを禁じた。で、20年前に使うのを許して、私も戦士だから遠い未来に何れ来たる戦いを学んだ……だからかしらね」
「コレが当たり前になる世が来る。そう思ってるんすか?」
その問いにグローリヴルは答えなかった。
だが、ヘルガは違った。
「直ぐにはならないし、私もバラ撒く気無いから安心しなさいよ……って、言いたい所だけど、後者に関しては安心出来る要素が無いかもなのよねぇ」
ヘルガの答えにマルグリットは意味が解らずに首を傾げてしまう。
だが、直ぐに思い出した。
「死を弄ぶ者……」
「そう。あのクソデブ……厳密にはクソデブと魔人雇った、とびきりのロクデナシね。ソイツが私のコレに滅茶苦茶興味を示してる。つうか、狙ってる」
さも当然の様に言えば、マルグリットは言葉を失ってしまう。
そんなマルグリットに対し、ヘルガは言葉を続ける。
「だから、そうなる前に手始めにクソデブをどんな手を使っても始末する。勿論、クソデブのお友達である魔人ってクソもブッ殺す……そうする事で何処かで成り行きを見てるだろうロクデナシのクソに向けてメッセージにする」
「メッセージすか?」
「そう。メッセージ……クソ嘗めた事すんじゃねぇってね」
黒幕は未だ姿を見せない。
何なら、痕跡すら見当たらない。
だからこそ、あの会議の場でダヴィドはそんな奴は居ないのではないか?そう口にし、意見として挙げたくらいだ。
しかし、ヘルガには確信があった。
だからこそ、今回の依頼を何としてでも成功させたかった。
そんなヘルガを他所にFN-MAGに弾を込めていたグローリヴルは地面に伏せると、備え付けの二脚を立てて地面に据えたFN-MAGを構えながら言う。
「ケレン。お願い」
「了解。枢機卿様、耳塞いだ方が良いわよ?コイツは私のよりもクソ煩いから」
それを聞いた瞬間。
マルグリットが直ぐに耳を塞げば、けたたましい銃声が辺り一面に広がる。
5発連続で放たれた曳光弾交じりの7.62NATOがヘルガの孔だらけにしたのとは別のマンターゲットに5つの孔を穿つと、ヘルガは先程までのグローリヴルの様に告げる。
「5発命中。全弾左上」
その言葉にグローリヴルは何も答えずに息を整えると、アイアンサイトを介して300メートル先にあるマンターゲットへ向けて再び引金を引く。
またもけたたましい銃声が連続で響き渡る。
その様子にマルグリットは何れ来たる遠い未来。
この銃という武器が当たり前の世が訪れれば、戦場は地獄と成り果てる事に心の底から恐れるしか出来なかった。
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