先ずは落ち着……ふざけんなクソが!!
ヘルガが珍しく青筋を浮かべて本気で怒りを露わにしてるのを直接目の当たりにすると、グローリヴルは部下として、姉として窘めた。
「ケレン、先ずは深呼吸して。頭に血が昇った状態で仕切られるのは御免よ……」
その言葉に従う様にしてヘルガが深呼吸を繰り返して苛立ちと怒りを鎮めると、ダヴィドは指揮下にある者として報告する。
「事態が切迫している事は、ティナさんとグローリヴルさんから聞きました」
ダヴィドの言葉にエヴァも頷いて事態が切迫している。
皆が既に認識の共有を済ませいる事を示せば、少しだけ落ち着いたヘルガはボヤく様に言う。
「本当ねーお陰で立ててた作戦が根本から崩壊。オマケに時間も一切無い……此処まで酷い有様だと、計画とか作戦を立てるのがバカらしくなって来るわね」
シニカルに乾いた笑いを浮かべながらボヤくと、ヘルガは指揮官として改めて告げる。
「事態は切迫しているどころか、最悪も同然。今この時間に儀式が実行されても驚かないし、そうなるよねー……って言う状態」
「だからって、枢機卿に武器を向けて本気で殺ろうとするのはどうかと思いますよ?あの時、本当に殺るつもりだったんですか?」
ティナが常識人の様に呆れ、本当に殺すつもりだったのか?それを問うと、ヘルガはさも当然の様に答えた。
「えぇ、作戦の障害になるなら殺るつもりだった。でも、マクスウェルがとりなしてくれたから撃たずに済んだ……だから、今の内に荷物を積み込んで移動するわよ」
その答えにティナは頭を抱えてしまう。
しかし、実際問題として残された時間は既に無い。
あの枢機卿もヘルガに納得していない……筈だろう。
ならば、余計に面倒臭くなる前にさっさと移動し、作戦を進める方が良い。
そんな悪党の如き判断を下せば、ヘルガは爾後の行動を下達する。
「今から荷馬車を借りてくるから直ぐに運び出せる準備しといて。あ、姉さん……悪いけど、ゼロイン調整は現地でやるしか無くなってるから其処は諦めて」
そう告げると、ヘルガは部屋を後にした。
それから直ぐにギルド長であるブライディの居る執務室へ無礼にもノックせずに入ると、顔を上げたブライディは嫌な予感を覚えながらも嫌味や皮肉を込めて尋ねる。
「ノックぐらいしろ。それで今度はどんな無茶振りする気だ?」
「私、無茶振りするよりされる側なんだけど……荷馬車貸して欲しいの。幌付きの」
「荷馬車?そう言う事なら俺に言わずに下の受付に言え、それとも他に用件があるのか?」
ブライディがとても嫌な予感を覚えながら尋ねると、ヘルガは平然と宣う。
「もしかしたら、私を逮捕しに衛兵か異端審問官が来るかもしれないから来たら、正直にありのまま答えといて」
その言葉にブライディは頭にとても辛い痛みを覚えてしまう。
「…………俺は何も聞かなかった。お前が連れてきた面々に関しても、俺は何も知らないし、聞いてない。それで行くからな?」
だが、直ぐに大人として少しだけ汚い保身を躊躇い無くする事を告げれば、ヘルガはそれしても当然と言わんばかりに言う。
「それで良いわよ。私が勝手に進めた事なんだから……と、言う訳で私はもう行くから、兵隊が来ても何も知らんと言っといて」
「それしか言えねぇよ。実際、お前が勝手に進めてんだからよ……」
ブライディにすれば、上からは詳しく聞かずに行動を黙認しろ。
ヘルガ本人は一応は筋を通す様にして何をしたのか?今みたいに概要だけしか報告しない。
そんな状態で詳しい事を報告しろ……と、言う方が無理難題であった。
だからこそ、ヘルガは何も言わずに執務室を後にすると、下のエントランスに降りて受付で手続きを進める。
「幌付きの荷馬車を借りたいんだけど良いかしら?」
「でしたら、この書類に記載をお願いします。それと保証金の支払いもお忘れなく」
受付の女性スタッフが優しげな営業スマイルと共に告げれば、ヘルガはさっさと書類を埋めていく。
そして、指定された保証金を支払えば、受付スタッフは書類に不備が無い事を確認してから告げる。
「書類に問題はありません。保証金も支払われましたので裏手に用意して置きます」
「ありがとう」
短い感謝を済ませて受付を後にすれば、ヘルガは部下達の待つ部屋に戻り、指揮官として下達した。
「荷物はギルドの裏に運んで。その後、裏手に馬車が来次第、積み込んだら出発……ティナ、馬車込みでの転移はどの距離までなら出来る?」
指揮官として確認すると、ティナは当然の様に答える。
「ツァールス王都まで簡単に行けますよ」
「なら、ダヴィド。選定は終わってる?」
「終わってます。あ、地図は此処に」
その言葉と共にダヴィドが帝国の諜報と軍の測量担当が潜入し、合同で作り上げたツァールス国内の全体地図と王都周囲を詳しく描いた地図を用意すると、具体的な位置を示した。
「この場所に地下水脈にブチ当たって廃坑になった銅山があり、現在は人気が皆無。鍵は掛かってますが……貴女の事ですから容易く処理出来るんでしょう?」
「えぇ、丁度良いわね。王都からも近くて……ティナ、現地に先行して周辺の安全確保。それから周囲に認識阻害ないし、人避けの仕掛け出来るならして」
命じられたティナが「解りました」の言葉と共に姿を消すと、ヘルガは残った面々と共に荷物を運び出していく。
冒険者ギルドの裏手に荷物を全て運び出し終えると、2頭の馬に引かれた幌付きの荷馬車が来た。
その荷馬車を操る御者でもある冒険者ギルドの職員に受け取りの書類にサインを求められると、ヘルガは直ぐにサインする。
そんなヘルガを他所にエヴァンジェルとダヴィド。それにグローリヴルが荷物を荷馬車に積載していると、裏口の戸が優しく開いた。
ヘルガは振り向いて裏に来たマルグリット枢機卿とマクスウェル司教を見ると、意外な反応を見せる。
「さっきは御免なさい。言い訳する気は無いけど、頭に血が昇ってたし、滅茶苦茶焦ってた」
本心から申し訳無さそうに謝罪すると、ヘルガは指揮官として、依頼を請け負ったプロとして改めて告げる。
「でも、マルグリット枢機卿……貴女の同行は絶対に認めません。例え、それがマクスウェル司教やトレモアス枢機卿の立場を悪くする行いであったとしても、請け負った冒険者として貴女を危険極まる場所へ連れてくのは冒険者として言語道断の行いなので」
プロとして御偉いさんを危険極まる場所に連れていけない。
そう告げられると、マルグリット枢機卿は少し意外そうにしながも普段の軽いノリで返して来た。
「そこ、何とかならないすか?」
先程までの真面目かつ丁寧な口調が嘘みたいな言葉遣いをヘルガは気にせずに斬り捨てる。
「駄目です。それが理由で私を監獄に送るなり、処刑するなりしたいならどうぞ御勝手に」
「そんな事しないっすよ。それでも私を同行させてくれるならさっきの無礼極まる暴言と殺人未遂無しにしますし、2人を利用してる件に関しても不問にするっすよ?」
「なら、終わった後に私を殺せ」
話は終わり。
そう言わんばかりにまたも斬り捨てると、グローリヴルは積み込みと搭乗完了と報告。
それから直ぐにティナが戻ってくれば、御者台に座るダヴィドの隣に乗り込んだ。
その後。ヘルガがティナに転移を命じればその場から完全に姿を消そうとする。
「ふざけんなクソアマ!!!」
怒髪天と言えるヘルガの怒鳴り声が周りじゅうに響き渡る。
それに御者台に飛び乗ってたマルグリット枢機卿が耳を押さえ、顔を顰めてしまうと程なくして荷馬車は消えた。
そして、独り残されたマクスウェル司教は今回の面倒に対し、ウンザリとした溜息を漏らすと、一杯やるか……と、帰るのであった。
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