邪魔すんなクソボケ。ブチ殺すぞ
「つまり、時間は無い。明日には作戦を決行し、成功させなければ最悪の展開になる……そう言う事なのかい?」
トマーゾ殿下が確認する様にして問えば、ヘルガは肯定し、改めて説明する。
「そう。私の雇った優秀な人材が偵察してくれたお陰で判明したの……勇者召喚儀式は何時でも実行可能な状態にあり、早急に阻止しないと最悪の事態になるって」
それを改めて聞くと、トマーゾ殿下ばかりか、共に居たマクスウェル司教も頭に強い痛みを覚えてしまう。
そんな2人に向け、ヘルガは改めて告げる。
「だから、本当に悪いと思ってるけど、貴方達の許可とか法的な手続きとか全部ガン無視させて貰う。私が此処に来たのは雇われた者として筋を通す為……駄目とか反対とか知らないし、悠長にしてらんないから」
伝えるべき事は伝えた。
通すべき筋も通した。
そう言わんばかりにヘルガは2人に背を向けて歩き出そうとすると、執務室の扉がノックされた。
「入れ」
執務室の主であるトマーゾ殿下が許しを与えると、扉が開いてトマーゾ殿下に仕える執事が入り、用件を告げる。
「失礼します。殿下とマクスウェルに御目通りを願う、シスター・マルグリットと名乗る修道女がいらしております……如何なされますか?」
用件を告げると共に指示を仰ぐ執事にトマーゾ殿下が首を傾げると、シスター・マルグリットの名に驚きを露わにするマクスウェル司教は無礼を承知で執事に言う。
「直ぐに御通しして下さい!ヘルガ!君も居てくれ!」
トマーゾ殿下がマクスウェル司教の変わった様子に驚く。
だが、マクスウェル司教とはそれなりに付き合いがあるからこそ、トマーゾ殿下は主として執事に通す様に命じた。
そして、無駄に出来る時間が無いのに止められたヘルガは責める様な視線をマクスウェル司教に突き刺しながら尋ねた。
「ねぇ?無駄に出来る時間一切無いの理解してる?」
「解ってる。だが、今から来る人に話を通さないと面倒臭い事態が余計ややこしくなって面倒臭くなるんだよ……何で、このクソ忙しい時に来るんだよあのクソアマがよ」
珍しく悪態を吐くマクスウェル司教にトマーゾ殿下とヘルガは驚くと、その理由を尋ねる。
「そのシスター・マルグリットって何者なの?」
「一言で言うなら、枢機卿。更に言うなら、トレモアス枢機卿よりも序列は上に当たる御偉いさんでもある」
「成る程。つまり、厄介な御仁という訳か……」
トマーゾ殿下が納得した様に言うと、マクスウェル司教は辟易としながら言葉を続けた。
「基本的には良い人なんだよ?分け隔てなく人々に優しく振る舞うし、奉仕の心を持って初心を忘れるべからずでシスターとして各地を廻って人々の為に尽くし、祈ってるから……」
「なら、私は関係無いから行って良い?しつこいようだけど時間を無駄に出来ない」
「それは駄目だ。彼女が此処へ来たという事は恐らく、君が雇った2人の件を確認する為に来てる……だから、申し訳無いと思うけど、付き合ってくれ。この通りだ」
シスター・マルグリットと言う教国の大物が態々、此処へ来る理由を察したマクスウェル司教が珍しくヘルガに頭を深々と下げれば、ヘルガの逃げ道は完全に消え失せてしまった。
ヘルガはウンザリとした溜息を漏らすと、マクスウェル司教に告げる。
「頭を下げられても困る。私はソイツに言うべき事を言ったらさっさと現場に向かう。ソイツがゴチャゴチャ抜かして邪魔すんなら、膝ブチ抜くわよ」
「頼むからそう言うのは本当に止めてくれ。私ばかりか、トレモアス枢機卿の立場も最悪になるし、君自身の立場も最悪になって君の望む気楽な生活も台無しになる。だから、絶対に止めてくれ……」
ヘルガの性格を知る者としてマクスウェル司教が懇願する様に言えば、ヘルガは極めて不愉快そうに顔を顰めてしまう。
「じゃあ、そのシスター・マルグリットに事態の最悪度合いをしっかり伝えて、理解してくれた上に邪魔しないでくれるなら、私は何もしない。でも、クソの役にも立たない正義感だの道徳だの倫理観だので邪魔したら私は一切容赦しない」
本気だった。
ヘルガはシスター・マルグリットが作戦の障害になるならば、敵として本気で排除するつもりであった。
それを理解出来てしまうからこそ、マクスウェル司教の胃は強く痛みを覚えてしまう。
そんな彼を他所に扉がノックされた。
「何だ?」
「シスター・マルグリットをお連れ致しました」
執事が扉越しに用件を告げると、トマーゾ殿下は部屋の主として許可を下した。
「御通ししろ」
その言葉と共に扉が静かに開くと、錫杖を携えたシスター。もとい、マルグリット枢機卿が執務室に通され、執事は扉を静かに閉めて立ち去った。
マルグリット枢機卿に対し、トマーゾ殿下とマクスウェル司教が跪こうとする。
しかし、マルグリット枢機卿は「その必要はありません」と、丁寧な口調で省略させる。
そして、不機嫌極まる面持ちをしたヘルガを一瞥すると、マルグリット枢機卿はマクスウェル司教に問うた。
「マクスウェル司教。私は王都で真祖と魔女を確認しました。何故、かの怪物2体が放置されているばかりか、この国と帝国。更には教国の利害に大きく関わる機密性の高い作戦とやらに関係しているのか?説明して戴けますね?そちらの冒険者と言うには危険過ぎる彼女も含めて……」
嘘偽りは一切許さない。
そうも告げられると、マクスウェル司教は嘘偽り無く説明した。
ツァールスで禁忌とされている勇者召喚が実行されようとしている事。
その勇者召喚儀式を実行しようとしているのは、異端審問官達が長年討伐せんとしていた2匹の危険極まる怪物である事。
ツァールス王城内の王を初めとした人間は全て殺され、アンデッドにされている事。
更にはその勇者召喚儀式を囮にして疫病による無差別テロが行われようとしている可能性が高い事。
そうした理由を語り、其れ等は全て水面下で動いていた。
其れ等を全て結果的に暴き出したのは其処に居るヘルガであり、ヘルガが居なかったら自分達は何も気付かぬまま禁忌が実行に移される。そればかりか、疫病による無差別テロが行われていた可能性も濃厚である事。
禁忌である勇者召喚は明後日の満月の晩に実行される可能性が高く、実行されたらツァールスに住まう数千の人々の生命は薪のように淡々と喪われる。
そして、それを阻止出来る可能性が最も高いのは、ヘルガとその仲間達である事。
そうした理由をマルグリット枢機卿は直ぐに理解してくれた。
だが、理解はしても、納得するのは別の問題であった。
「成る程。事態が切迫している事は理解しました。しかし、その事態解決の為に其処に居る彼女も含め、3体の危険な怪物を用いると言う事に関しては納得出来る理由にはなりません」
神に仕える聖職者として神に背く様な存在と言える怪物達を事態の収拾と解決の為に用いる。
それを否とする言葉をぶつけられてしまうと、マクスウェル司教はどう反論すべきか?悩んでしまう。
すると、今まで沈黙していたヘルガが珍しく口を挟んだ。
「私が危険な怪物として見られてるのは認めるわよ。寧ろ、私だって同じ立場なら怪物として警戒する。でもさ、私ってこう見えて冒険者なのよね……で、更に言うなら私は遵法精神に満ちてる方だと思うのよ」
「遵法精神に満ちてる者が我等が危険視している怪物を用いるとは考えないでしょう?」
ヘルガの言葉に嫌味と皮肉を込め、叩きつけるマルグリット枢機卿。
そんな皮肉と嫌味に対し、ヘルガは殴り返す様にして言葉を返した。
「では、お尋ねします。今この場からツァールスの王城に行く方法はお有りですか?因みに確実に阻止出来る期限は明日ですけど……それを解決出来る方法あるんなら、用意してくれます?後、私達が殺らなくて良いならテメェが殺れよ。明日までに解決出来るんならしろよ。寧ろ、してくれない?私達は帰って酒飲んで、クソして寝るから」
無礼極まる言葉にマクスウェル司教が頭と胃に益々強い痛みを覚え、トマーゾ殿下は頭を抱えてしまう。
だが、ヘルガは気にせずに言葉を続ける。
「私は私の為にこの件を上手く片付けたい。2年と半年前に殺し損ねたクソデブをブチ殺して決着にしたいし、この碌でもねぇクソみてぇな計画をブチ壊して台無しにしてやりてぇのよ……だから、邪魔すんな。余計な口も手も出すな。要は引っ込んでろクソアマって事ね」
その言葉に2人の立場ある男は心の中で「何て事言いやがるこのクソエルフ!!」と、怒鳴ってしまう。
しかし、クソアマと言われた本人……マルグリット枢機卿は意外にも怒らなかった。
「では、貴女は自分の為に人々を救う。その為に怪物2体を用いる……そう言うのですか?」
「さっきからそう言ってんじゃねぇか……頭悪いの?兎に角、私達は仕事をする。邪魔すんな、邪魔したら敵性勢力と見做して排除する。解ったんたら、これ以上無駄な時間取らせないでくれるクソボケイカレカルト女」
無礼極まる言葉に2人の立場ある男は心の中で「もう好きにしろ。俺はもう知らん」と、匙を投げてしまう。
すると、マルグリット枢機卿は提案する様に言う。
「では、私も同行させて戴けませんか?」
「ふざけんなボケ」
即答であった。
そして、ヘルガは話は終わりだ。
そう言わんばかりに背を向けると、歩き出す。
そんなヘルガの後を追う様にマルグリット枢機卿は歩き出すと、ヘルガはホルスターからGLOCK20を抜いた。
「止めろ!!」
「ヘルガ!!」
マクスウェル司教とトマーゾ殿下が同時に止めようとする。
だが、ヘルガは躊躇い無く銃口をマルグリット枢機卿の顔に向け、引金に人差し指を掛けながら心底不愉快そうに尋ねた。
「邪魔すんな。私はそう言った……それなのに邪魔すんの?」
「邪魔はしません。しかし、貴女達の言葉と行いに嘘が無いか?確認し、見届ける必要があると判断しただけの事です」
「それを邪魔してるって言うのよ……マクスウェル!私が昨日言った事を覚えてるか!」
ヘルガの問いにマクスウェル司教は顔を青褪めさせながら答える。
「覚えている」
「なら、コレはどう言う事だ?このクソアマが邪魔するってんなら、私は降りるぞ!!どう見ても立派な妨害で利敵行為だ!!」
最後通牒であった。
だからこそ、マクスウェル司教は2人の間に入る様にしてマルグリット枢機卿の前に立ち塞がると、必死に懇願する様にして言う。
「処分は全て私が甘んじて御受け致します!どうか、此度はどうかお願い致します!ツァールスの王都に住まう数千の人々の生命を護る為、禁忌を阻止する為にも退いて下さい!!」
その言葉と共にマクスウェル司教が頭を深々と下げると、ヘルガは引金から人差し指を離し、GLOCK20をホルスターへ収め、ストラップでGLOCK20を留める。
そして、改めて告げた。
「マクスウェル司教に免じて殺さないでやる。だから、邪魔するな……トマーゾ殿下、昨日の条件と約束は今も生きている事も忘れるな」
ハッキリと次は無い。
改めて釘を刺す様にして告げれば、ヘルガは苛立ち混じりに背を向ける。
そして……
「ティナ!見てるんでしょ!話は終わった!出来るなら私を直ぐに転移させろ!!時間が惜しい!!」
この場を盗み見て、盗み聞いてるだろうティナに指揮官として命じれば、ヘルガはその場からシュッと消えたのであった。
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