杞憂で済めばいい
ソグルスは王都から徒歩で30分の所にある小さな初心者向けの初級ダンジョン。
駆け出しの冒険者が此処で薬草採取したり、獲物を狩って生計を立て、カネのある趣味人は此処でゆるくキャンプをして愉しむ。
人々に愛されてる初級の小さなダンジョンではあるが、最深部は広い森。
更に稀にではあるが、素材が高値で取引される魅力ある上級の強いモンスターも出る。それ故に中堅の冒険者が小遣い稼ぎがてらそのモンスターを狙って潜る事もあるし、その分だけ危険もある。
そんなソグルスへ来たヘルガは入場手続きを済ませると、中へと足を踏み入れる。
入った瞬間。
外の夏の暑さが嘘みたいなヒンヤリとした涼しさと共に外では無かった身に伸し掛かる重い空気にヘルガは此処もダンジョンなのだと、嫌でも理解すると共に気を引き締めて歩みを進めていく。
静かにMk18を手に警戒しながら歩みを進めるが、通路にモンスターの姿は無い。
時折、最弱のモンスターであるスライムを見掛けた。
だが、スライム達はヘルガの姿を見るなり、隅に逃げて襲って来ようとはしてこない。
そんなスライム達をヘルガは気にする事も無ければ、殺す事も無く先へと進んでいく。
途中、最深部から戻って来たであろう若い駆け出しの冒険者達と何度か遭遇した。
彼、彼女等はヘルガの姿を一目見た瞬間に驚いて居たが、ヘルガ本人は気にせずに歩みを進め続ける。
通路はやっぱり人通りがそれなりにあるから、此処で待ち伏せて仕掛ける奴は居ないと見て良さそうね……
通路を進みながら分析すると、ヘルガは歩みを進めながら一番の懸念である最深部に思考を向ける。
仕掛けるなら最深部。
最深部なら隠れる場所も多いし、モンスターを狩ったり、食べれる野草を採取して食べれば、何日でも潜伏出来る。
さっきの打ち合わせでは、そう言う潜伏してる奴の報告は無かった。
なので、今は居ないと見ても良さそうかしら?
昼前に行った打ち合わせの事を思い出し、ソグルス最深部に見慣れぬ者は居なかった事も思い出せば、ヘルガは敵は未だ潜伏していないと仮定ながらも判断を下した。
だが、王家の一員たるセレスティア王女を狙う者が居た場合、その者がプロじゃない訳がない。
そう判断するからこそ、仮定までで確定には至らなかった。
そんな事を考えながら通路を進み、幾つもの階段を下って最深部へ難無く辿り着くと、ヘルガは最深部の出入口脇の邪魔にならぬ所で座って休憩を取る。
眼下に広がる深く広大な森林を眺めながら下ろしたバックパックの脇にある大きな水筒の水を取り、一口飲んで乾きを癒やしたヘルガは見詰めながら今後の事を確認する様に考える。
一先ずは端から端まで見て廻って、不審な奴や痕跡が無いのを確認。
途中で同業や趣味の奴が居たら、見慣れない奴を見てないか?それの確認もする。
「大丈夫だとは思いたいけど、警護対象が警護対象だから気が抜けないのが嫌んなるわね」
手にする水筒の水をもう一口飲んだヘルガはウンザリとした面持ちで漏らすと、水筒をバックパックの脇に戻し、バックパックを背負って立ち上がる。
それから歩き出し、森の中へと入った。
森の中は動物の鳴き声は時折するが、静かの一言に尽きた。
そんな森の中を慣れた様子で歩いて廻り、不審な者や痕跡が無い事を確認していく。
そうして歩みを進めていると、草木を揺らす音と共に気配がした。
ヘルガがMk18をその気配の先へ向ける様に構えると、気配の主が露わとなる。
「おわ!?ビックリした!」
「どうした?」
気配の主は駆け出しの冒険者であろう2人の若い青年であった。
ヘルガは銃口を下ろしてセレクターをセイフティに合わせると、ヘルガの姿にホッとする2人に語り掛ける。
「ねぇ、此処らへんで見慣れない奴を見てない?」
率直に尋ねると、青年達は問い返す。
「アンタ以外にかい?」
自分がその見慣れない奴と指摘されると、ヘルガはご尤もね。と、心の中で漏らすと共に納得しながら肯定する。
「そう。私以外で」
「だったら、見てないよ」
彼が返すと、もう一人の青年はヘルガの正体に気付いたのだろう。
驚きと共に仲間の彼に耳打ちする。
「あのエルフ、白金等級のヘルガだぞ!?」
仲間の耳打ちにヘルガの問いに答えた青年が驚くと、ヘルガは茶目っ気と共に肯定する。
「あら?私の事を知ってるの?」
「寧ろ、この辺りで貴女の事を知らない冒険者は居ないと思いますよ?」
呆れ混じりに耳打ちした青年が返せば、ヘルガは「まぁ、変わった格好でヤマ踏んでるんだから当然よね」と、他人事の様に宣う。
そんなヘルガに質問に答えた青年は好奇心から尋ねる。
「あのヘルガさん、何で白金等級の凄い冒険者がこんな初級ダンジョンに居るんですか?」
そう問われると、ヘルガは涼しい顔で答える。
「単なる暇潰しよ」
「もしかして、此処に隠しダンジョンとか隠されたお宝があるんですか?」
冗談交じりに問われると、ヘルガは呆れ混じりに否定した。
「此処にそんな上等なのがあるなんて話、噂でも聞いた事無いわよ」
そんなヘルガの答えが信じられない。
そう言わんばかりに、青年は詰め寄る。
「じゃあ、それなのに白金等級のヘルガさんが来るのって変じゃないですか?」
その疑問に疑いたくなる気持ちは解らないでもない。そう思いながらも、ヘルガは益々呆れながら改めて告げる。
「だから、言ったでしょ?暇潰しだって……」
ヘルガの答えにその青年がモニョると、仲間の彼が「さっさと帰ろうぜ」そう告げれば、青年は仲間の彼と共に去っていく。
そんな2人の背を見送ると、ヘルガは下見を兼ねた偵察を再開する。
そうして長い時間を掛けて森の中を隅から隅まで見て廻り続けたヘルガは、ダンジョンコアまで半分の所で2度目の休憩を取り始めた。
「今の所は不審な痕跡とか人間は見なかったのは良い兆候と言うべきかしら?」
独りごちたヘルガは水筒の水を飲んで渇きを癒すと、ソグルスの地図を広げて自分が見て廻ったポイントを振り返っていく。
一先ず、此処までの間にある潜伏し易い所は全て見て廻って利用されてないのを確認出来た。
他の待ち伏せに敵したポイントも粗方確認出来た。
残るはダンジョンコアまでの道筋とその周囲。
私の杞憂に終わるなら、ソレで良い。
寧ろ、そうあって欲しい。
警護の依頼を請け負った以上、ヘルガはプロとして徹底的に全力で応じる。
だからこそ、杞憂や大袈裟であろうと気にせずにこうして実際に調べて廻り、確認を続けるのだ。
そんなヘルガは地図をしまうと、ふとした事に気付いた。
「そう言えば、モンスターと遭遇してないわね。趣味でキャンプしてる奴や、仕事してる冒険者とかは見たけど……」
そう。
最深部に着いてから今までの間、ダンジョンだと言うのにモンスターと遭遇していなかった。
そんな珍しい状況にヘルガは首を傾げるが、直ぐに考えるのを辞めた。
「まぁ、こう言う時もあるわね。他の連中が狩り回ってたとかでさ……それはそれで警戒しまくった私がバカみたいに思えて腹立つけど……」
自分が必要とは言え、警戒してるのがバカみたいに思えてしまったヘルガはその苛立ちを何処かにぶつけたく思った。
だが、同時に何も無いならその方が良い。そうも感じていた。
「この件が無事に終わったら、今度こそ休も……昨日は休めたとは言え、折角の休暇が台無しになったんだから当然よね」
そうボヤいた矢先。
臭いがした。
大きな獣の臭いだ。
そんな臭いに気付いたヘルガは直ぐにMk18を取ると、セレクターをフルオートに合わせて警戒心を露わにしながら構える。
それから程なくして草木を食み、揺らす音がした。
音は段々と近付いて大きくなり、ヘルガの目の前に現れる。
3メートルの巨体を持ったヒグマの様な出で立ちの上位モンスター……イカズチグマがヘルガの前に現れ、襲わんと立ち上がった。
その瞬間。ヘルガは瞬時に引金を引き、フルオートでイカズチグマの胸。
心臓のある箇所へ躊躇い無く5.56ミリの徹甲弾を浴びせた。
徹甲弾を胸に浴びせられ、心臓を分厚い毛皮と脂肪。それに肉ごと何発もの徹甲弾で貫かれれば、イカズチグマはドサッと地面に崩れ落ちて動かなくなる。
そんなイカズチグマの死体を見下ろすと、ヘルガは呆れ混じりに他人事の如く呟く。
「フラグって存在するのね」
そんな呟きを漏らすと、ヘルガはさっさと休憩を切り上げて手支度を済ませれば、下見と偵察を再開するのであった。
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