されて欲しくない事を敵が既にしている。それが戦争
銃と装具。それに弾薬の準備を済ませてケースに詰め込み終えた頃。
面倒臭い。否、厄介。
いや、最悪な報告がティナから齎された。
「ツァールスの王都を試しに見てきたんですが……王都は既に儀式が出来る状態になってました」
割と真面目に焦りを見せるティナから飛び込んで来た報告に対し、ヘルガは頭を抱えながらも指揮官として確認する様に問う。
「貴女、旅支度をするから帰ったんじゃなかったの?それがどうすれば、敵地偵察した報告になるの?」
ヘルガという指揮官にすれば、ティナの行いは責めるに値する所業であった。
それを敢えて言われれば、ティナは申し訳無さそうにしながらも言葉を返す。
「勝手な事をしたのは解ってますし、申し訳無いと思ってます。ですが、事態は貴女の予想を超えて非常に悪いです」
ティナが責められても致し方無い。
だが、事態はヘルガの予想よりも遥かに悪い所まで進んでいる。
そう告げれば、ヘルガは責めずに詳細を尋ねた。
「それで?どう言う具合に悪いの?」
「先ず……王都を囲う様に行われている治水改善名目の工事はブラフです」
開口一番に飛び込んで来た報告にヘルガが訝しむと、ティナは報告を続ける。
「王都外周近くに複数の人柱による魔法陣の起点が複数あり、更には王都全体に誰も気にしない様な小さな術式が多数仕掛けてありました」
ティナが魔女としての魔導の知識から報告すると、ヘルガはティナの報告を整理する様に思案してから指揮官として確認する。
「……つまり、既に術式が発動したら王都に住まう全ての生命が死ぬ状態になってるという事?」
肯定されたくない。
否定されて欲しかった。
だが、ティナの答えはヘルガの願望を打ち砕くには十分過ぎた。
「そう言う事になります」
ティナが現実を突きつける様に肯定すれば、ヘルガは頭を抱えながらも直ぐに指揮官として現状把握に務める為、ティナに尋ねる。
「王都内の住民は全てアンデッドになってた?」
「いいえ、生者でした」
「て、事は未だ儀式は行われてない……何故だ?」
ヘルガが首を傾げると、ティナは魔女として意見を告げた。
「恐らくですが、儀式の見直しと改善に努めてる。それと私が当事者なら満月の晩にやります……その方が魔力を増幅させやすいですし、ツァールスに限らず全ての人々が寝静まって最も無防備な時にやれば妨害や察知される可能性が減るので」
ティナが自分が当事者ならば、満月の夜。
人々が寝静まって最も無防備な時にやる。
その理由とも言える根拠を交えて意見すれば、ヘルガはそれを信じる様に尋ねた。
「次の満月の夜は何時?」
「今日を含めるなら2日と半日後です」
「つまり、猶予は2日。否、仕掛けるチャンスは明日だけと言う訳か……」
ティナの答えから猶予は実質皆無。
妨害の為の攻撃チャンスは一度きり。
それを自ら口にすると、ヘルガは重い決断を下す。
「儀式妨害のチャンスが明日しか無いなら、碩学2名の救出は後回し。最優先は儀式の妨害、可能なら術式陣の破壊……」
単純な算数。
なれど、他者の生命を天秤に掛けての冷徹極まる算数だ。
ヘルガの決断は救出対象である2名の碩学を最悪見捨てて、儀式妨害を優先するというモノであった。
そんな決断にティナが何も言えないでいると、ソファーに座っていたグローリヴルは気にせずに意見する。
「儀式妨害を優先するなら、2人の殺害目標を真っ先に殺る方が良くない?要はそのクソ2人が死ねば、儀式は出来なくなる。なら、真っ先に殺して安全な状態にしてから、儀式の処理をすれば良い……違う?」
グローリヴルの意見にヘルガは何も答えない。
否、答えられなかった。
すると、ティナはヘルガへ報告する様にして意見を告げる。
「術式を完全に解析した訳じゃありませんが、仕掛けられた幾つかの人柱を破壊すれば、少しだけ猶予は稼げるかもしれません……」
ティナの専門家としての意見をヘルガはキチンと聞いていた。
だが、その意見にヘルガが答える事は無い。
しかし、今すべき事を理解していた。
「ティナ。エヴァとダヴィドを連れてきて。後、姉さんと共に用意した物資を冒険者ギルドに運び込むのもお願い」
「解りましたが……貴女はどうするんです?」
「雇い主に御伺いを立てる。つうか、直ぐに出発すると通知しに行く……許可が下りなくても私は断行するし、その後で指名手配犯になる云々はもう気にしてられない状況だから」
作戦予定は敵の予想以上に進んでいた進捗によって根本から崩壊。
更には猶予も無い。
それ故にヘルガはノープランで作戦を断行する事に踏み切るしかなかった。
それを見ると、グローリヴルは本気でヤバい状況なのだと嫌でも理解するしかなかった。
「本当にヤバい状況なのね」
事態が悪過ぎるのは2人の遣り取りから理解出来ていた。
出来ているが故、現実感が薄かった。
そんなグローリヴルにヘルガは指揮官として、妹として申し訳無さそうに告げる。
「姉さん、悪いけど火力支援チーム用意するとか悠長に言えなくなった。後、押し込み強盗めいた事をせざる得ないから、姉さんの負担が滅茶苦茶増える……それと念の為にL110も弾と予備バレル込みで用意しといて。短い方で良いから……」
そう告げると、ヘルガは部屋を後にした。
そして、全力で駆け出して王城へと向かうのであった。
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