怪物になろうとするな
昼少し前。
ヘルガはトミー。否、トマーゾ殿下にある事を頼んでいた。
その頼みを聞くと、トマーゾ殿下だけでなく、共に居たマクスウェル司教も頭を抱えてしまう。
「つまり、君はツァールスでツァールスの兵と冒険者を相手に一戦交える必要がある。だから、罪の無いツァールスの兵と冒険者を殺してもそれを免責して欲しい……そう僕等に頼みたいと言うのか?」
トマーゾ殿下から正気を疑う様な面持ちと言葉を向けられると、ヘルガは涼しい顔で肯定する。
「そうなるわね。不本意だけど……」
「なら、理由を聞かせてくれないか?」
改めて理由を問われれば、ヘルガは答える。
「ツァールスの実権をクソ2匹と黒幕が実質握ってる。で、私が王都に来るのを阻んで時間稼ぎする可能性が濃厚……つうか、私が黒幕なら軍と冒険者を使えるなら使わない理由が無い。時間稼ぎすれば良いだけで勝てるって状況なら尚更ね」
ヘルガが免責特権を欲する理由を聞けば、2人は嫌でも納得するしかない。
だが、納得は出来ても免責特権を与えるか?それは別問題である。
「僕の独断では出せない」
「私も同様だ。幾ら、永年我等が討伐したいと願う怪物2匹を討伐する為とは言え、罪の無い兵達と冒険者達を討伐の障害になるからと言え、殺すのは断じて許されるべきではない」
トマーゾ殿下とマクスウェル司教。
その双方が立場ある者として免責特権を独断で与える事は出来ない。
そう告げれば、ヘルガは当然の様に返す。
「それは解ってる。でも、必要だとしても駄目?」
「君なら、僕が駄目としか言えないのは解ってるだろ?」
付き合いのあるトマーゾ殿下であっても、ヘルガの要求は是と出来ない。
無論、マクスウェル司教も同様に否とする。
だが、ヘルガは無駄を承知で尋ねる。
「本当に駄目?異端審問とこの国。更には帝国の連名で討伐任務を請け負った冒険者を妨害する者は2匹のクソの手下ないし、敵として処断するって形でも?」
提案とも言える問いに対し、トマーゾ殿下はバッサリ斬り捨てる形で突っ撥ねた。
「駄目だ。戦時なら兎も角、平時でそれを認めたら完全な違法行為だし、帝国と教国を除く周辺諸国に対する我が国の立場も非常に悪くなる……」
王族として、立場ある者として、次期国王としてヘルガのお願いは聞き入れらない。
そう断言すれば、ヘルガは「だよねぇ」と、当然の様に感じてしまう。
そんなヘルガは冗談交じりに尋ねる。
「なら、私個人がトチ狂って勝手にヤラかした事にするのは?」
突拍子も無い事を問えば、トマーゾ殿下は苛立ちと一抹の怒りを交えて斬り捨てた。
「論外だ。それでやったとしても此方は大罪人として君を怪物2匹と同じ扱いにしなければならなくなるんだから当然だろう?」
「それは異端審問官としても同意見だ。確かに我々、異端審問官は君を危険度を示す枠組み的には怪物と変わらない扱いをしてる事実は認める。だが、同時に君は法を犯さず、話も通じる希少な怪物の様な人間でもあるのも事実なのを認めている」
「エルフだけどね」
ヘルガが茶化す様に訂正すると、怒りと苛立ちを込めてマクスウェル司教は本心をブチ撒ける。
「茶化すな。兎に角だ。君が人間から怪物に鞍替えされると、此方としても非常に困る。だから、それは許容出来ない……ただでさえ、強硬派の頭デッカチ共は君を討伐しろと五月蝿いんだぞ?ソイツ等に大義名分を自分から与える様な真似は頼むから止してくれ」
マクスウェル司教はヘルガと言う怪物に近い人間に対し、友の様に扱うかの如く穏やかな口調ながらも猛反対した。
そんな意思や気持ちを理解出来るからこそ、ヘルガは諦めと共に告げる。
「なら、仕方ない。本来の予定と大きく異なるけど敵の様子見は無しで密入国して、コッソリ王都に向かうわ」
代案とも言える方法を口にすると、トマーゾ殿下は友として呆れてしまう。
「それも違法行為なのは理解してるかい?」
その呆れに対し、ヘルガは悪びれる事なく返した。
「仕方ないじゃない。正面から堂々と入国したらクソトラブルは確定だし、それで戦闘になった際に殺すのも駄目なんだから……他に良い方法があるなら是非とも教えてくれない?それ採用するから」
そう問えば、マクスウェル司教は真剣に考えた上で妥協案とも言える提案をする。
「なら、此方の人間を君に同行させろ。異端審問官に雇われた冒険者として入国するならば、ツァールスの兵や冒険者達は手出しはして来ない筈だ……死を弄ぶ者に操られてないならばな」
マクスウェル司教の助け舟とも言える提案を聞くと、ヘルガは思考を巡らせる。
キチンと正規の異端審問官達が同行して、2匹のクソが居ると目される国へ雇われた冒険者として入国。
これなら密入国する必要は無くなる。その点は良しとして……
なら、向こうが王命と言う理由で私達に対して軍や冒険者を差し向け、殺しに来た場合は?
其処まで考えると、ヘルガは確認する様に問うた。
「その方法で入国出来たとして、入国後に軍や冒険者が敵として立ち塞がった場合は?」
「そうなったら、敵として処断しても法的には問題無い。此方は命を受けて合法的に派遣された怪物2匹の討伐隊で、それを妨害するのは明らかな違法行為でしかないんだからな」
マクスウェル司教が答えれば、ヘルガはその提案を呑んだ。
「良いわ。その提案で進める」
「だが、此方の者が名乗りを挙げると共に警告をして、それを無視されたら手を出せ……その方が法的に不利にならないから」
釘を刺す様にしてマクスウェル司教が殺すなら、キチンと手順を踏んで殺せ。
そう告げれば、ヘルガは当然の様に返した。
「当たり前じゃない。私はクソな無法者じゃないんだから……でも、奇襲を受けた時は死にたくないから警告無しで殺るわよ」
「それで構わない。異端審問官に限らず、聖職者への明確な殺意を伴った攻撃は厳罰の対象だし、生け捕りにしても裁判後に火炙りか、車輪裂きのどっちかになるんだから構わない」
異端審問官の恐ろしい一面を見せる様に是とすれば、ヘルガはニッコリ笑った。
「なら、良かった。じゃあ、人数は2人か3人で使えて、大らかな性格の奴をお願い……大所帯だと移動は足が遅くなるから無しだし、大らかな性格じゃなかったら私の連れ2人に殺意を向けそうで恐いから」
「解ってる。他に必要なモノは?」
「必要なモノってより、気になる事がある」
「何だね?」
マクスウェル司教から問われると、ヘルガは気になっている事を口にする。
「ツァールス王宮内の人間は全てクソデブ……死を弄ぶ者の支配下にあって、王も重臣達も死んでる状態だけど、私がクソ2匹を始末した後の後始末はどうするの?単なる冒険者でしかない私が気にする事じゃないけどさ?」
その疑問にトマーゾ殿下が答えた。
「父上と皇帝陛下。それにトレモアス枢機卿がそれに関して昨日からずっと協議してる……流石に国の中枢が死んでる以上、上手く捌かなければ、内乱による群雄割拠が目に見えてるんだから当然だろう?」
「まぁ、そうなるわね……私みたいな冒険者には関係無いけど」
「なら、聞くな」
トマーゾ殿下が不快そうに吐き捨てれば、ヘルガは「御免て」と、謝った。
そして、準備の続きをする為にこの場を後にしようとする。
すると、そんなヘルガの背に向けてトマーゾ殿下は尋ねた。
「ヘルガ。君は僕にとって大事な友だ。だから、今日みたいな自分から泥を被って怪物になる真似は2度としないでくれ」
王子として、親しき友として、ヘルガに頼む様に言えば、ヘルガは振り向いて答える。
「なら、今回みたいな政治が大きく絡む仕事を頼まないで……じゃなかったら、あんなクソみたいな提案しないし、する必要も無いんだから」
言うべき事を言えば、ヘルガは今度こそ部屋から出るのであった。
ブクマと星評価。
感想とかレビューを貰えたら滅茶苦茶喜びます
なので下さい。マジで下さい




