疲労困憊
マイペースに帰宅したヘルガが家に入ると、何故かエヴァンジェルとティナの姿があった。
そんな2人にヘルガは何も言わずにベッドに座ると、ティナは言う。
「貴女の参加した会議覗かせて貰いましたけど……本当に洒落にならない事態なんですね。貴女が珍しく他人を頼るのも納得です」
ティナが自分とエヴァンジェルと言う怪物をヘルガが徴用した理由に納得した様に言うと、ヘルガは改めて告げる。
「だから、私は貴女とエヴァを雇った。失敗したら色んな意味で面倒臭過ぎる事になるから……」
「下手しなくても最悪、世界が破滅するかもしれないのを面倒臭過ぎるで済ませる貴女の神経はどうなってんですか?」
呆れるティナにエヴァンジェルは言う。
「彼女は昔からこんなんよ。エルフの戦士として生きてた頃もこんな具合に面倒臭がり。周りの戦士達と比べてもヤル気無い気怠げな感じなのに、どの戦士よりも強い上に頭もキレる……だから、何人かの戦士は彼女を嫌ってたわ」
自分よりもヘルガと付き合いのあるエヴァンジェルが他人事の様に言えば、ティナは「そうでしょうね」と、呆れ混じりに納得する。
すると、エヴァンジェルは切り替える様に部下としてヘルガと言う指揮官に尋ねた。
「人質でもある2人を助けた後、2匹のクズを殺すのは理解した。でも、具体的な方法は?」
エヴァンジェルから問われると、ヘルガは答える。
「それを明日の準備と現地到着までに考えないとならない。幸い、警備に関する情報は掴めてるから考え易いから何とかなるかもしれない」
ヘルガが正直に答えると、エヴァンジェルはヘルガが自分の脇に置いた資料の収まる封筒に目を付けた。
「ちょっと良い?」
その言葉と共に封筒を取ったエヴァンジェルは封を開けて中身……情報屋である蛇女から買った商品を取ると、ジックリと見つめていく。
一頻り読むと、エヴァンジェルは懐かしそうに漏らす。
「彼女、未だ生きてたのね」
その言葉を聞き逃さなかったヘルガは尋ねる。
「貴女の友達?」
「私が200年ぐらい前に遊びに行った東の果てに浮かぶ島国で会ったのよ……その時の彼女は未だ人間だったわ」
エヴァンジェルから200年前に知り合った。
そう返されると、ヘルガはそれ以上の事は聞かずに話を戻す様に続ける。
「その貴女の友達のお陰でこうして王宮の大まかな警備が判明した。だから、その後は実際に現地に赴いて偵察して、その情報と食い違いが無いか?それを確認する」
指揮官としてヘルガが告げると、ティナは少しだけ異論を挟んだ。
「偵察の理由は理解出来ますけど、流石に悠長じゃありませんか?此処まで判明してるなら、さっさと御二人を助け出すべきだと思うんですけど……」
魔女と言う強大な力を持つ怪物であるが故にティナがさっさと終わらせるべきでは?そう意見具申すると、ヘルガはそれをやんわりと否定する。
「貴女の言う通り、悠長にしてる時間は無い。でも、勇者召喚実行という一番の最悪が実施されるまで時間が残されているのも事実……」
「だから、その時間を活かして確実に事を進めたい。そう言う事ですか?」
ティナが確認する様に問えば、ヘルガは肯定する。
「そう。短気は損気。慌てる乞食は貰いが少ないってある様に、早いはゆっくり。ゆっくりは早いって奴よ……」
「指揮官として判断したなら、私は文句言いません。今の私は貴女に雇われた部下で、指揮官は貴女ですから」
ティナが部下としてヘルガを指揮官と認める様に言うと、ヘルガは2人に言う。
「私は指揮官ってガラじゃないんだけどね」
その言葉にエヴァンジェルは呆れてしまう。
「よく言うわよ。姉と他の戦士を引き連れて、オークの群れを殺し回ったり、里に悪さしたゴブリンの巣穴を焼き討ちして回ったヤベェ奴が言っても説得力無いわよ?」
それを聞いたティナは驚いてしまう。
「彼女、昔からそうだったんですか!?」
「貴女の迷宮近くに里あるでしょ?其処に30年くらい前とかにヤベェエルフが居るって噂なかった?」
「30年くらい前ですか……そう言えば、エレンミアさんの所へ赴いた時に僅かな数のエルフ戦士達が数十にも及ぶオークの群れを皆殺しにしてるのは見ましたね」
朧気ながらも当時の事を思い出すティナにヘルガは尋ねる。
「その中に顔を覆面で隠したエルフ居なかった?」
「あ、居ました。そのエルフが指揮を取って、的確にオークの群れを撹乱して、逃げたら伏兵として潜んでた弓兵役のエルフ達が追ってきたオークの群れを逆に攻撃し、その混乱に乗じて逃げてたエルフ達が転進して追い討ち掛けてましたね……」
ヘルガの問いをキッカケに約30年前に目の当たりにした見事な指揮と采配。
そして、容赦無いオーク皆殺しを思い出したティナは気付く。
「まさか、あの時の一人だけ覆面してた指揮官らしきエルフって……」
「そう。私よ……その時、空から視線を感じてたけど、貴女だったの?」
肯定したヘルガが確認する様に言うと、ティナはまたも驚いてしまう。
「あの時、私にも気付いてたんですか!?」
「あんなに熱い視線を向けられたら誰だって、嫌でも気付くわよ……手を出して来なさそうだから気付かないフリに徹したけど。感じ取れた魔力もヤベェ奴だってのも相まって」
それを聞くと、ティナは呆れ混じりに漏らす。
「それなのに貴女、指揮官はガラじゃないとか真面目に指揮官したりしてる人達に喧嘩売ってません?」
「事実を言ってるだけだけど?」
「あのですね。あの指揮を見せられたら、貴女が指揮官出来ないとか、したくないなんて言われたら"ふざけんな"の言葉しか浮かびませんよ?」
それ程までに当時のヘルガの指揮と采配は見事だった。
だからこそ、ティナは呆れるし、ふざけんなと言う気持ちでいっぱいだった。
しかし、当人……ヘルガ本人は涼しい顔で返す。
「そうかしら?」
「そうですよ!貴女のアレは歴戦の猛者と言われるまでに戦い抜いてなければ、出来ませんからね!?」
「辞めときなさい。彼女にこう言う事を話してもトコトンウンザリしたくなるから……」
エヴァンジェルがティナを止めると、ヘルガは思い出した様に2人に尋ねる。
「用は済んだ?」
ヘルガの気怠げな問いにティナが言葉を失うと、エヴァンジェルは呆れ混じりにティナの肩をポンと軽く叩いて言う。
「諦めなさい。真面目に仕事してる時以外の彼女は超のつく面倒臭がりの物臭だから……」
「今更ですけど、それは嫌という程に理解しました。なら、明日の予定を聞いたら私達は宿に帰ります」
ティナがゲンナリとした様子で明日の予定を尋ねると、ヘルガは指揮官として告げる。
「明日はツァールス行きの支度。主に私の準備なんだけど……ティナとエヴァも何か持っていきたいとかあるなら、何処かへ取りに行っても良いわよ。あ、その時は私に一声必ず掛ける事……それさえ守ってくれれば、文句は言わない。ダヴィドにも伝えといて……明日の朝は起きて身支度したら冒険者ギルドに集合するのも込みでね」
ヘルガが告げれば、ティナは「必ずダヴィドさんに伝えますよ」そう言ってシュッと転移で姿を消した。
エヴァンジェルはヘルガがテーブルに置いていた、酒場のワインセラーから土産と偽装を兼ねて選んだ上物の一本を取って部屋を後にした。
独り残されたヘルガは溜息を漏らすと、楽しみにしてたワインを諦めてベッドに横たわる。
それから程なくして瞼が重みに耐え切れぬかの様に閉じてしまえば、そのまま意識を手放す様にして眠りに着いてしまうのであった。
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