あんのクソトカゲ!!
軽めの夕飯を取った後。
下着姿となっていたヘルガは自宅で蛇女もとい、情報屋から買った資料を精査していた。
情報屋が与えてくれた資料はまさに情報の宝庫であった。
碩学が何処で研究させられているのか?
その日の食事を取る時や研究を終えた後は何処に送られるのか?そうした1日の動きを大まかに記したスケジュール。
更には王宮の具体的な警備と王宮の見取り図。
そうした資料は精査し、内容を確認したヘルガは思わず唸ってしまう。
「あの人、割とガチでこう言うネタをどうやって仕入れてるのよ?」
情報屋とは数年の付き合いがある。
知り合った経緯は依頼人と冒険者と言う、極ありふれたキッカケ。
だが、気付けばこうした厄介極まりない問題が起きた時にヘルガは自然と頼っている。
だからこそ、そんな情報屋でさえも見通せぬ謎の黒幕の恐ろしさと強かさがヘルガの中で増し、警戒と脅威のレベルも更に1段階増すのも自然であった。
クソ2匹を雇い入れる事に成功したばかりか、自分の計画や要望を満たす行動を取らせる事が出来る雇い主もと言える黒幕……
コイツだけは何故か、あの人の耳目に掛かりすらしない。
存在は朧気ながらも掴めている。
だけど、具体的な情報や手掛かりは何故か一切掴めない……
「典型的な悪い兆候ね。しかも、最悪ってレベルで……」
技術と経験。それに知識は世界最高レベル。
しかし、道徳と倫理。人格は0以下のクソ野郎の記憶と感覚。
そして、知識から謎の黒幕の正体が手掛かりすら一切掴めないでいる事をヘルガは最悪レベルの兆候と判断するしか出来なかった。
それ故にヘルガは敢えて口に出して独り言ちる様に考えていく。
「クソ2匹と黒幕が王宮に限らず現地で何らかの接触を図ってるなら、あの人が見逃すなんて絶対ありえない。で、あの人は王宮は既に死の宮殿と化しているとも言った……ん?そうなると、この国や帝国とかが王宮内に仕込んでる間者も死んでいて操られている事になるよな?それなのに勇者召喚の可能性は報告として上がっている?」
今知っている要素を口に出し、其処で違和感と共に疑問を覚えたヘルガな思わず首を傾げてしまう。
だが、直ぐにその疑問を払拭するかの様に仮説を思い浮かべる。
「勇者召喚と言う見逃せない禁忌を敢えて教えたら?それを報告として聞いた各国がツァールスに意識を向け、視野が狭くなるのは当然の成り行き……その後で例のクソ2匹がツァールスに……あんのクソトカゲっ"!!」
ある事に気付いたヘルガは今この場に居らぬ邪竜に対し、あらん限りの怒りを込めて怒鳴った。
「何が面白そうな歌劇だ!何が決着だ!ふざけやがって!!シレーラスであんな都合良く待ち構えてたのとガラにもなく教えてきた時点で気付くべきだった!!」
其処まで一息で怒鳴り散らしたヘルガは少しだけスッキリすると、己が気付いた事を確認するかの如く声を荒げながら口にする。
「奴は全て知っていて私をクソ厄ネタに引きずり込んで焚き付けやがった!!自分の思惑と黒幕の狙いを満たす為にか!?あんのクソトカゲが!!」
すると、そんな声に答えるかの如く邪竜の声が胸元からした。
「ほう。漸く気付いたか小娘」
その声を聞いたヘルガは周りと後ろ。更には足下と天井を見上げて誰も居ない事を確認すると、胸ポケットに入れてた邪竜の煙管を取り出し、語り掛ける。
「クソトカゲ聞こえる?」
「あぁ、聞こえておる」
邪竜が返事をすると、ヘルガは1つ目の質問を投げた。
「アンタに誘いを掛けて来た奴をアンタの糞にしたのは嘘か?」
「それは本当じゃよ。実際、話していて不愉快じゃったからな喰ろうてやったし、不味かったのも真じゃ」
「なら、黒幕の面は見たの?」
「いいや、見ておらん。じゃが、我の巣穴に手紙が置いてあった……その内容はシレーラスの20階層で待てば、貴様と再会出来ると言う内容じゃった」
「それは何時の事?」
「我にそれを答える義理は無いし、どうでも良かろう」
己の巣穴に手紙が置かれ、それを読んだ日を答えない邪竜に対し、ヘルガは言い当てた。
「私と会った2日前でしょ?」
「知っとるなら聞く必要無かろう」
邪竜が言い当てられて呆れ混じりに肯定すると、ヘルガは黒幕の手の長さが予想以上に長かった事に戦慄してしまう。
「敵ははなっから私を標的に収めてた訳か……」
「じゃから、我は貴様に教えてやった。2人の事とツァールスの事をの……お陰で面白い見世物を眺められそうじゃ」
悪怯れる事無く邪竜が言いのければ、ヘルガはハッキリと告げる。
「この件が何とか片付いたらさ、私は錆落としする。その後、テメェの首を斬り落として飾ってやるから私が行くまで首を洗って待ってて……」
穏やかな口調であるが、それは宣戦布告以外の何物でも無かった。
それ故に邪竜は歓喜と共に答え、確約した。
「良かろう。この首、貴様が来るまで洗っといてやろうではないか……そして、我の名に誓って確約してやる。此度の件、我は一切手出しせぬ事を」
「つまり、観客として今回のクソ案件を大人しく眺めてくれる訳ね……」
不愉快そうにしながらも、邪竜が邪竜自身に誓って一切手出しをしない。
それを確約すると、ヘルガは内心でホッとする。
そんなヘルガに対し、邪竜は好奇心から尋ねた。
「貴様に聞きたい。我を駒の様に利用したばかりか、我の動きを見透かして貴様をこうして引き摺り込んだ貴様の言う黒幕とやらは貴様から見て、どれほどの脅威じゃ?」
好奇心に満ちた邪竜の問いにヘルガは本心から答える。
「私なんて目じゃない最高レベルのヤベェ奴……状況が赦すなら、敵に回したくないし、コイツの策謀に挑みたくもない。ハッキリ言って、存在そのものが厄ネタ。関わったら人生が最悪な方向に進む様な疫病神ね」
ヘルガはそう分析するしか出来なかった。
実際、断片的ながらも黒幕は壮大かつ大バカ極まる勇者召喚と戦争を計画し、王国と帝国。更には教国すらも翻弄。
更には勇者召喚と戦争を陽動にして、疫病を用いるだろうテロ計画を水面下で進めていた。
それだけの芸当をやって退けようとしているのだ。
ヘルガが疫病神と評しても当然であろう。
だからこそ、邪竜は大いに興味を持った。
「貴様がそれ程までに恐れるならば、我は一度会ってみたいのう……話してみると面白そうじゃ」
「話すのはいいけど、仲良くなって世界を滅ぼすとかはマジで勘弁して。頼むから、マジでガチで頼むから辞めて……」
懇願するかの様なヘルガの言葉に邪竜は笑う。
一頻り愉快そうに笑うと、邪竜は己が預けた煙管を介して真剣な声色で告げる。
「まぁ、良い。我がそれよりも優先すべき事は貴様との決着……貴様の錆落としとやらが終わり、覚悟が決まったならば、我と貴様が初めて相まみえ、死合った場所へ我の煙管を持って来るが良い」
そう告げると、煙管は沈黙した。
ヘルガが呼び掛けても、返事は無い。
そんな時だ。
自宅の扉がノックされた。
「悪いけど居留守よ」
面倒臭そうに返すヘルガであったが、扉の向こうからそれを気にしない声が返って来る。
「ヘルガ様。陛下が貴方に話を窺いたいとの事なので至急、支度を」
それを聞くと、諦めを浮かべたヘルガは下着姿から比較的綺麗な服に着替えると、精査した資料を手に国王の遣いの待つ外へと出るのであった。
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