知る者
3人に宿を宛てがうと共に自由時間として別れた後。
独りになったヘルガは自宅に戻ってから、何時もグラッパを飲みに行く酒場に来ていた。
その酒場の主とも言えるバーテンダーが何時もの様に「いらっしゃい」そう声を掛けて来ると、ヘルガは席に座らずに言う。
「今日は久しぶりにワインを飲みたいんだけど、セラーで選んでも良いかしら?」
ヘルガの注文を聞いたバーテンダーは他のバーテンダーに店を任せると、ヘルガをワインセラーへと案内し始める。
そうして地下にあるワインセラーへ案内されると、バーテンダーはワインセラーの一番奥にある棚を動かした。
棚が動くと、隠されていた地下通路が現れた。
バーテンダーが一言「どうぞ」と、告げれば、ヘルガは躊躇いなく地下通路を進んでいく。
真っ暗な地下通路を道なりに暫く進み続けると、梯子が見えて来た。
梯子を登って扉とも言える蓋をドンドンと叩くと、蓋が開き、明かりと共に手が差し伸べられる。
その手を取って地上に上がると、ヘルガは手を差し伸べてくれたメイドに誘われるままに進んでいく。
屋敷の中は何処を見ても綺麗に掃除が行き届いており、メイド達がキチンと仕事をするのが分かった。
そんなメイドの1人に誘われて1つの部屋に前に立つと、メイドは扉を静かにノックする。
ノックに応える様に「入りなさい」と、許しの言葉が返ってくれば、メイドは扉を静かに開けてヘルガに中へ入る様に黙したまま促した。
そうしてヘルガが中に入ると、奥の天蓋付きのベッドから起き上がる姿があった。
真っ黒い髪を腰まで伸ばし、一糸纏わぬ姿で足が大蛇の如き妙齢の女性はヘルガを見るなり珍しそうに言う。
「おやおや、これは珍しい。白金等級の冒険者様が儂に会いに来るとは……オマケに普段ならば独りなのに、古より生きし者を2人も連れてると来ておる」
その言葉にヘルガは答える代わりに1枚の小切手を取って見せると、用件を切り出した。
「これは手付け。足りないなら後で払うから、私が求めてるモノを売ってくれないかしら?」
要求とも言える用件を聞くと、屋敷の主たる彼女はさも当然の如く言葉を並べる様にして確認する。
「ツァールス。禁忌。2人の怪物。帝国の碩学2人……相変わらず、お前は嵐の中を進む様に生きておる」
知る者が限られ、大半の者は知らぬ。
だが、目の前の彼女は当たり前の様に並べて愉快そうに言う。
そんな彼女にヘルガは驚く事も無く当然の様に改めて要求する。
「知ってるなら話が早いわ。そのクソ2匹と帝国の2人の居場所を教えて」
「その者等は全てツァールスの王宮に居る。そして、王宮は今や死者に満ちた死の宮殿と化しておる……」
アッサリと居場所を教えると共に、王宮は死者に満ちた死の宮殿と化している。
そう補足する様に彼女が言うと、ヘルガはその意味を察すると共に確認した。
「つまり、クソ2匹以外は全て死んでいてアンデッドにされてる?」
「帝国の者等は生きておるが、概ねその通りじゃ……それにしても帝国の碩学の1人は恐ろしいモノを研究しているようじゃな。コレが悪用されれば、数え切れぬ死が至る所で起きるじゃろうて」
真剣な面持ちで恐ろしい展開になりうる事を彼女が言えば、ヘルガは尋ねる。
「この話、私以外にする気は?」
「無いに決まっておろう。それ以前にこんな内容を買いたがる者は国に仕える者しか居らん……儂は国に生かして貰ってるのは理解し、弁えておる。だが、嫌いなものは嫌いなのだ。だから、連中に教える気は無いし、今後も付き合いを持ちとおない」
彼女は国があるからこそ、自分の様な存在や人間が生きていける事を理解している。
だが、同時に国が自国の利益の為に必要ならば汚い事をするのも理解している。
それ故に彼女は国とは距離を置き、可能な限り関わらない事にしていた。
勿論、口にした様に嫌いなのもあるが……
そんな彼女にヘルガは前から気になってた事を尋ねる。
「前から気になってたんだけど、今聞いた件も貴女の嫌いな国の存亡が掛かってる内容じゃん……マジで国の危機ってなった時も貴女はそれを知りながら教えないの?」
ヘルガから問われると、彼女は答える。
「本気で滅びの予兆と感じたら儂は貴様にソレを渡す。その後に国の者等がソレを知っても儂は知らん」
「つまり、私を介してなら教えてくれる訳ね」
「国の連中同士で行われる戦争と、水面下で行われる暗闘の当事者になりたくないのだから当然であろう?」
「良かったわ。貴女が現実的な考えを持っててくれて……」
「儂こそお前が居てくれて助かる」
そう返すと、ヘルガの前にシュルリと蛇の身を滑らせて立った彼女はヘルガの小切手を取ると、金額を一瞥してから告げる。
「代金はコレで良い」
「良いの?」
「儂からの値引きサービスって奴じゃ」
「そう言う事なら遠慮なく。あ、2匹のクソを雇った奴に関して何か知らない?」
ヘルガが思い出した様に尋ねると、彼女は残念そうに答えた。
「儂にも其奴の姿は見えんかった。見えてたら、其奴の事も貴様に教えておる」
「ですよねー。割とマジで一番厄介な奴ね」
「儂の目でも見えんとは何者じゃ、其奴?」
彼女が好奇心を口にすれば、ヘルガは言う。
「下手すると、2匹のクソよりも碌でもないとびきりのクソかもしれない……」
「お前がそう言うとは余程の者じゃな。まぁ、良い……詳しい事を記したのを用意させていたでな、受け取って帰るが良い」
「ありがと」
感謝の言葉と共にヘルガが退室すると、メイドが詳しく記した資料の収まる大きな封筒を沈黙と共に差し出して来た。
それを受け取ると、ヘルガは先ほど使った地下通路を通って帰るのであった。
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