魔女
翌早朝。
ヘルガ達はエレンミアの振る舞ってくれた朝食を食べ終えると、直ぐに出立した。
事態が予想よりも遥かにとても悪い。
そう結論付いたが故、ダヴィドは反対しなかった。
寧ろ、昨夕に自分が足を引っ張ってしまった事を悔やんでいる程だ。
だが、ヘルガはダヴィドに誰だって長い道のりと深い山を進んだら疲れるのは当然。
更にはあの内容は誰にだってキツ過ぎる。
正直言って、あの場で出ようと言った私自身も本音を言うなら休みたかった。
そう告げてダヴィドを責める事は決して無かった。
だからこそ、ヘルガ達は今までの遅れを取り返す様にして魔女の迷宮へ向けてハイペースで歩き続ける。
途中で街や村には寄らない。
その時間すら惜しいと理解してるからこそ、味気無い携行食で昼食を済ませて歩く。
ひたすらに歩き続け、夕刻前に魔女の迷宮に着いた。
「此処が魔女の迷宮ですよね?」
傍目からは岩肌にポッカリと洞穴にしか見えず、迷宮とは思えぬ様にダヴィドが確認する様にして尋ねれば、ヘルガは肯定する。
「そうよ。後、魔女は私達が此処に居るのをとっくに知ってる筈だから……」
肯定と共にそう返して言葉を留めると、ヘルガは洞穴に向けて声を張り上げる。
「魔女よ!我と交わした約束を果たせ!我の望みはお前の同行と助力!期間は我の目的が果されるまで!!それが我の望み!応える意志あらば我の前に姿を見せよ!!」
大声で叫ぶ様にして用件を告げた。
反応は無いかの様に思えてしまう。
だが、魔女はヘルガに応えるかの如くシュッと目の前に姿を見せた。
姿を露わにした幼さやあどけなさの残る少女の如き見た目をしている魔女はヘルガを見ると、呆れ混じりに漏らしてしまう。
「私が視てるからと言って此処で要求を果たせって怒鳴る貴女の神経はどうなってるんですか?」
丁寧な口調ながらも大いに呆れる彼女はエヴァンジェルの姿を見ると、挨拶もそこそこに確認する様に尋ねる。
「3日ぶりですね。エヴァ……何故、貴女が彼女と一緒に居るんです?」
問われたエヴァンジェルはスンナリ答えた。
「私もこんな早く再会するとは思わなかったわ、ティナ……あ、私は彼女から血と引き換えに雇われただけだから」
軽い口調でエヴァンジェルが自分がヘルガと共に居る理由を答えると、魔女はダヴィドを一瞥してからヘルガに尋ねる。
「エヴァが居るなら、私要らなくない?と思うんですけど?」
エヴァンジェルの恐ろしいまでの強さを数百年前から知るからこそ、魔女が未だ呆れ混じりに問えば、ヘルガは本心から答えた。
「生憎とそうも言ってられない。私が貴女に望む踏破した対価は、さっきも言った様に私の目的と言える仕事が終わるまで同行し、仕事成功の為に助力する事……それ以上でも以下でもない」
「貴女が対価をそれとするなら、私は文句言いませんよ。でも、真祖の吸血鬼が居るにも関わらず、私を仲間に引き込もうとする事情は聞かせて貰いたいですね……そちらの帝国の御人が居る理由も含めて」
求めて当然と言える説明義務を果たせ。
そう言わんばかりにエヴァンジェルからティナと呼ばれた魔女が説明要求をすれば、ヘルガは答えた。
「下手したら世界が滅ぶ。そうじゃないにしても、数えるのがバカらしいほどに膨大な数の人間が死ぬかもしれない……それが貴女の同行を求める理由よ」
噛み砕いた理由を答えれば、ティナは流石に真剣な面持ちとなった。
「それは穏やかじゃありませんね」
「だからこうして貴女に助太刀を頼んでる。私への対価を払えって形でね……嫌だとか抜かしたら、迷宮の魔女は迷宮を踏破した者の望みを叶えるのは嘘っぱちだって言いふらしてやる。手始めにね」
「貴女は私に助力を乞うてるのに何で喧嘩売る様な事を言うんですか?バカなんじゃないですか?」
「そんくらい余裕が無いのよ。だから、お願い……手を貸して」
その言葉と共にヘルガが頭を深々と下げれば、ティナは諦めの色を浮かべて答えた。
「頭を上げて下さい。私は嫌と言ってませんし、それが貴方の望む対価と言う望みだと言うなら応えますよ」
「ありがとう。じゃ、このまま王都に向かうわ。具体的な説明は道すがらするから」
ヘルガが感謝と共に指揮官の様に言えば、ティナは涼しい顔で無詠唱で魔法を発動させた。
その瞬間。ヘルガ達とティナの姿が仄かな魔力光と共にシュッと消えた。
そして、目の前に広がる光景が岩肌にポッカリと空いた洞穴ではなく、遠くにサマリアルの王都を取り囲む城塞の見える平原となれば、ダヴィドは周りをキョロキョロと何度も見廻してしまう。
「まさか、此処はサマリアルの王都近く……」
信じられないと言った様子のダヴィドを他所にヘルガ達と自分をサマリアル王国の王都に近い平原へと、一瞬の内に転移させたティナはヘルガに向けて問う。
「早速ですけど説明して貰いますよ」
「ありがと。助かった。説明に関しては歩きながらするわ」
3日も掛けて進んだ距離をほんの一瞬で進ませたティナにヘルガは感謝すると、歩きながら事情を説明する。
昨夕にエレンミアに語った内容と、エレンミアの専門家としての知識から見えて来た仮説をヘルガは歩きながらティナに語った。
そんな風情のない事情説明を聞き終えると、ティナは思わず……
「その2人バカなんじゃないですか!?禁忌の勇者召喚をヤラかす為に数千の生命を犠牲にして、その上、疫病を利用して無数の人間を殺そうとするとか本当にバカなんじゃないですか!?」
普段の丁寧な言動を忘れて素を見せるかの様にティナが声を荒げる様にして大きな声で言えば、ヘルガは同意する様に返す。
「私もそう思うわ。で、私はそのバカ2匹を殺したいし、帝国の彼が担ってる救出任務対象である帝国の碩学2名。その2人も助け出したい……その為に貴女には協力をして欲しい。それが私の望みよ」
「解りました。私が出来る範囲で協力します……でも、私は万能な存在じゃないんですから過度な期待は辞めてくださいよ?」
「過度な期待はしない。ただ、この件では全力で取り組んで欲しいだけ……そうしてくれるなら私は貴女が何をしようが気にしない」
ヘルガが指揮官として指揮下に入ったティナに要望を告げれば、ティナは悪乗りして尋ねる。
「それで?この後はどうするんです指揮官殿?」
「先ずは皆の宿を手配するから其処で一晩明かして。その後は朝まで自由時間とする……街に繰り出したいから小遣いくれって言うなら、支給する」
指揮官から今度は雇用主の義務と言うかの如く自由時間に街に繰り出すならば、その金を支給する。
そう告げれば、エヴァンジェルは臆面もなく手を差し出した。
「なら、ちょーだい」
その手にヘルガはポケットから出した3枚の金貨を乗せると、求めた本人であるエヴァンジェルは驚く。
「金貨3枚もくれるとか大盤振る舞いね」
「あー、面倒くせぇ。2人にも支給するから受け取れ」
ヘルガが面倒臭そうにしながらも有言実行するかの如くダヴィドとティナに3枚の金貨を手渡せば、ヘルガは指揮官として告げる。
「私が雇用主で指揮官である以上、宿代も負担する。自由時間とは言ったけど、バカやるな。人様に迷惑掛けるな。後、喧嘩するにしても相手を殺すな……それだけを守ってくれるなら、私は誰と寝ようが酒飲もうが何も言わない」
皆がそれを了承する様に頷けば、ヘルガ達は悠々と王都に足を踏み入れるのであった。
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