母親であり、専門家
居間の上座に座る彼女……エレンミアの前に据えられたテーブルには何故か、ヘルガ達の為に淹れられたであろう茶が注がれたカップが人数分並んでいた。
まるで、来るのが解っていたかの様な様子にダヴィドはこれがハイエルフの里が誇る最強にして、最高の魔導を担う伝説的な女傑なのか?そう感じていると、エレンミアはダヴィドに語り掛ける。
「帝国の御方。貴方を私は客人として迎え入れてるだけですわ……だから、そう警戒なさらずとも良いですわ」
まるで己を見透かす様に言われてしまうと、ダヴィドは何も言えなかった。
そんなダヴィドを他所にエヴァンジェルはエレンミアという古くからの友へ暢気に語り掛ける。
「はい、エレン。1日ぶり?」
「そうね。私も貴女と直ぐに再会出来るとは思わなかった」
エレンミアがにこやかに返すと、ヘルガは何も言わずに無言で母親である彼女の向かいにドカッと座り、口を開いた。
「本当ならノンビリ過ごしたい所なんだけど、母さんに色々と聞きたい事があるの」
「10年ぶりに帰ってきたと言うのに無粋ね……それで?暫くは帰ってくる気が無かっただろう貴女が態々、私に会いに来た理由は何かしら?あ、御二人も好きな所に座って頂戴」
その言葉と共にダヴィドとエヴァンジェルがヘルガの両脇に座ると、ヘルガは用件を率直に告げる。
「母さん、勇者召喚に携わってたってエヴァから聞いた。だから、教えて欲しい……勇者召喚を実際に人の手で再現可能か?を」
ヘルガがせっかちに用件を切り出すと、エレンミアは手にしていたカップを静かに目の前に置き、問う。
「何故、そんな事を知りたいの?」
穏やかな口調ではあるが、妙な威圧感があった。
それに当てられたダヴィドが固唾を飲むと、ヘルガは正直に答える。
「勇者召喚を悪用する為に再現しようとしてる救いようの無いバカが居る。で、私はそのバカを始末する依頼を受けざる得なくなった」
具体的な内容に触れずに噛み砕いて答えれば、その答えを齎したヘルガにエレンミアは当然の要求をした。
「一から全て話しなさい」
エレンミアから事情説明を求められれば、ヘルガはツァールスの件を交えて語る。
ツァールスで勇者召喚が行われようとしている事。
その勇者召喚を実行に移そうとしているのは、魔人とも呼ばれる最悪の賞金首とも言える怪物の1人にして、最高レベルの魔導の知識を持つ研究者である事。
更にはその研究者は死を弄ぶ者という最悪の賞金首であり、無辜の人々ばかりか軍や国そのものにと脅威となる存在が何かとんでもないバカをヤラかそうとしている事。
兎に角、全ての事をヘルガは語った。
そんなヘルガの語る事情を一切の口を挟まずに耳を傾けていたエレンミアはカップを手にして傾け、唇を湿らせるとカップを置きながら魔導の専門家として、当時関わっていた者として答える。
「その魔人とやらが本当に優秀なら、召喚の術式を再現するのは可能よ。当時の私も学術的な興味と勇者達を元の世界へ帰す為に研究して、ある条件を満たせば再現する事が出来ると結論付けたわ」
魔導の知識を高いレベルで持つ者ならば、ある条件を満たせば可能。
そんな嫌な答えが返って来ると、ヘルガは当然の様に条件が何か?尋ねる。
「その条件は?」
「魔力よ。それも普通なら幾ら大量の魔石があったとしても賄いきれないレベルの膨大過ぎる量が無ければ、術式が出来ても効果は発揮されない」
エレンミアが当時研究した者として答えると、ヘルガとダヴィドは少しだけホッとする。
だが、エレンミアはそんな安心を打ち砕く様に専門家として告げる。
「その魔人が貴女や普通の人達が毛嫌いする程に道徳や倫理が無いなら、賄える方法を編み出すでしょうね……私もその考えに行きついたし、それをするなら?と言う仮定で賄う方法を考えたから」
魔人は道徳や倫理を持っていない。
それを知るからこそ、ヘルガとダヴィドの顔は渋い面持ちとなってしまう。
そんな2人を他所にエヴァンジェルは尋ねる。
「エレン。その時の貴女はその条件をクリアする方法は思いついたの?」
「簡単よ。大量の生命から、その者達が持つ生命力と魂を抽出して薪のように使う……これがある意味で一番手軽に賄える方法として真っ先に浮かんだわ」
涼しい顔で答えられた内容にヘルガとダヴィドは絶句し、言葉を失ってしまう。
だが、エヴァンジェルは違った。
「なら、大きな街の中でやるのが一番効率的ね」
「そう。だから、私は直ぐにこの方法を除外した。で、それ以外の答えが見付からないから其処で私はその研究を辞めた」
専門家としての面からエレンミアが答えると、直ぐに戻ったヘルガは今も言葉を失うダヴィドに尋ねる。
「ダヴィド。ダヴィド!」
「あぁ、すまない。内容がとんでもなさ過ぎて放心してしまった。何だい?」
「ツァールスで最も住んでる人数の多い街は何処?」
「ツァールスで最も住んでる人数の多い街……真っ先に浮かぶのは王都だ。それ以外は街の体は成してるが、王都と比べたら何処も少ない」
ダヴィドが帝国の間諜として持つ資料的な知識から答えると、エレンミアは告げる。
「千人以上の人間が居る街なら何処でも良いわ」
「なら、王都以外に無い。それ以外の街はツァールスって国自体が小さいのも相まって住んでる人数は少ない」
こうして勇者召喚が行われる場所が判明した。
ヘルガは自分が母親と言う専門家を頼ったのは正解。そう思うと同時に複雑な心境になりながら、エレンミアと言う専門家に尋ねる。
「その儀式の後に最高レベルのネクロマンサーが儀式で亡くなった人達の死体を操る事は可能?」
「出来ないとは言わない。流石にその方面は専門としてないから詳しくは語れないけどね」
その答えにヘルガは「だから、あのクソデブを用意したのか」そう結論付けると、ヘルガが何を察したのか?解らぬが故にダヴィドは尋ねた。
「何が分かったんです?」
「死を弄ぶ者を用意した理由と言うか、仮説……ツァールスの王都に居る人々が全員一斉に亡くなったら?その後の偽装はどうする?」
「偽装なんて無理だ!あの王都には数千の人間が住んでる!一生掛かっても死体を全て始末するなんて不可能だ!」
普段の口調を崩して声を荒げてダヴィドが答えると、ヘルガは淡々と言う。
「なら、死を弄ぶ者が最高レベルのネクロマンサーとして全ての死体を生きてる様に見せたなら?」
「そんな……そんな死者を冒涜する事をするというのか!?」
ダヴィドが怒り混じりに信じられないと返せば、ヘルガは死を弄ぶ者と戦った事がある者としてまたも淡々と答える。
「奴に死者を敬うなんて道徳と倫理を期待するだけ無駄よ。奴なら喜んでノリノリでやる……そうする事で防衛面の兵力も確保出来て、周囲にバレない様になるなら尚更ね」
ヘルガの答えにダヴィドはまたも絶句し、言葉を失ってしまう。
そんなダヴィドに対し、追い討ちを掛ける様にエレンミアは専門家として告げる様に語る。
「術式を2つ用意すれば現実的なラインになる。1つは王都を囲う広大な魔法陣を構築し、陣内に居る全ての生命の生命力と魂を吸い上げる術式に吸い上げた全ての魔力を2つ目と言える召喚の術式に流れ込む様にする……それだけで発動させれば、勇者召喚が王都に居る全ての生命と引き換えに成される」
淡々と語られた内容にダヴィドが何も言えずにいると、ヘルガは尋ねる。
「それが既に行われてる可能性は?」
「無いわね。それだけ膨大な魔力を行使する儀式を発動させれば、魔導を収めてる奴は遠くに離れてたとしても嫌でも何が起きたんだ?って気付く……私はそれを感じてない。ケレンとエヴァは?」
「ここ何日かは変な魔力反応を感じてないわね」
「私も感じてないわ」
ヘルガとエヴァンジェルが謎の魔力を感じていない。
そう答えると、エレンミアは言う。
「それが答え。貴女の言うクソ2匹は未だ実行に移してない……多分、術式構築に未だ時間を掛けてる段階と見て良いわ」
それを聞くと、ヘルガはダヴィドの知識を借りる様に尋ねる。
「ダヴィド。帝国は王都で何らかの規模の大きな土木工事をしてる?」
それを聞かれると、ダヴィドは戸惑いながら 間諜として答えた。
「…………工事はしている。名目は治水改善目的の工事で王都郊外から王都を囲む様にして行われている」
「完成は?」
「未だだ。だが、一月もすれば工事は終わるというのが最新の報告にあった」
「つまり、期限は最低でも半月は猶予がある訳か……マジで時間無いわね」
「それで?貴女はどうするの?」
エヴァンジェルが指揮官に仕える部下の様に問うと、ヘルガは答える。
「魔女を確保次第直ぐに王都に戻る。で、王都の情報屋にツァールスの何処にあのクソ共と救出するべき碩学の居所を教えて貰ったら、直ぐにツァールスへ向かう」
「ツァールスに入った後は?」
「それは入ってから考える。もう時間はあまり無いからどうにか出来る様に臨機応変に対応する」
ヘルガが指揮官として告げれば、2人が反対する事は無かった。
そんなヘルガにエレンミアは言う。
「今日は泊まっていきなさい」
だが、ヘルガは突っ撥ねる。
「悪いけど、時間が無い」
「もう日が沈む。貴女とエヴァは平気でも、其処の彼は人間……余計な疲労で何かしらの問題が起きたら余計な時間が掛かるわよ」
エレンミアが母親として嗜めると、ヘルガは反対出来なかった。
それ故に早朝に出ると言う事で逗留する事になったのであった。
ブクマと星評価。
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なので下さい。マジで下さい




