帰郷
エルフの里は前世の男の知識を借りて言うなら、ロード・オブ・ザ・リングって言う映画みたいな感じだ。
私自身の説明?静かな所で時偶、オークとかモンスターが現れる程度で退屈な所。
だから、私は10年くらい前に此処を出て行った。
一応、出ていく時、母さんに話は通した。
でも、姉さんには反対された。
で、姉妹喧嘩になった。
兎に角、私は此処にまた戻って来ている。
サマリアルの王都やサイラスの街とは大きく違う幻想的な雰囲気に満ちたハイエルフの里をダヴィドが興味深そうに見廻すと、ハイエルフ達の視線が集まってるのに気付いた。
誰もが自分とヘルガに視線を向けている。
だが、ハイエルフ達が自分に敵意を持ってない事を察すると、ダヴィドは少しだけホッとしながらもヘルガへ興味と共に視線を向けた。
ヘルガは今も姉であるグローリヴルと呑気に話している。
会話の内容は簡単に言うなら……
最近の里はどうなのか?
貴女にすれば退屈だろうけど、平穏に満ちてる。
私も平穏が欲しい。
そんな様な内容だ。
すると、グローリヴルはヘルガにある事を尋ねた。
「そう言えば、貴女が何年か前に邪竜と戦ったって聞いたけど……本当なの?」
その問いにヘルガはゲンナリした様子で返す。
「4年前の事だけど話したくない。でも、次はあのクソトカゲをブチ殺してやるってのは決めてる」
ヘルガが邪竜をクソトカゲ扱いする形で肯定すると、グローリヴルは大いに呆れてしまう。
「伝説にして最強と謳われる邪竜をクソトカゲって呼ぶの貴女ぐらいよ?それで、どうしたのよ?」
「だから、言いたくない。でも、次の3度目のリターンマッチで首を斬り落としてやる」
その答えにグローリヴルは思わず言葉を失ってしまう。
「え?」
「あ……」
ヘルガが余計な事を言ったと言わんばかりに間抜けな声を漏らすと、グローリヴルは確認する様に尋ねる。
「ケレン?貴女、邪竜と2回も戦ったの?」
「嘘嘘。冗談。2回も戦ってないって……1度目で命からがら逃げただけだし、次はブチ殺すとか、首を斬り落としてやるってのもイキって言っただけだから」
慌てた様子で否定するヘルガであったが、10年経とうともグローリヴルには通用しない。
「相変わらず嘘が下手ね。それで?どうだったの?」
「負けた。で、殺されずに見逃された」
嘘は言ってない。
実際、邪竜はヘルガを見逃す形で引いた。
だが、それを知らぬグローリヴルは1人の戦士としてヘルガを真剣な眼差しと共に見詰めながら問う。
「普段の貴女なら本心から自分を負かせた強敵をブチ殺して、首を斬り落としてやるなんて言わない……何があったの?」
問われると、ヘルガは周りのエルフ達が興味深そうに聞き耳を立てているのを承知で答えた。
「私にもさ、悔しいって言う気持ちがあったみたいでさ……後、生きたいって言う気持ちも何か出来た。だから、生きる為に私を獲物として見てる邪竜を殺すって決めた」
それは明確な意思であった。
それは明確な殺意であった。
そんな殺意と意思をヘルガが見せると、目の当たりにきたグローリヴルは驚きを露わにしてしまう。
「驚いた。敵に対して何も感じてない筈の貴女が其処まで言うなんて……」
その言葉に周りで聞き耳を立てていたハイエルフ達と、姉妹の遣り取りを眺めてたエヴァンジェルも心の中で何度も頷いてしまう。
だが、ヘルガは気にせずに言う。
「私だって初めてよ。ガズッルのクソとその手下のクソオーク共に追い回されて逃げた時だって、そう言うのを感じなかった。で、ガズッル達を殺し返しても何も感じなかった」
その言葉にダヴィドは黙したまま耳を傾けるエヴァンジェルへ近付き、小声で尋ねた。
「ガズッルと言うのは?」
「この里に20年前にオークの軍勢を率いて侵略してきたオークの族長であり、強大な戦士よ……ヘルガは20年前の未だケレブリルだった頃、そのガズッルと周りにいた10の手下を皆殺しにした」
「その時もあの例の武器を?」
ダヴィドが当然の様に浮かんだ銃の使用を触れると、グローリヴルが代わりに答える。
「いいえ、当時のケレンは幼い頃から母様にその力を使うなと厳命されていた。で、私とケレンでガズッルを殺しに行ったんだけど、ケレンはあの時も含めてあの戦ではあの武器を使ってない」
「え?」
今度はダヴィドが間抜けな声を漏らしてしまった。
間抜けな声を漏らしながらも直ぐに立ち直ると、ダヴィドは確認する様に言う。
「あの例の銃という武器はここ最近使い始めてると言う事ですか?」
ダヴィドの確認とも言える問いに対し、ヘルガは正直に答えた。
「そうよ。厳密に言うなら、冒険者になる10年前に母さんから許しを貰って、其処から召喚の練習と銃の扱いの練習をして……冒険者になってからも便利だから使い続けてるから、19年や20年は使ってるわね」
その答えにダヴィドは信じられない様子であった。
だが、直ぐにダヴィドは自分は短命なる人間。ヘルガはハイエルフという永命に近い年月を生きる長命種である事を改めて思い出せば、納得するしか出来なかった。
そんなダヴィドを他所にグローリヴルはヘルガにジト目を向ける。
「と、言う事は10年も戦士として堕落してる訳ね」
「否定はしない。でも、滅茶苦茶便利なんだもん……攻撃魔法使わずに済むし、遠くからやれるから魔力を身体強化とかの補助に回せるのも相まって」
「相変わらず合理的な嗜好なのね。それじゃ、人生つまらなくなるわよ?」
「それは最近になって気付いた。で、母さんは何処よ?」
ヘルガが話題を逸らす様にして問えば、グローリヴルは答えた。
「今向かってるのにせっかちね」
グローリヴルが呑気に返すと、ヘルガはそれ以上の事は言わなかった。
そうして歩みを進めていると、ヘルガ達は一件の家に着いた。
その家を見ると、ヘルガは懐かしさを覚えながらもこれから会う母親に対し、どう切り出せば良いのか?悩んでしまう。
だが、悩んだ所で良い案が浮かぶ理由でもない。
だからこそ、ヘルガは姉であるグローリヴルが開けるに任せて躊躇いなく足を踏み入れた。
「母さん!放蕩バカ娘が帰って来たわよ!」
グローリヴルが家中に聞こえる様に声を張り上げて告げれば、奥から気品ある女性の声が返ってきた。
「居間に居るわ」
それを聞くと、ヘルガは2人の連れと共に奥へと歩みを進める。
そして、居間に着けば、静かにカップを手に茶を飲む妙齢のハイエルフと言える綺麗な女性もとい、母親であるエレンミアに向けて娘として語り掛ける。
「母さん。ただいま」
「お帰りなさい。意外と早くに帰ってきたわね」
10年ぶりに帰ってきた娘に対し、母親である彼女はハイエルフの感覚で暢気に返した。
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