打ち合わせ
朝の日課を終えた後のヘルガは、その日を有意義に過ごした。
自宅のベッドで寝そべったまま未だ読み終えてない書籍を読んで物語の世界に耽り、読み終えれば、次の読んですらない書籍を開いて読み耽る。
そうして何冊もの本を読み終えれば、早めの昼食を食べに行って腹を満たし、王都を散策。
散策を愉しみ終えれば、帰宅。残った洗濯物を洗濯して干し、下着姿で冒険に用いた各種装具の清掃を初めとした整備を本格的に進めた。
整備が終わってやる事が無くなれば、下着姿のまま腕立て伏せを初めとした筋トレをして、井戸で汗を流すと共に汗だくになった下着類を洗濯して他の洗濯物と同様に干す。
そして、夕方まで読書に耽り、夕方になれば洗濯物を取り込んでから夕餉を食べに出掛ける。
そんな有意義な休みを過ごした翌日の早朝。
同じ時間に起きたヘルガは昨日と同じトレーニングメニューを熟し、何時もの様に汗を流して着替えたら朝食を取りに行くのも兼ねて冒険者ギルドへと赴いた。
そうして、いつもと変わらぬ朝を過ごしたヘルガは冒険者ギルドの一室で王家の代理人達と打ち合わせをしていく。
「セレスティア王女殿下はお忍びでソグルスへ赴き、なり立ての冒険者と言う形で探索を致します」
代理人が告げれば、ヘルガはそれを承知すると共に尋ねる。
「護衛はどの様な形で行うのですか?」
「ソグルスの各階に我々の手の者が冒険者に扮し、周囲に不審なモノが無いのを確認。万が一の際には居合わせた冒険者と言う名目で応援に向かう事になります」
代理人が答えれば、ヘルガが異論を挟まなかった。
そんなヘルガに代理人は「しかし」そう前置きすると、懸念する様に告げる。
「最下層は広々とした森林ですので、流石に全域をカバーするのは難しいと言わざる得ません」
「其処は私がセレスティア王女殿下に傍らに付きますので、私と王女殿下の周囲を警戒する様にして下さい」
「それならば、無駄に人員を置く必要が無くて良さそうですね」
代理人がヘルガの要望を快諾すると、その代理人の隣に座る年輩の男は値踏みする様な視線と共に尋ねて来た。
「セレスティア王女殿下の守護の為に人を割くのは理解出来るし、反対するつもりも無いが、流石に大袈裟過ぎないかね?」
年輩の代理人の言ってる事も間違ってはいない。
だが、万が一の事を考えるなら大袈裟な方が対処もしやすくなる。
それを理解しているからこそ、ヘルガは答える。
「セレスティア王女殿下に万が一の事があってからでは遅いのです」
「その通りなのも認める。だが、それでも大袈裟だろう?」
楽観視すると共に呆れる様に言う年輩の代理人に対し、ヘルガはハッキリ告げる。
「仮令、順位が低くとも王位継承者である事に変わりはありません。セレスティア王女殿下は未だ学生の身で政治的な価値は低いと言われようが、王女殿下である事に変わりません」
「正論だな。しかし、君は何を警戒しているのだね?」
問われると、ヘルガは自分の懸念している事を一言で答えた。
「城の内外にて王女殿下と王を仇なさんとする不届き者を警戒しております」
「仇なす者とな?」
「はい。城の内にその様な恐れ知らずが居るとは考えたくありませんし、私も詳しく知らないので深くは言いません。ですが、城の外となれば話は違います」
「ほう?」
興味深いと言うように相槌が打たれると、ヘルガは語る。
「城という安全極まる厳戒態勢の敷かれた要塞から陛下の娘が出る。しかも、ダンジョンと言う何が起きるのか?解らぬ場へと赴く……城の外に多くいる邪なる考えを持った愚か者達にすれば、千載一遇の好機でしかない。そう言わざる得ません」
その答えに年輩の代理人……否、代理人に扮する国王は納得するしか出来なかった。
同時に、偶に城下町へ遊ぶ放蕩息子が何故、ヘルガに絶対の信頼を置いているのか?それも敢えて訝しむ様に反論した事で理解と納得も出来た。
だからこそ、年輩の代理人に扮する国王は自分の考えが至らなかった様に振る舞う。
「君の言う通りだ。だが、セレスティア王女殿下を狙う者が居ない可能性は考えないのかね?」
国王が楽観視してる様に言って、どう答えるか?興味を持てば、ヘルガは残念そうに答えた。
「私もそう考えたいのは山々なのですが、王女殿下と言う陛下の愛娘と言う存在は邪な者達にすれば、最高の獲物と改めて言わざる得ません。王女殿下を誘拐し、陛下に何かしらの要求されてしまったら?その責任を誰が負い、その問題をどう処理すべきなのでしょうか?」
「ぐうの根も出ない正論だな。ならば、何も起こらなければどうするのだね?」
そう問われると、ヘルガは涼しい顔で返した。
「何の問題も起きない方が良いに決まってるじゃないですか……それに……」
「それに?何だね?」
「問題が起きる可能性を潰して問題が起きない様にする。同時に、万が一問題が起きてしまった際に対処出来る様に体制を構築するのも大事な事です。だからこそ、大袈裟と言われても必要不可欠である……そう言わざる得ません」
断言する様に告げれば、国王は異論を挟まなかった。
寧ろ……
異論を挟む余地の無い完璧な答え。そう言わざる得ないな……此処まで危険性を考えられる者もそう多くは無い。
他の白金等級の者達も彼女を見倣って、こうした視点を持って欲しい所だが……
流石に高望みし過ぎだな。
ヘルガに対し、最高の評価を下していた。
そんな国王はポーカーフェイスを保ちながら、余計な事を聞いたと謝罪する。
「すまんな。余計な事を聞いた」
「お気になさらないで下さい。貴方の考えも理解出来ますので」
ヘルガは穏やかな笑みと共に返した。
その後。警備の具体的な計画を立て、計画の段階で見付かった問題点の洗い出しや万が一の際の対応等を打ち合わせた。
そして、打ち合わせが長引いて昼過ぎになると、今日の打ち合わせはコレで終わりという事になった。
「今回は此処までにしましょう。次回は明日の同じ時間で宜しいですかな?」
代理人が告げると、ヘルガは「問題ありません」そう認めると、2人の代理人は立ち上がって応接室を後にしようとする。
そんな2人を見送るヘルガはポツリと漏らした。
「この次は素顔でお会いしたいですわ」
その言葉に2人の足がピタリと止まる。
それから直ぐに国王は振り返り、確認する様に問う。
「気付いていたのかね?」
問われると、ヘルガは床に跪いて答えた。
「えぇ、3年ぶりで御座いましょうか……陛下?」
3年前。
ヘルガはトマーゾと初めて出会い、結果的にトマーゾの生命を助け、助けた後に目の前の彼から父として国王として礼を授かった。
その時の事をヘルガが挙げれば、国王は優しげな笑みと共に告げる。
「良い。頭を上げよ……此処に居るのは愚かな楽観視をしているだけの代理人に過ぎぬ。見送りも此処で十分だ」
「では、御言葉に甘えさせて戴きます」
その言葉と共に国王と代理人が去れば、ヘルガは立ち上がって席に戻って大きく息を吐いた。
「ふぅぅぅ……疲れた」
誰に言う訳でなく独りごちると、ヘルガは呆れ混じりに漏らす。
「娘を心配する父親の気持ちは解らないでもないけど、国のトップがホイホイこんな所に来るのは不味過ぎないの?トミーと言い、あの方と言い、フットワーク軽過ぎない?」
呆れ混じりにボヤいてスッキリすれば、ヘルガは直ぐに気持ちを切り替える。
「今日の仕事は終わったし、昼飯喰って寝よ」
さっきまでの真面目な雰囲気が嘘のような軽さを見せれば、ヘルガは応接室を後にするのであった。
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