朝の日課
仕事終えて帰還した翌日の早朝。
早起きした下着姿のヘルガは昨日着ていた戦闘服上下をまた着ると、ブーツを履いて外に出る。
外は薄暗く、未だ日が昇ってなかった。
そんな肌寒い空気を大きく吸い込んで深呼吸すると、ヘルガは駆け出す。
5分後。人気の無い街中を駆け抜けて王都を取り囲む長大な城壁の外へ出れば、ヘルガはその城壁を取り囲む長大な堀の周りを黙々と走り続ける。
体力や肺活量は一朝一夕如きで付く訳じゃない。
だからこそ、ヘルガは日課として早朝ランニングを10年以上続けていた。
そうして王都の外周を2時間近く走り続けて35キロを走り終えれば、ランニングからクールダウンの為の緩やかな駆け足へと切り替える。
駆け足と共に呼吸を整えながら、汗だくのまま自宅へと戻っていく。
6分後。井戸のある自宅の裏庭まで帰ってくれば、その場で腕立て伏せの姿勢を取って腕立て伏せを始めた。
黙々と腕立て伏せを一定のペースを維持したまま続け、2分ほどで100回実行すれば、今度は体幹トレーニングであるプランクへと移る。
地面に汗で出来た小さな水溜りを作り、全身に疲労を感じながらも姿勢を維持し続ける。
そうしてプランクを3分すれば、立ち上がってスクワットを始める。
その後。腹筋や背筋等をしたヘルガは再び腕立て伏せから始め、2セット目に入った。
約15分程で3セットの筋トレを終わらせ、柔軟体操を完了させると、ヘルガは汗でビショビショに濡れた戦闘服と下着。それにブーツと靴下をその場で脱ぎ捨てていく。
一糸纏わぬ姿になると、井戸に赴いて水を桶に汲み、頭から浴び始めた。
冷たい水を沢山浴びて汗を洗い流すと共に火照った身体を冷まし、井戸水を飲んで乾きを癒せば、其処で漸く一息吐いた。
そして、裸のまま自宅に入れば、昨夜寝る前に用意していたタオルで全身の雫を拭っていく。
暫く拭い続けて濡れた身体を乾かせば、下着を纏った。
下着姿のヘルガは予備の戦闘服の下衣を履き、上に戦闘服の上衣を纏うと、ボタンを留めていく。
そして、ブーツを履いて普段通りの戦闘服姿になれば、夕餉に行った時と同じ様にガンベルトを腰に巻いた。
「朝飯食いに行くべ」
独りごちると、ヘルガは家を後にしたのであった。
20分ほど歩いて冒険者ギルドまで来ると、肉の焼ける香ばしい香りと共に朝飯を屋台で済ませる冒険者達で賑わっていた。
そんな賑わう屋台の1つに赴くと、屋台のオヤジが声を掛けてくる。
「よう!ヘルガ!いつもので良いか?」
「えぇ、お願い」
ヘルガが小銭と共に返せば、オヤジはパンにバターを塗ってザワークラウトを挟む。
それから煮え滾る鍋から茹で上がったソーセージを取り、パンに挟んでレモネードと共に差し出して来た。
「ほらよ」
「ありがと」
オヤジからホットドッグとレモネードを受け取ったヘルガは礼を返すと、その場から離れてレモネードを一口飲んでからモグモグと食べ始める。
あっという間に食べ終えれば、半分ほど残るレモネードを手に冒険者ギルドへと入る。
ギルド内は仕事を受けようとする冒険者達や依頼を持ち込んで来た者達で賑わっていた。
冒険者や客達を他所にヘルガは壁の掲示板へと足を運ぶ。
掲示板の前は依頼を確認し、選り好みする冒険者達で溢れかえっていた。
そんな掲示板から少し離れた所に貼り出された1枚の大きな紙を見ると、ヘルガはポツリと呟く。
「居るわけ無いか……同郷の奴なんて」
その紙にはこの世界の文字ではなく、英語とロシア語。それに日本語である事が書かれていた。
貼り紙を掲示したのは当然、ヘルガだ。
勿論、ギルド長の許しも得た上で掲示している。
そんな掲示物に変化が無い事を確認すれば、ヘルガは用が済んだと言わんばかりに踵を返して去ろうとする。
すると、ヘルガに声を掛ける者が居た。
「ヘルガ!」
自分を呼ぶ声に振り返ると、若いのを連れたサリーの姿があった。
ヘルガはサリーに歩み寄ると、用件を察しているが故に告げる。
「アンタの宝探しに付き合う気は無いわよ」
「連れねぇ事言うなよ……」
残念そうにするサリーを他所に若い男は問う。
「サリーにシレーラスの事を教えたのアンタなのか?」
「そうなるわね」
「マジかよ」
ゲンナリした様子で若い男がボヤくと、ヘルガは老婆心から教えた。
「宝箱は10階層よりも下に沢山あったわよ」
ソレを聞けば、サリーは満面の笑みで弟子たる若い男を引っ張るように言う。
「つー理由だ。装備整えたらひと稼ぎ行くぞ小僧」
「解ったよ。クソオヤジ」
そんな遣り取りと共に2人が冒険者ギルドを後にすれば、ヘルガも冒険者ギルドを後にするのであった。




