偶にはこう言うのも悪くない
酒場で風呂上がりの一杯を満喫した後。
ヘルガは昼前に王都郊外の小さな自宅へと帰っていた。
自宅の裏にある井戸を利用し、3日分の下着の替えと3日着続けた戦闘服を念入りに洗って干していく。
そうして衣類の洗濯が済めば、今度は装具へと移る。
チェストリグ内の40発の5.56㎜ NATO弾が収まる樹脂製の弾倉複数を初めとした各種物品を抜き取れば、ヘルメットから暗視ゴーグルを外し、更にはガンベルトからも各装具を外していく。
暫くして全ての装具を取り外し終えれば、取り出した多数の品々を目視点検する。
全ての物品に異常が無い事は確認し終えれば、チェストリグを初めとした各種装具の洗浄を始める。
入念に洗って綺麗にすれば、洗濯物と一緒に干した。
こうして探索に用いた衣類と装具の洗浄が済ませると、ヘルガは自宅へと戻った。
自宅に入り、ブーツを脱ぎ捨てて戦闘服上下を脱いだヘルガは靴下も脱ぎ捨てれば、Mk18の整備を始める。
弾倉を取って、チャージングハンドルを引いて薬室内の1発を抜いて完全に抜弾した後。サプレッサーを外せば、ダンジョン内でしたのと同じ手順で素早く分解。
そうしてあっという間に分解を完了させれば、慣れた手付きで各部品を清掃していく。
暫くして清掃し終えれば、流れる様に組み立てる。
組み立てが直ぐに済めば、各動作点検。
セイフティ、セミオート、フルオートの3つの状態の動作点検を完了させれば、抜いていた弾倉と弾を装填してセイフティを掛けてベッドに立て掛けた。
その後。整備の後片付けを済ませれば、ベッドに身を投げた。
そのままヘルガは意識を手放すと、鼾を響かせながら泥のように眠ってしまう。
そうして7時間が過ぎて夕方過ぎとなり、寝惚け眼で起きると、ヘルガは大きな欠伸をする。
「ファアアァ……3日ぶりにグッスリ寝れたわ」
すると、腹が大きな音を立てた。
「昼も食わずに寝たんだからメッチャ腹減るのは当然よね」
そうボヤいたヘルガは脱ぎ散らかした靴下を履いて戦闘服上下を纏ってブーツを履くと、外に出して干していた着替えと装具一式を回収して整理整頓する様に片付けた。
右腿のホルスターからフラッシュライトとマイクロダットサイトの着いたGLOCK20を抜いてスライドを軽く引き、プレスチェックをして異常が無い事を確認したヘルガはマチェテとコンバットナイフ。それに予備の弾倉が3本詰まったマグパウチの付いた日常用のガンベルトを腰に巻くと、街へと繰り出す。
夕暮れ時でも王都は賑やかで人の通りが多かった。
そんな人混みの中を呑気に歩み、冒険者ギルドから少し離れた所にある仕事終わりの冒険者狙いの酒も出す食堂へと入る。
食堂内は仕事終わりの冒険者達で賑わっており、活気に満ち溢れていた。
幸い、席が1つ空いていた。
その席に座ると、ウェイターをするケンタウロスの少女が注文を取りにヘルガの元へと来る。
「いらっしゃい。何にします?」
「取り敢えず、ザワークラウト、ソーセージとチーズの盛り合わせ。後、レモネードをお願い」
「あいよ。いつものですね」
注文を取り終えれば、ケンタウロスの少女はその巨体を慣れた様子で転換させて食堂の親父の方へと歩んでいく。
その様子に相変わらず器用ね。そう思いながら料理を待ってると、好奇に満ちた視線を感じた。
然りげ無くその視線の主を一瞥する。
視線の主は未だ駆け出しで、子供と言っても遜色無い若い冒険者の男女であった。
そんな男女の冒険者はヘルガがエルフなのに関わらず、平然と肉を食おうとしてる事に困惑してる様に見えた。
しかし、ヘルガは気にする事無く先に来たレモネードを啜り、料理を待つ。
向かいの席に座ってた魔導師であろう女冒険者が食事を終えて席を立ち、他のウェイターがその席を片付け始めた頃に残りの注文した品が来た。
「お待ちどう。ザワークラウトとソーセージとチーズの盛り合わせよ」
その言葉と共にケンタウロスの少女が目の前に注文した品を置けば、ヘルガはフォークを手にザワークラウトをモソモソと食べ始める。
ザワークラウトを一口食べた後、チーズをムシャムシャと食べてからソーセージに齧り付く。
モグモグと咀嚼して飲み込めば、ザワークラウトをまたモソモソ食べて口の中をスッキリさせてからソーセージとチーズをムシャムシャ食べる。
ヘルガの健啖ぶりに先ほど好奇の視線を向けていた幼さ残る冒険者の男女は本当にエルフなの?と、困惑してしまう。
そんな男女を気にする事無くヘルガが食事を堪能してると、向かいに長い透き通った金髪を後ろに束ねるハイエルフの女戦士が座った。
「まさか、この様な所で同胞に会えるとはな」
その言葉にヘルガが視線を向けると、その女戦士は丁寧にも自己紹介をして来た。ハイエルフの言葉で。
「私はアグラノールの子、グローリエルだ」
自己紹介されたならば、返さなければ無作法。
それ故にヘルガは食事の手を止めると、ハイエルフの言葉で自己紹介した。
「ヘルガよ」
ヘルガがハイエルフとしての名。即ち、本名を名乗る事は無かった。
だが、そんな無礼に対し、彼女……グローリエルは責めなかった。
「その名はまるで定命の人の子の様だな」
「そう言う貴女は良い所の娘なのに冒険者をしてるのね」
グローリエルの首元に光る冒険者である事を示すチッポケな金属に視線を向け、ヘルガが言えば、グローリエルは肯定すると共に意外そうにする。
「ほう。父を知ってるのか?」
「そうね……神代の頃から色んな邪なる者達を相手取って戦い抜いた歴戦の偉大なる戦士って事ぐらいしか知らないわ」
ハイエルフの中で最も武勲を立てた偉大なる歴戦の戦士。
それがグローリエルの父たるアグラノールであった。
そんな父を娘として誇りに思っているグローリエルは少しだけ気分良くなるも、ヘルガの事に興味津々であった。
「そう言う君は何者なのだ?」
「未だ50年も生きてないヨチヨチ歩きの赤子。そう言うべきかしら?」
その答えにグローリエルは「面白い冗談だ」と、本心から愉快そうに返せば、ヘルガが食べてる物に目が留まる。
「君は肉を食うのか?」
正気を疑う様な眼差しと共に問われると、ヘルガは涼しい顔で肯定する。
「それを言うなら草木だって生命じゃない。それに……」
「何だね?」
「生命が他の生命を喰らって生きるのは自然の理なんだから、私が肉を喰らっても問題は無いと思うのよ」
その答えにグローリエルは愉快そうに笑う。
こうして一頻り笑うと、直ぐにスンと真顔になった。
「ソレを私の里の者達や他の同胞達が聞いたら間違いなく卒倒するな……言わんとしている事は理解出来るから私は責める気は無い」
「なら、食べてみる?」
「チーズは私も好きだが、肉そのものは遠慮する」
本心からそう返されれば、ヘルガは「冗談よ」と、にこやかに返して食事を再開する。
程なくして注文した料理を平らげると、モソモソとサラダを食べていたグローリエルは食べる手を止めて尋ねた。
「この店で夕餉を取っていると言う事は、君も冒険者なのか?」
「えぇ、貴女と同業になるわね」
「やはり、そうだったか……して、等級を聞いても?」
グローリエルが嫌味などの負の感情を一切抜きに純粋な好奇心から尋ねると、ヘルガはニッコリと笑って答えた。
「秘密♡」
「では、当ててみよう……君の等級は白金だ」
アッサリ言い当てられてしまうと、ヘルガは素直に降参するかの如く肯定する。
「あら?知ってたの?」
「噂には聞いていた。冒険者として最高位の白金等級を有する変わり者の同胞が此処に住んでると言うのをな……それと、君と同じ髪色をした他所の里の同胞で私の友が、その変わり者に会う事があったら言伝を……と、頼まれてる」
グローリエルの口から自分と同じ髪色をした同胞と言う言葉が出れば、ヘルガは真剣な面持ちで言伝の内容を尋ねた。
「何て言ってた?」
「偶には顔を見せに帰ってこい。御母堂も君の顔を見たい……だ、そうだ」
言伝の内容が家族からの偶には顔見せろ。
そんな内容な事にヘルガは呆れながらも、グローリエルに言伝を頼んだ。
「貴女の親しい友に言伝を頼んでも良いかしら?」
「あぁ、構わない」
「言伝の内容は、気が向いたら顔出す……以上よ」
素っ気ない内容に言伝を頼まれたグローリエルは呆れそうになるが、ヘルガが素直じゃないだけと察するが故に呆れなかった。
「必ず伝えよう」
ヘルガは「ありがとう」そう感謝すると、レモネードのおかわりとメインディッシュにポトフを追加注文すれば、グローリエルと愉しく会話を弾ませるのであった。
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