言葉を失う
「それで?貴女はツァールスに行かずに東へ向かってるんです?」
トミーとマクスウェル。
面倒で厄介な問題を押し付ける2人が頭を悩ませているのを他所にダヴィドは前を歩くヘルガに尋ねると、ヘルガは暢気に返して来た。
「あの飛び切り迷惑なクソ2匹を殺す為の手段を確保したり、具体的な居場所を掴みたいからよ……貴方だって、どっか行く時は行く前に色々と知ったり、支度を徹底的にしてから行くでしょ?それと一緒よ」
ヘルガから返ってきた答えにダヴィドは「成る程」と、直ぐに理解すると共に納得する。
納得するが故に尋ねる。
「それは解ったけど、その為に何処へ向かってるのか?それを聞きたいんですよ……」
ダヴィドが問うと、ヘルガは答えた。
「悪いけど到着するまで秘密。でも、貴方は近付くにつれて気付くか、既に察してたりするんじゃない?」
そう問うと、ダヴィドはまさか……そう言わんばかりの驚きを口にする。
「ヘルガ。アンタまさか魔女の迷宮を攻略したのか!!?」
「流石は優秀な間諜と言うべきかしら?気付くの早過ぎない?」
ヘルガが呆れ混じりに肯定すると、ダヴィドは益々信じられないモノを見る目を向けると共に言葉を荒くブチ撒けていく。
「アンタ自分が何を言ってるのかマジで解ってるのか!?魔女の迷宮は今も踏破した奴が居ない伝説のダンジョンで、帰って来た奴は誰も居ないんだぞ!!?」
「そう?私は帰って来れたわ」
涼しい顔でさも当然の如く言葉を返されてしまうと、ダヴィドの軽快なマシンガントークはピタリと止んでしまう。
そんなダヴィドを気にする事なくヘルガは歩みを進め続ける。
だが、ダヴィドのマシンガントークは直ぐに戻った。
「なら、魔女に何を願ったんだ?迷宮を踏破して魔女の前に立てたら、願いが叶うんだろ?だったら、アンタは何を願ったんだよ?」
矢継ぎ早に問われると、ヘルガは一言の答えでダヴィドを沈黙させる。
「それをこれから叶えて貰うのよ」
その答えにダヴィドは言葉を失い、まるで舌を無くしたかの如く完全に沈黙してしまった。
しかし、ヘルガはそんなダヴィドから聞きたい事があるが故に尋ねる。
「所でさ、帝国内に居る強大な力を持った奴に得体の知れない連中が接触を図ったって話とか消息を絶ったとかいう話はあるの?」
ルシアン達。
否、ルシアン達が仕える主は強大で危険な力を有する者達に向け、ルシアン達の様な手下を送り込んでいる。
それは自分にも来たし、邪竜にも来た。
ならば、帝国内に居るであろう強大な力を有する者達にも接触を図ったのではないか?
ヘルガがそう考えて問うと、それは当たっていた。
「えぇ、有りますよ。しかし、大半はそれを蹴ったらしいですが……私は担当では無いので詳しくは語れませんがね」
担当ではないから、詳しく知らない。
その形で詳しく語ろうとしないでいるダヴィドに対し、ヘルガは釘を刺す。
「後で実はヤベェ奴の1人であるソイツは行方不明でした。オマケに連中と手を組んでましたーってのは無しにして欲しいんだけど?」
「それは当然ですよ。此方としても不用意に問題を起こす気は無いですし、私に限らず上司も今の答えが私の出せる情報でしかないんですよ……なので、今頃の上司は担当の者達を集め、改めて現状を報告させてる筈ですよ」
「なら、現時点では全員の居所は把握してるのね?」
その問いにダヴィドは押し黙ると、意を決した様に覚悟を決めて答えた。
「コレは上からは言うなと言われてるので、私の独り言として聞いて下さい……帝国にはジャビール・ラーズィーと言う高名かつ極めて優秀な錬金術師と、ダビーヴェと言う鍛冶と金属細工に長けた職人が居るのですが、その両名が消息を絶っております」
ダヴィドが独断で独り言と言う名目で帝国内の情報の一端を開示すると、ヘルガは確認する様に問う。
「その2人は戦争に必要な品を造れたりするの?後、それは誘拐?それとも神隠しみたいなフッと消えてるの?」
「戦争に関してはそう思って戴いても構いません。しかし、誘拐か神隠しに関しては誘拐と言うのが此方の見解です」
具体的な事は語らずにただ肯定のみをダヴィドが返せば、ヘルガは帝国が本気になるのも理解した。
「成る程。帝国も高名かつ優秀な錬金術師と鍛冶と金属細工に長けた優秀極まる職人を取り返したいのもあって、本気で動いているわけね……」
「そう言う事になりますね。しかし、その2人は私の様な凡人には理解が及ばぬ碩学の徒でもあるのは理解してるんですが、これが貴女を初めとした危険人物とどう繋がるのか?これが解らないのも恥ずかしながら現状であります」
ダヴィドが正直に2人の帝国に於ける高名な碩学の徒とも言える極めて優秀な技術者が誘拐されている事を正直に告げ、更には今回の事態にどう繋がっているのか?それすらも帝国は掴めていない。
そう打ち明けると、ヘルガは仮説を立てる為に問うた。
「錬金術師と職人。この2人は機械工作にも詳しかったりするの?」
「錬金術師は分かりません。ですが、ダビーヴェは様々な細工と金属加工を得意とする職人ですから詳しいと見た方が良い」
「ダビーヴェは当然か……そうなると、一番の問題は錬金術師か?ねぇ、錬金術師って病とか研究していたりする?」
ヘルガが確認すると、ダヴィドは肯定した。
「えぇ、彼は錬金術師であると同時に医者でもあります。なので、病を研究して人々の為に役立てようと日夜励んでおり、皇帝陛下もいたく彼を気に入って多大な支援をしていました」
「なら、錬金術師の研究を纏めた書類は?」
「それも奇妙な事に全てゴッソリ無くなってました」
最悪な答えが返ってくると、ヘルガは自分だけに収めるのは無理。
そう判断して仮説を共有した。
「錬金術師を狙ったのは、錬金術師の持つ知識を悪用する為よ」
「それは理解してるんですが、具体的に何をしようとしているのか?それが解らないので此方は困っているんですよ」
ダヴィドが嫌な予感と共に返すと、ヘルガは更に踏み込む様にして仮説を告げた。
「錬金術師が人々の為に病を日夜研究していて、その中に疫病も含まれている。だとするなら、疫病を悪事の為に利用する為に連中は錬金術師と研究資料を奪った……これが外れて欲しいけど、可能性が最も高い仮説よ」
その仮説にダヴィドはまたしても言葉を失ってしまう。
だが、浮上した最悪の事態を本国たる帝国に伝える為、ダヴィドはヘルガに願った。
「次の街でこの仮説を報告したいので寄って戴けませんか?後、ペースを上げられるなら上げて戴きたい……これは早急に報告しないとならないので」
「そう言う事なら先を急ぎましょう。後、此方も共有するけど責めるのは無しよ」
そう言う事になれば、2人はペースを上げてこの先にある街へと急ぐのであった。
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