日常は変わらぬ。なれど、王命は下る
トミー。
否、トマーゾ殿下より王命を拝命した翌朝。
ヘルガは何時もの様に早朝トレーニングを済ませて朝食を適当な屋台で摂ると、何時もの様に冒険者ギルドに顔を出していた。
冒険者ギルド内は何時もの様に多くの冒険者達でごった返し、賑わいを見せている。
そんな様子にヘルガは今日も変わらないわね。と、心の中で漏らす。
すると、ヘルガに声を掛けて来る少女が居た。
「ヘルガさん!お久しぶりです!」
「あら、セラスじゃない。セティとの研究課題は終わったの?」
ヘルガに声を掛けた少女は先日、ソグルスで出会い、共にセレスティア王女の護衛をしたセラスであった。
そんなセラスはヘルガの前に立つと、頭を深々と下げて礼を述べる。
「この間は本当にありがとう御座いました!お陰で何とかなりそうです!」
「礼なら要らない。私がしたかったから勝手にやっただけだし……」
ヘルガが素っ気なく返すと、セラスは頭を上げて言う。
「だとしても、私はヘルガさんに助けられた事に変わりありません!だから、私も私が礼を言いたいから礼を言います!」
其処まで言われれば、ヘルガは素っ気なくも「どういたしまして」と、返した。
そんなヘルガにサリーが声を掛けて来た。
「ようヘルガ!今日も荒稼ぎか?」
「はい、サリー。そう言うアンタは?」
「俺は何時もの様に坊主と小遣い稼ぎだ。貧乏暇無しって言うだろ?」
「気張って稼ぎなさいな」
気の良い仲間同士の如くヘルガがサリーと遣り取りをすると、セラスはサリーに頭を下げて挨拶する。
「お久しぶりです。サリーさん」
「よう。セラスじゃないか……元気そうで何よりだ」
サリーが気さくに挨拶をすると、ヘルガは意外そうに尋ねた。
「何?二人とも知り合いなの?」
「ベルナディ……セラスの親父とはブライディと一緒に冒険者になった仲でな、小さい頃から知ってる」
「父の葬儀後の生活でもサリーさん達にはお世話になりました」
「気にすんな。俺がしてぇからしただけでしかねーんだ」
サリーが気の良いオヤジの如く返せば、セラスは改めて頭を下げて感謝の意を示した。
そんなサリーにヘルガは言う。
「だったらさ、セラスも一緒に連れてって仕事したら?ネッド1人よりもセラスと2人の方が効率良いでしょ?」
その提案にサリーは快諾する様に答えた。
「俺は構わねぇぞ。セラスが良いならな」
「なら、よろしくお願いします」
そう言う事になれば、セラスはサリーとネッドの2人と共にサリーが請け負った依頼を果たす為に冒険者ギルドを後にした。
そうして3人を見送ると、ヘルガにまたも声が掛けられる。
「ヘルガさん!ギルド長がお呼びです!」
冒険者ギルドのスタッフが告げると、ヘルガは確認する様に尋ねる。
「執務室?」
「はい!直ぐに来る様にとの仰せです!」
確認が取れると、ヘルガは案内は要らないとスタッフに告げて歩き出す。
それから程なくしてギルド長であるブライディの執務室にノックして入れば、ヘルガは応接用の椅子の下座に座った。
そんなヘルガの姿を見れば、ブライディは向かいの上座に座って要件を切り出す。
「既に殿下御本人から聞いていると思うが、確認と手続きも兼ね、敢えて伝える……北部の隣国であるツァールスに居ると目される"死を弄ぶ者"と" 魔となった者"。その両名の討伐が王命として、ヘルガ……お前に下された」
其処でブライディが言葉を切ると、ヘルガはハッキリ答えた。
「謹んで拝命致します」
普段の口の悪さは何処へやら。
ヘルガは真剣な眼差しと丁寧な言葉遣いを以て、王命として依頼された討伐命令を受けた。
そんなヘルガにブライディは告げる。
「期限は区切られていない。だが、可能な限り早急に討伐。また、討伐が困難ならば討伐対象である両名の居場所の把握に務めよ……それが王命だ」
ギルド長と言う大任を司る立場としてブライディは告げると、此処からはヘルガの友にも似た上役の様に態度を崩し、尋ねた。
「普段のお前なら嫌がるのに嫌に素直だな。何があった?」
普段のヘルガを知るからこそ、ブライディは文句1つ漏らさずに謹んで拝命致します。そう返したヘルガがとても珍しかった。
特に前回の王命とも言える護衛依頼の件があったが故に尚更珍しかった。
そんな疑問を投げられると、ヘルガは答える為に敢えて問い返す。
「北の件……何処まで知ってるの?」
「詳しくは知らん。だが、きな臭いのは感じてる」
「なら、詳しくは言えないけど、死を弄ぶクソと魔に堕ちたクソを始末しなきゃなんない事情があるってだけの事。後、クソ2匹に掛けられた賞金が魅力的だからもあるわね」
普段のヘルガならば、必要な情報を共有する。
勿論、請け負った依頼関連でも報告はキッチリする。
それらを知るからこそ、ブライディは敢えて聞かなかった。
「そう言う事にしといてやる。それで?具体的な計画はあるのか?」
「あ?ねーわ、そンなもん」
「だと思った。だが、俺としては立場的にどんな計画で討伐を進めるのか?把握しないとならん……だから、計画が決まったら直ぐに報告しろ。後、お前がどこぞの誰に協力を求めても俺や他の連中は見なかった事にするし、知らなかった事にもする」
それはブライディなりの協力でギルド全体を護る為の保身であった。
だからこそ、ヘルガは何も言わない。
言わないが、これからする事はギルド長に報告する冒険者として告げる。
「この後、暫くは準備と情報集めに奔走する。だから、私を指名する依頼は引き受けられない」
「それは解った。だが、どれぐらい受けられない?」
「そうね……準備に最悪一月かそれ以上。運が良ければ、それより短く済むかもだけど、楽観視出来ない。後、実際に実行に移すので一月とか掛かる可能性が高い」
「つまり、解らん訳か?」
「そう言う事」
「じゃ、そこら辺は別の奴に回させるから気にしなくて良い。後、使った金の額を記録しておけ。王命である以上、掛かった経費は王宮に支払わせる」
「なら、私はもう行くわ。ほら、色んな所に足を運ばないとならないから……後、殿下に伝えといて請求書を見ても怒っちゃやーよって」
「俺の立場で言えねぇわボケぇ」
ブライディが呆れ混じりに吐き捨てれば、ヘルガは立ち上がって執務室を後にする。
そんなヘルガの背に向け、ブライディは「死ぬなよ」小さな声でそう言えば、ヘルガは手をヒラヒラとさせながら退室するのであった。
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