物は言いよう
翌日の昼過ぎの午後。
ヘルガはサリー達と共に王都に帰って来ていた。
ブツの買取も問題無く終わり、分け前も約束通りに6割がヘルガの懐に収まった。
その後。自宅に帰ったヘルガは洗濯物を洗濯して干すと、ベッドに大の字になった。
そして、天井を見上げながらボンヤリと考える。
だが、それは直ぐに扉のノック音で遮られてしまった。
「居留守よー。用があるなら帰ってー」
酷い言い草で相手にする気は無い。
扉の向こうで何度もノックする者へ告げると、その者……否、トミーは大声で返す。
「ヘルガ!僕だ!トミーだ!開けてくれ!」
こんな明るい時間にも関わらず、トミーが真剣な声色を荒げさせれば、ヘルガは諦めと共に扉を開けて迎え入れた。
そうしてトミーが中に入れば、ヘルガは壁に背を預けて尋ねる。
「その様子だと、昨日の夜の事を聞いた訳ね」
「あぁ、寝てる所を叩き起こされた。だが、そのお陰でツァールスの件は本格的に対応をしなければならない事が判明した……それには感謝してるよ」
王族として、王の不在の間。王の代行として王宮に残るトミーがトマーゾ殿下として辟易とした面持ちで感謝すれば、ヘルガは尋ねる。
「どういたしまして……それで?要件は?」
「1つは昨夜と一昨日の件の確認だ」
トマーゾ殿下が要件の1つを告げると、ヘルガは前置き無しに結論を答えた。
「どっちも事実。其処から更に補足するなら、一昨日の教国つうか異端審問官に関しては、例の2人組を引き渡してやったぐらいしか言う事は無い」
「では、昨日の夜の件は?」
トマーゾ殿下が真剣に問えば、ヘルガは何が知りたいのか?察すると共に答える。
「奴……邪竜は今回の件に関わる気は無い。そう見ても良いわ」
国政に深く携わるが故、自分が最も知りたかった事をヘルガが答えれば、トマーゾ殿下は念を押す様に確認する。
「邪竜は敵に回らない。そう認識しても良いんだな?」
「今の奴が最も殺したいのは私。だから、私狙いで敵に廻る可能性は否定出来ない」
その答えにトマーゾ殿下は顔を青褪めさせると、ヘルガは更に言葉を続けた。
「だけど、アイツに武人気質があるのも事実」
「どう言う事だ?」
「聞かなかった事にしてくれると助かるんだけど、昨日、私はアイツと戦った」
「な!?」
トマーゾ殿下が驚くと、ヘルガは気にせずに続ける。
「その時に奴は私に再戦を望んでた。で、アイツは1対1のサシの決闘を重んじている……だからこそ、奴は手を出して来ない。後、コレも聞いてると思うけど、奴は北と繋がりのある連中から誘いを受けたけど、それを蹴った。だから、尚更、奴に北と組む理由が無いわ」
「君の生命を狙ってると言うのに、君は敵である邪竜を深く信じているのだな」
ヘルガが邪竜を深く信じている事を示す言葉を言えば、トマーゾ殿下は意外どころか驚きを露わにしてしまう。
そんな彼にヘルガは涼しい顔で返した。
「変な話だけど、下手な味方よりも奴という敵の方が信じられるのよね……下手な味方は何処かで狡っ辛い計算して故あらば容易く寝返るけど、クソトカゲは最初から敵だからそれを心配する必要無いからかしら?」
「ならば、私も信じるとしてみよう。だが、手放しに信じる訳にはいかない……」
国政に携わる王族としてヘルガを信じながらも警戒はする。
そう告げられれば、ヘルガは釘を刺す様にハッキリと告げる。
「だから、奴を殺せって言うなら御断りよ」
「そうは言わない。そりゃ、邪竜を討伐してくれるならその方が良い。だが、君は否としてる以上、何かしらの約束を交わして北の件が片付くまでは手出しをしない確証が欲しい……」
トマーゾ殿下が自分の妥協点を示す様にして要求すれば、ヘルガは難しい顔をしてしまう。
「そりゃ、無理な相談ね」
「何故だ?」
そう問われると、ヘルガは敢えて問い返した。
「奴の記録を読んだ事ある?」
「被害記録なら嫌というほど読んでるし、君から聞かされたこの国と各地のハイエルフの里には手出しをしないと言う約束も忘れてない」
トマーゾ殿下が肯定すれば、ヘルガはまたも尋ねる。
「なら、奴は自分から姿を見せない限りは居場所を掴めない事も知ってるわね?」
「あぁ、知ってる」
「なら、それが答え。奴は自ら姿を見せようとしない限り、接触するのはほぼ不可能。オマケに人を猿と呼んで侮り、嘗めてる様な言動をしてるけど、それは演技……奴は平然と人に化け、何の躊躇いも無く人の中に紛れて隠れもする」
「つまり、奴を探しだして約束を取り付けるのは不可能と言う訳か?」
確認する様に問えば、ヘルガはアッサリ認めた。
「えぇ、無理ね。奴の手掛かりがあるなら兎も角、奴は手掛かりを残すほどバカじゃない……あぁ、見えて人の10倍以上は頭が切れ、私以上に用心深いわ」
「君は邪竜を褒めてるのか?」
呆れ混じりに問われると、ヘルガは吐き捨てる様に答えた。
「いいえ、事実を述べてるだけ……誰があんの忌々しいクソトカゲを褒めるもんですか」
「そう言う事にしておこう。では、此処で本題になるんだが……君に頼みがある」
そう切り出すと、ヘルガは沈黙と共に頼みとやらに耳を傾けていく。
「君にはツァールスに赴き、例の怪物を2匹……仕留めて欲しい。不可能ならば、せめて居所だけは掴んでおきたい」
「それさ、戦時下なら兎も角。平時ならバリバリ違法なのを理解してる?」
ヘルガが呆れ混じりに問えば、トマーゾ殿下は涼しい顔で返す。
「おや?何処が違法なのかな?」
「他所の国に赴いて、他所の国で暗殺しろの何処に遵法精神があるのよ?」
「人聞きの悪い事を言うね、君は……暗殺ではないよ。討伐依頼だよ」
「物は言いようね」
益々呆れるヘルガに対し、トマーゾ殿下は法的根拠を述べ始めた。
「件の怪物2匹は邪竜と同じ様に我が国や帝国を初めとする様々な国から、討伐対象として多額の賞金が掛けられた大罪人にして脅威。そんな強大で邪悪極まる怪物を討伐して欲しい……と、私は王族として依頼しているだけに過ぎない」
屁理屈にも似た正論とも言えるトマーゾ殿下の言葉を聞けば、ヘルガはまたも呆れてしまう。
だが、法的根拠としては立派な正論である以上は、伸るか反るか、この2つをヘルガはトミーから迫られていた。
だが、ヘルガは直ぐに乗った。
「なら、違法じゃないわね。でも、今直ぐ殺れってのは無理よ」
「なら、君が必要とする品を私達で用意しよう。幸いにも朝イチに教国の異端審問官の偉い人物が協力する事を確約したんでね……」
「そう言う事なら、文句は無い。討伐成功した報酬は?」
金にガメつい冒険者として、報酬は幾ら払われるのか?ヘルガが問えば、トミーは答える。
「そうだな……先ずは我が国を始めとした各国からの報奨金。それから、私個人の蓄えから幾らか……それは確定してる」
「なら、面倒な仕事を押し付けるの辞めてくれるなら、アンタの蓄えは貰わないでやるわ」
ヘルガが報酬の変更を要求する。
しかし、それが叶う事は無かった。
「僕は出来ない約束はしない主義なんだ。なので、諦めて僕の蓄えを受け取って欲しいかな……」
その要求拒否に対し、ヘルガは悪態を吐くのであった。
「FUCK!」
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なので下さい。マジで下さい




