ただいま
夜のサイラスの街を歩んで一先ず宿に戻り、サリーとネッドの部屋の扉を開けたヘルガは呑気な様子で言う。
「ただいま」
「ヘルガ!?」
「お前無事だったのか!?」
ネッドとサリーが帰って来た己に驚きを露わにすると、ヘルガは気にする事無く暢気に尋ねる。
「ブツの換金済んだ?」
「そんな事より邪竜は!?邪竜はどうなったんだ!!?」
邪竜と言う生ける厄災がどうなったのか?
サリーが声を荒げさせながら真剣に問うと、ヘルガは他人事の様に答えるた。
「興が削がれたと言って帰った」
「ハァ!?」
サリーとネッドが困惑の籠もった驚きを異口同音に漏らすと、ヘルガは続けて言う。
「打てる手を全部打って本気で殺そうとしたのに敗けたんだけどね……アイツ、私を殺せたのに殺さなかった」
使わなかった最後の一手だけは明かさず、ヘルガは自分は打てる手を全て打った上で敗けた事を答えると、サリーとネッドは首を傾げてしまう。
「どういう事だよ?」
サリーは思った疑問をそのまま口にするが、ヘルガが答える事は無かった。
そんなヘルガを見ると、ヘルガとの付き合いがネッドとの師弟関係よりも長いが故にサリーはそれ以上は聞かずにヘルガが最も気になってるであろう事を答えた。
「ブツは未だ買取に持ち込んでねぇ……つーか、お前さんの事が心配で気が気じゃねぇから俺も未だ鑑定してねぇよ」
「そう。なら、ブツの確認は明日にしない?私も流石に疲れたからさ、今はさっさと飯食って寝たいのよ」
ヘルガが暢気に言うと、サリーは呆れ、ネッドは困惑してしまう。
そんなネッドはヘルガに色々と聞きたい事があった。
特に邪竜とどんな風に戦ったのか?駆け出しの冒険者であり、立派な男の子でもあるからこそ、それが一番知りたかった。
すると、ネッドの様子を察したサリーはヘルガに頼み込む様にして言う。
「ヘルガ。飯は約束通り、これから奢ってやるからよ……あの邪竜とどんな風に戦ったのか?教えてくんねぇか?坊主は当然だが、俺もブッチャケ滅茶苦茶気になってるんだ」
サリーはイケオジと言っても良い大人だ。
だが、根っこの所はネッドと同じ様な男の子でもある。
だからこそ、本音を打ち明ける様にして滅茶苦茶気になってる事を言えば、ヘルガは条件付きで願いを受け入れた。
「話しても良いけど、その前に飯喰わせてよ……飯喰い終わった後、一杯やりながら話すのでいいなら話すからさ」
その承諾の言葉にネッドばかりかサリーも喜びと期待に満ちた笑みを浮かべる。
「そう言うんだったら喜んで奢ってやる。じゃ、行くぞ」
サリーが言うと、ヘルガは2人と共に宿を後にした。
それから少しして手近な食堂へ入る。
中は仕事終わりの冒険者達で賑わっており、満席であった。
3人は空くのを待つと告げると、ヘルガは壁に寄りかかって胸ポケットから邪竜の煙管を取り出して弄び始める。
「お前、煙草吸って……な!?それ!?」
サリーがヘルガが弄ぶ煙管の意味を察すると共に驚きを露わにすると、ネッドも見覚えが大いにある煙管に気付いて驚きの声を上げてしまう。
「その煙管!?邪……むぐッ!?」
ネッドが煙管の持ち主を言おうとした瞬間。急いでネッドの口を塞いだサリーは耳元で囁く様にして嗜める。
「坊主。その名前は出すな。大混乱になるし、面倒臭ぇ事になる」
サリーが名前を出してはいけないと言えば、ネッドは直ぐに理解して口を塞がれながらも頷いて理解した事を示した。
それから直ぐにネッドが解放されると、サリーは尋ねる。
「何でお前が持ち主になってんだよ?」
「アイツが私を殺した時に取り返すから持ってろってさ……」
ヘルガがさも当然の様に返すと、サリーは呆れ混じりに言う。
「何処をどうしたらそうなんだよ?」
サリーの問う様な言葉にネッドも同意する様にヘルガを好奇の目で見詰めると、ヘルガはボヤく様に返した。
「何処をどうしたら?って……それ、私が聞きたいわよ」
その答えにネッドは困惑し、サリーはネッドと同じ様に困惑しながらもヘルガ自身がマジで困惑した様子である事を察すれば、気にはなれど聞かなかった。
そんなサリーは次の事を聞いた。
「で?どんな風に戦ったんだよ?」
「最初はコイツで嫌がらせと目を獲れたらラッキー程度で顔面つうか目の辺りをバンバン撃った」
右腿のホルスターに収まるGLOCK20をポンポンと叩いて答えると、ネッドとサリーは英雄譚をワクワクしながら聞く子供の様な面持ちを向けながら耳を傾ける。
「で、腕で普通に防がれた。だから、撃ちながらアイツの足下に対戦車地雷投げて、それを撃って吹っ飛ばしてやった」
ヘルガが淡々と語ると、ネッドは疑問を挟んだ。
「対戦車地雷って何だ?」
ネッドが首を傾げて言うと、サリーは思い出しながら口を挟む。
「あの部屋に上がる前に取り出したデカい円盤つうか皿みたいなのが対戦車地雷って奴か?」
「そうよ」
ヘルガが対戦車地雷が何の事か?肯定する様にして答えると、サリーは更に思い出した。
「そういや、階段の近くにほっぽったまんまになってたな」
「そう。だから、使わないのは勿体無いと思ってアイツの足下に投げつけて爆発させてやった」
「それでどうなったんだ!?」
ネッドがその後の事を興奮気味に問えば、ヘルガは涼しい顔で事実を答える。
「至近距離で爆発を受けたってのに奴は生きてた。私はその間に階段を転げ落ちる様にして降りて、急いで逃げた」
強大な怪物と戦いを繰り広げる戦士の英雄譚ならば、其処から強大な怪物に追い討ちを掛けるだろう。
それを期待していたからか、ヘルガの言葉にネッドは少しだけ落胆してしまう。
だが、ヘルガは気にせずに続ける。
「私は逃げながら奴を殺る為の罠を仕掛けた。奴はそれを喰らったり、躱しながら私の後を追ってきた。で、追いつかれそうになったから私は迎え撃つ為にデカい兵器を召喚して、それで奴を滅多撃ちにしてやった」
「それで!?どうなったんだよ!?」
ネッドがまたも興奮気味に尋ねれば、ヘルガは淡々と答える。
「奴は生きてた。でも、痛みは与えられた……で、私はそれじゃ殺せないと判断して逃げ、次の迎え撃ちでそれの滅多撃ちよりも超強力な兵器を召喚し、ブチ込んでやった」
逃げながらもヘルガが邪竜を迎え撃った事を聞けば、ネッドの顔は英雄譚を聞く子供の様に明るくなった。
そんなネッドとサリーに向け、ヘルガは続きを語る。
「で、1発目で奴は壁に叩き付けられた。それでも奴は笑顔だったから、奴の腹に2発目をブチ込んだ……コレで致命傷は与えられた。何せ串刺しな上に腹が裂けて、裂けた所からハラワタをデロッと飛び出してたからね」
その語られた続きにネッドは更に興奮し、サリーは興奮しながらもドン引きしてしまった。
「マジかよ。それなのに負けたのか?マジで何があったんだよ??」
そんなドン引きするサリーを更にドン引きさせる続きをヘルガは語る。
「で、トドメを刺す為に次の弾をブチ込んでやった。そしたら、アイツ、腹を貫いてたバカでかい矢を右腕で引っこ抜いて、それで飛んで来た矢を叩き落としやがった……マジでデタラメ過ぎたろ、あのクソトカゲ」
ヘルガにとってもアレは信じられない光景であった。
音速の倍。
下手をすれば、自分の普段使う5.56㎜ NATO弾よりも早い速度で標的を貫くAPFSDSを至近距離から撃ち込まれたと言うのに、それを視認した上で叩き落としたのだ。
誰が見てもドン引きするのは当然と言っても過言ではないだろう。
「で、叩き落とされた私は奴が腹の傷を瞬時に癒してるのを見たから直ぐに逃げた。そしたら、あのクソトカゲは床をブチ抜いて階下に先回りしやがった」
その語られた内容にサリーとネッドは思わず固まってしまった。
其処からヘルガが続きを語ろうとするが、食堂で働いているだろう獣人のスタッフが「席空きましたよー」と、元気よく声を掛けてくれば、話は途中だが終わりを迎える。
「この続きは食い終わってからね。それで良いでしょ?」
ヘルガの言葉に2人は反対しなかった。
淡々とした語りであるが、2人は邪竜に手痛い傷を与えたヘルガに尊敬と驚きの視線を向けると、ヘルガと共に空いたばかりの席に赴くのであった。
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