興が削がれた
FAB3000。
ロシアという脳筋ながらシンプルを愛する国が産んだ3トンの航空爆弾の内部には1.5tの高性能爆薬が充填されており、その威力は一撃でサッカーコート11面分の広さを薙ぎ払い、1発でビルを1軒どころかその一区画が瓦礫と化す。
強力過ぎると言っても過言と言えぬ、そんな大きな航空爆弾をヘルガは4発用いて爆破し、ダンジョンの床と天井を2フロア分崩落させた。
FAB3000を合わせて4発召喚し、それ等を全て私は時限爆弾とした。
起爆時間は21階層目と22階層目と言う異なる階層であっても同時に起爆する様にタイマーを調整。
何時、起爆させるか?頭の中でシミュレーションして21階層目に仕掛けた2発の起爆時間を設定した後、2箇所目となる真下のフロアに更に2発仕掛け、同時起爆する様に計算してからタイマーをセット。
その結果は見ての通り……
眼の前に瓦礫と土砂の山があって、完全に行く手を塞ぎ尽くしてるが故にダンジョン踏破が出来なくなっている。
「保険代わりに仕掛けて正解と言うべきか?それとも、125㎜滑腔砲を喰らっても生きてるクソトカゲに呆れるべきか?解らないわね……」
暗闇の中でヘルガは呆れ混じりに漏らすと、今は生きたまま埋葬されてしまった邪竜が居るであろう目の前のうず高く積もって行く手を完全に塞ぐ瓦礫と土砂の山を暗視ゴーグル越しに見詰める。
自分が作り上げた邪竜の墓を見詰めるヘルガは邪竜ではなく、己の前世に対して呆れ始めた。
「私の前世ってマジで何者なのよ?確かに私は前世の奴の知識や技術を利用して、コレを考えていたけどさ……割とマジでどんな生き方つうか学びや訓練をしたら、こんな事を思い付く技術と知識が得られるのよ?」
ヘルガは前世の男が持つ知識や技術を当たり前に利用し続けていた。
それ故にヘルガと言う冒険者となる前の、故郷に居た頃。
軍師として彼女は才覚を見せ、20年前にハイエルフの里に侵略して来たオーク達を撃退した。
そればかりか、オーク達の長にしてオークの中で最強と謳われた戦士でもあった強大な敵をその配下も含めて殺し尽くす事にも成功し、故郷に大勝利を与える事が出来た。
そして、今は邪竜を生きたまま埋葬する事に成功した。
だからこそ、ヘルガは前世の男が何者なのか?今更になって気になってしまったのだ。
「エスエーエスって所で兵隊してたり、テロリストって連中やゲリラって連中を殺し回ってたって記憶はあるけど……それよりも碌でもない連中と殺し合ったり、雇われたりして悪行の記憶の方が多いのよね」
整理や理解する為。敢えて、自身にある前世の記憶を口に出したヘルガであったが、自身はその男でも無ければ、地球人でもないが故にサッパリ解らなかった。
だが、便利に使える知識と技術である以上は使わないという選択肢は皆無と言えた。
「でも、そのお陰で私はこうして生き続ける事が出来るんだから、ありがたく使わせて貰うわ」
今は亡き前世の男に向けて告げる様に感謝をすると、目の前のうず高く積み重ねられた瓦礫と土砂の山が地震も起きてないのにポロポロと床に落ち始めた。
「嘘でしょ?」
信じられない。
そう言わんばかりにヘルガがその言葉を絞り出すと、残念ながら現実だ。
それを告げる様にして、黒衣がボロボロな上に泥だらけになった邪竜が瓦礫と土砂の山から這い出し、ヘルガの前に立った。
「ふぅぅ……流石に我でも死ぬかと思ったぞ。実際、全身の骨が折れておるし、我の肉もボロボロじゃ」
そう言いながらも余裕に満ちた笑みを浮かべた邪竜は邪魔になった黒衣を破り捨てて一糸纏わぬ姿になると、勘弁してくれと言わんばかりにウンザリとした表情を浮かべるヘルガは心底ウンザリとした様子で言葉を漏らしてしまう。
「テメェマジで死ねよ!何で生きてんだよ!?」
「それは我も聞きたい所だが、敢えて言うなら我でなければ死んでおっただけの事よ」
ヘルガから手痛い攻撃を喰らわされ、生きたまま埋葬されたと言うのに邪竜は心底愉快そうであった。
そんな邪竜にヘルガは敢えて問う。
「それで?続きやる?私はもうネタ切れで打つ手無いから、さっきの降参勧告が生きてるなら降参するけど?」
その問いに対し、彼女は己の傷を一瞬の間に癒し終えてから答えた。
「我は未だ生きておる。貴様も生きており、互いに無傷ならば、続けるのが筋であろう?」
笑顔で告げられると、ヘルガは諦観と共に提案した。
「私の負けで良いんだけど、それじゃ不満って言うなら……場所変えない?此処で第2ラウンドってのも悪くないけど、折角なら広い所でやる方が良いんじゃない?」
ヘルガの提案を邪竜は呑んだ。
「良かろう。ならば、我が貴様を待ってた部屋で続きをやろうではないか」
そう言う事になってしまうと、ヘルガは心の底からウンザリした様子で邪竜と共に歩き出す。
真っ暗な通路を歩む中。邪竜はこれからヘルガを殺さんというにも関わらず、友のように語り掛けて来た。
「ヘルガ。貴様は我に死を強く感じさせる程に我の敵として猛威を奮った。それなのに貴様は何故、その誇るべき武を用いて覇を唱えようとせぬのだ?」
邪竜からそれだけの力があるならば、好き放題出来る。
それなのに何故、それをしない?
そう問われると、ヘルガは答える。
「そんなの私の柄じゃないし、面倒臭いからに決まってんじゃない」
嘘偽り無いヘルガの本音であった。
だからこそ、邪竜は大いに興味を示すと共に最も気になっている事を問うた。
「ならば、お主は何の為に生きておる?」
「何の為ねぇ……そう言うの考えた事無いから、どう答えるべきか?正直、悩むのよね」
ヘルガが本心からの答えを返すと、邪竜は珍しく呆れ混じりに言う。
「それだけの力を持ちながら何の為に生きるか?目的が無いのは、流石に我でもいかんと思うぞ……」
「でも、今の目的はちゃんとあるわよ」
「ほう。何だ?」
「どんな手を使ってもアンタから生き延びて帰る。で、帰ったら、サリーが飯と酒を奢ってくれる……だから、私はテメェをブチ殺すって目的がね」
生きる目的とは言い難い目的であった。
だが、ヘルガは嘘偽り無き本心から邪竜に勝ち、生きて帰る。
それを聞けば、邪竜は満面の笑みを浮かべながらもまた呆れてしまった。
「何だ、貴様にも目的があるではないか」
その言葉に今度はヘルガが呆れた。
「それを生きる目的にして良いの?」
「それも充分に立派な目的じゃ。だからこそ、我は貴様という最高の戦士にして獲物を喰らいたい」
「くたばれ」
ヘルガは中指を突き立てて返す。
だが、邪竜に問われた『生きる目的が無いのか?』と言う問いが頭の中でグルグル巡り続けていた。
それ故にヘルガは邪竜に語り掛ける。
「生きる目的ってアンタに聞かれたけどさ、私には残念な事に何を成したいか?って感じの御大層な御題目が無いのよね」
「確かにその通りじゃな」
「最強を目指す?柄じゃないし、そんなの考えるのもバカらしい。冒険者として大成する?コレに関してはした結果として、アンタ始めとしたクソ面倒が私に降り掛かってるから勘弁してくれって状態だし……」
ヘルガの言葉に邪竜はまたも呆れてしまう。
「貴様、他の冒険者達に喧嘩を売ってる発言をシレッとしおるな……」
「事実として言ってるだけよ。でもね、アンタとの殺し合いは今も嫌だし、勘弁して欲しいけど……友の為、仲間の為に生命を賭して戦うのは嫌いじゃない」
「ほう。貴様の口からそんな言葉が出るのは驚きだな」
「そう?で、話を戻すけど……今の私にはさっきも言った様に御大層な御題目が無い。後、何がしたいのか?それも解らないってのが、今出来た悩みね」
そんな吐露を聞くと、邪竜は溜息を漏らした。
そして、興が削がれたと言わんばかりに告げる。
「止めだ。今の腑抜けた貴様を倒しても我は満足出来ぬ」
邪竜に勝負の続きは止めだ。
そう告げられると、ヘルガは涼しい顔で返す。
「そう。なら、私の負けで良いわ」
「いや、今回は引き分けだ」
邪竜が断固たる意思と共に告げると、ヘルガは胸ポケットから邪竜の愛用品と言える煙管を取り出して差し出す。
「なら、これは返す」
「要らん。貴様が持っていろ」
「何でよ?私、煙草吸わねぇわ」
「次の戦いで我が勝利した時に貴様の死体から取り返す。だから、それまで大事に預かっておけ……その時も腑抜けてたら、我は容赦せんから肝に命じろ」
その言葉と共に邪竜はヘルガの前から姿を消した。
独り残されたヘルガは煙管を胸ポケットにしまうと、ボヤキを漏らす。
「折角、最後の切り札で仕留めてやろうって思ったのに……ま、いっか。お陰で生きて帰れるんだから儲けものと思っとこ」
そんなボヤキを漏らすと、ヘルガは帰還用の転移スクロールを取り出し、魔力光と共にその場から消え去るのであった。
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