殺せぬなら、逃げながら必殺を叩き込み続けろ
室内に喧しく響いた銃声と共にセミジャケットのソフトポイント仕様の10㎜オートが約400m/sの初速で放たれ、ヘルガの意思によって邪竜の右目を穿たんとする。
だが、そうならなかった。
邪竜は眼の前に右腕を翳して盾にしたが故に銃弾はドレスの生地すら貫けずにその場でひしゃげる様に潰れ、床にポロっと落ちるだけに終わってしまう。
しかし、銃声は止まなかった。
2発、3発と銃声と共に放たれ続けるヘルガの銃弾は邪竜の腕でひしゃげて止まり、床にポロポロ落ちていくだけに終わる。
それでもヘルガは気にする事無く、淡々とGLOCK20を撃ち続ける。
そんなヘルガに対し、邪竜は心の中で首を傾げて疑問を覚えてしまう。
無駄と解っておろうに態々、我の腕を撃ち続ける?
狙いがサッパリ掴めん。
それにしても銃声とやらは煩くて敵わ……
「そう言う事か」
邪竜は無駄な銃撃の意味に気付いた。
気付いたが、其処から先には至れてなかった。
それ故に自分の足下に何時の間にか放られたIEDとなっているM15対戦車地雷……邪竜と楽しい会話をする間際に置いていたアレに気付けず、即席の起爆装置でもあるC4爆薬と導火線付きの信管の組み合わせに銃弾を撃ち込まれてしまった。
そして、強烈過ぎる爆発と共に衝撃波と爆風によって邪竜は壁に叩き付けられてしまう。
だが、邪竜は涼しい顔で焼け焦げた黒衣と言えるドレスを魔力で修復すると、顔の煤を払いながら笑みを浮かべる。
「相変わらず性格の悪い奴じゃ」
粉塵立ち込める先にヘルガの姿は見当たらなかった。
部屋を見渡してもヘルガの姿は何処にも無い。
ヘルガが逃げた事に対し、邪竜は責めなかった。
寧ろ、好ましくさえ思っていた。
「良いぞ。我を楽しませ、我を殺す気概を見せてみよ」
その言葉に答える者は居ない。
だが、階段を降りて下の階層に逃げたヘルガは駆けながらもそれに応えるつもりであった。
ブッチャケ、小火器じゃアイツを殺れない。
クレイモア地雷でもダメージ入らない。
そればかりか、50口径の重機関銃弾でもダメージ入るかすら怪しい。
「でも、銃声による聴覚へのダメージと硝煙による嗅覚へのダメージは誘える……筈。希望的観測でしかないけど、やらないよりはやる方が多分マシ」
そうと決まると、ヘルガは誘いに乗る様にして追ってくるだろう邪竜を迎え撃つ支度を始める。
先ずは距離を稼ぐ為に全力で走る。
時折、通路や部屋で足を止めたヘルガはIEDにした複数の対戦車地雷や複数発の155㎜榴弾を仕掛け、ワイヤー式の地雷とした。
そうする事で邪竜への牽制と道標にすれば、ある部屋にFAB3000と呼ばれるロシアの総重量3000kgの航空爆弾を2発用いたIEDを時限爆弾として仕掛けた。
その後も道標代わりのIEDを大量に仕掛けながら22階層目に降りようとすると、地響きと小さな揺れと共に爆発音が微かながらも木霊する。
「予想よりも早いわね。でも、それで構わない……」
そう漏らしたヘルガは階段に今までと同じ様な対戦車地雷と155㎜榴弾を複数用いたIEDを仕掛けると、本格的に迎え撃つ為に走る。
そうして長い道のりを僅かな時間で走ると、ヘルガはその場に21階層目のある部屋と同じ様にFAB3000を2発召喚すると、C4爆薬と時限式の起爆装置を組み合わせてタイマーをセットし、時限起爆式のIEDとした。
その後、またも駆け出したヘルガは別の部屋まで進むと、自分が来た通路を確認する様にして一瞥してから兵器を召喚する。
それは大きな旋回式の砲架に据えられた砲身を2本持った巨大な機関砲……ZU23-2であった。
旧ソ連時代から現在までロシア。更にはライセンス生産してる中国とイラン、ポーランドは改良しながら使い続けており、世界各地の戦場で何かしらの形で見掛ける事の出来るコレは対空機関砲としてだけでなく、地上攻撃に於いても素晴らしい威力を発揮している。
だからこそ、ヘルガはZU23-2を召喚すると直ぐに弾を込めて急いで砲架に据えられたシートに座ると、照準器を暗視ゴーグル越しに覗き込んで待ち構えた。
待ってる間。天井で揺れが生じ、砂埃が振り注いで来る。
邪竜が自分の仕掛けたIEDに引っ掛かったか、爆破処理したか……何れにしろ、天井の揺れは何度も続いた。
だが、FAB3000流用した時限式のIEDが起爆していない。
それを揺れの小ささから判断すると、ヘルガは予定通りと判断して笑みを零した。
それから程なくして、爆発音が遠くから木霊すると共に衝撃波で部屋が僅かに揺れると、ヘルガは邪竜がこのフロアに到達した事を悟る。
漸く来たか。
「でも、ダメージは其処まで入ってないんだろうなぁ……」
ゲンナリとした様子でボヤキを漏らしたヘルガは待ち続ける。
程なくして照準器の中に無傷な邪竜の姿が入り、その向こうで邪竜がヘルガに追い付いた笑みを見せ付ける様に浮かべて来る。
その瞬間。
ヘルガは容赦なく発射ペダルを思い切り踏み込み、耳を劈く轟音を絶え間なく響かせる。
23㎜の焼夷徹甲弾が眩い砲火と共に無数に飛び、瞬く間に左右にある弾薬箱が空となっていく。
だが、そんな23㎜砲弾による嵐の如き弾幕は邪竜にそれなりに痛みは与えたが、致命傷と言えるダメージは与えられなかった。
己が放った100発近い必殺の一撃が無駄と判断するや否やヘルガは直ぐに飛び出し、脱兎の如く逃げる。
そんなヘルガの背をもうもうと立ち込める硝煙越しに眺めると、邪竜は嬉々として追う。
暫く追い続けて追い付いたと同時。今度は1本の太く長い砲身が先程とは比べ物にならぬ轟音を轟かせ、彼女の足下で大爆発を起こした。
爆発による衝撃波と無数の破片を超至近距離からもろに浴びてしまうと、流石の彼女も激痛に襲われながら全身をズタズタに斬り裂かれながら後ろの壁に叩き付けられてしまう。
そんな邪竜の様子を見逃さなかったヘルガは既に装填していた次弾を直ぐに撃てる状態にしながらも、照準を修正すると、邪竜を殺す為に召喚したロシアの125㎜対戦車砲……2A45を発砲。
そうして2発目の轟音を轟かせれば、放たれたAPFSDS弾が邪竜の腹を貫くと共に裂いた。
腹を貫かれると共に裂かれて腸をデロリと露わにしながらも邪竜は歓喜の笑みを浮かべてしまう。
「良いぞ。此処まで我に手痛い傷を合わせたのは貴様が初めてだ……」
その言葉をハイエルフの聴力で聞き取るも、ヘルガは何も言わずに次弾を急いで装填する。
そうして3発目を装填すると、改めて照準器で照準を合わせていく。
次の狙いは胸であった。
程なくして狙いを定め終えると、ヘルガは3発目を放った。
音速の倍以上の速度でAPFSDS弾が放たれ、タングステンをベースに作られた頑丈極まる合金の矢が邪竜を貫かんと猛スピードで迫らんとする。
だが、邪竜は自分を貫き留める矢を右手だけで引き抜くや、手にした矢で己に迫る矢へと叩き付けて打ち落とした。
「マジかよ」
それを目の当たりにしたヘルガは直ぐにまたも脱兎の如く逃げ出せば、一瞬の内にヘルガの居た所をAPFSDSのダートの先端が貫いた。
邪竜が膂力で投げ、2A45の防盾を貫いて見せたのだ。
そんな矢を歓喜と共に投げた邪竜は腸を押し戻しながら傷を瞬く間に再生させると、ポツリと呟く。
「このまま鬼ごっこも愉しむのも悪くない。じゃが、ヤラれっぱなしというのも癪だ」
その言葉と共に足下を見ると、邪竜は右脚を振り上げ、床に叩きつける。
強力過ぎる一撃によって床が砕けると共に下のフロアの天井も粉砕されて大きな穴が空けば、邪竜はその穴へ飛び込んだ。
「これでアヤツの先回りは出来た。では、行くとするかのう……」
その言葉と共に先回りをすれば、邪竜はヘルガと言う狡猾極まりない雌の狼を狩らんと駆け出す。
暫く走り続けると、ヘルガの姿があった。
ヘルガは自分が先回りしていたと言うのに、驚いた様子は無かった。
寧ろ、当たり前と感じている表情であった。
そんなヘルガに邪竜は問う。
「何故、我が先回りしたというのに驚かぬ?」
その問いにヘルガはケミカルライトをパキっとやって辺りを照らすと、自身と邪竜の間に投げてから答えた。
「予想通りの展開だからかしら?」
ヘルガの答えに邪竜は歓心する。
「ほう。我の動きは貴様の計算通りと言うのか?」
「計算というよりは想定してた内の1つ……予想の範疇って言うのが正しいわね」
邪竜の問いを補足しながら肯定すると、ヘルガは呆れた様に言う。
「私としては、沢山の強力な爆弾をしこたま喰らわせた上に、対空砲弾やら対戦車榴弾。APFSDSを喰らってもピンピンした様子で笑顔なアンタの相手はもう御免よ」
「では、我に降参するか?降参するなら殺さないでやろう……我は寛大なのでな」
降伏勧告とも言える邪竜の言葉に対し、ヘルガは不適な笑みを浮かべて拒絶した。
「降参?アンタに?私、未だ負けてないのに?貴女、面白い冗談を言うのね……」
不適な笑みと共に挑発するな拒絶を聞くと、邪竜は歓喜の笑みを浮かべる。
「ほう。我に勝つ手を未だ隠しておるのか?」
その問いにヘルガは答えない。
だが、邪竜にはそれで充分であった。
そして、ヘルガは満面の笑みを浮かべるなり、魔力で身体能力を強化して後ろへ跳び、通路に倒れ込む様にして部屋を去った。
唐突なヘルガの動きに邪竜は訝しむ。と、同時に強い地震とも言える強烈な振動と共に部屋の天井が崩れ落ち、数百。
否、数千tもの瓦礫と土砂が邪竜を呑み込んで生き埋めにするのであった。
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