何で居やがる!?
大休止の後。
21階層目を快進撃と言える程に早く突き進み続けた。
それ故、30分も掛からずに21階層目から目的地である20階層目に上がる階段のある部屋へ到達していた。
だが、そんな快進撃はその部屋に入った瞬間、止まってしまった。
「どうしたんだよ?」
部屋に足を踏み入れた瞬間。
ヘルガとサリーがピタリと立ち止まり、階段を睨む様にして見詰める。
ネッドの疑問なぞ後回しと言わんばかりに……
そんな2人にネッドはもう一度尋ねる。
「何で立ち止まるんだよ?」
問われると、サリーは真剣な眼差しと面持ちで階段を睨む様にして油断無く見詰めながら答える。
「臭わねぇか?坊主」
その言葉にネッドが鼻をスンスンとさせて匂いを嗅ぐと、ネッドの鼻腔を強烈な臭いが刺激して来た。
「臭ぇ……つうか、何だよこの臭い!?」
「大声出すな!」
サリーが怒鳴る様に言う。
部屋に入った瞬間、ヘルガとサリーが嗅ぎ取ったのは強い死臭と血。それに糞便の悪臭と肉の焼けた臭いが入り交じった酷い臭いであった。
だからこそ、ヘルガとサリーは一瞬の内に即座に警戒レベルを最大まで上げ、階段を警戒していた。
そんな鼻腔を刺激する悪臭に混じり、煙草の匂いが微かながらもした。
その煙草の匂いをヘルガはよく知っていた。
それ故に……
「おい、どうしたんだ?」
サリーが尋ねるのを他所にヘルガは突然バックパックを下ろすと、その場にしゃがんでサリーに「階段の警戒お願い」とだけ返す。
それから直ぐにバックパックを開け、M15対戦車地雷とC4爆薬を1ブロック。それに導火線と信管のセットを取ると、その場で即席の梱包爆薬を作り始めた。
程なくして即席の梱包爆薬と言えるIEDとなったM15対戦車地雷を脇に置くと、使い捨て式のロケットランチャーであるM72A6を背負い、Mk18とM15を手に立ち上がる。
そして、雑嚢から帰りの転移スクロールを取り出すと、サリーに差し出して告げる。
「私が戻らなかったのも含めて、万が一の場合はコレで直ぐに逃げて」
ヘルガが普段見せぬ緊迫した面持ちで告げれば、サリーは理由を問わずに承諾した。
「…………解った」
ネッドは今の事態が呑み込めないが故に困惑する。
だが、ヘルガは何も言わずにフラッシュライトを消してレーザーユニットのIRライトを点灯すると、暗視ゴーグルを装備して階段へと歩みを進めていく。
ヘルガは階段を1歩ずつ慎重かつ静かに警戒しながら登り、ゆっくりと昇る。
段々と死臭と煙草の匂いが強くなる中、階上から女の声がした。
「安心しろ!我は独りだ!」
その声にヘルガは毒づいてしまう。
「それが一番安心出来ねぇんだよ。クソが」
ヘルガは声の主を知っていた。
同時に二度と会いたくないとも思っていた。
だからこそ、重い足取りで昇っていく。
そうして階段を登り終えると、暗視ゴーグル越しに部屋中が血に染まり、ボスモンスターだった肉塊が転がっているのが見えた。
だが、ヘルガはそんな肉塊よりも、肉塊の前に佇んで煙管を燻らせる黒衣とも言える黒のドレスを身に纏う若い女に視線を向け続けていた。
女はヘルガの姿を認めると、笑みを浮かべて語り掛ける。
「久しいな。4年ぶりか?」
その問いにヘルガは諦めを浮かべると、ヘルガは何も言わずに手にしていたM15を脇に置いた。
それからケミカルライトを取り出し、パキっとやって光らせると、ソレを自分と彼女の間に投げた。
そうして明かりを確保すれば、ヘルガは暗視ゴーグルのスイッチを切って目から上げてから答える。
「そうね。4年ぶりになるわね……」
4年ぶりなのを肯定すると、ヘルガは彼女に問う。
「聞きたくないけど、こんな所に何で居るの?伝説の邪竜様がさ?」
その問いに対し、ヘルガから伝説の邪竜と呼ばれた彼女は笑みと共に答えた。
「我を殺す所まで追い込んだ偉大なる戦士に会いに来るのはいかんか?」
「そりゃあ、嫌に決まってるわよ。私、アンタに色々と酷い事をした訳だし……」
4年前。
ある場所でヘルガと伝説の邪竜と呼んだ彼女は殺し合った。
それはもう、盛大に殺し合った。
だが、結果は互いに殺し切れずに終わり、痛み分けとなった。
だからこそ、彼女は此処に居て、ヘルガに笑みと共に語り掛けている。
「やはり、決着が着かぬままなのは気分が良くなくてのう……」
「だから、4年前のケリを着けに来たわけ?アンタ、暇なの?」
ヘルガがゲンナリとした様子で問えば、彼女はスンナリ肯定する。
「その通りだ。じゃから、話は此処で終わりにして始めぬか?」
その誘いに対し、ヘルガは戦闘の回避は無理。
そう判断すると、敢えて願った。
「ならさぁ、私の用事が済んでからにしてくんない?」
「用事とな?それは下におる2匹の猿が関係しておるのか?」
流石は伝説の邪竜と言うべきか?
既にサリーとネッドの事を認知していた。
そんな彼女にヘルガはあっさりと肯定してみせた。
「そう。私ね、2人と組んでこの階層にある宝を獲りに来てるの……だから、それが終わるまで待ってくんない?逃げないからさ?」
その願いを邪竜は呑んだ。
「良かろう。貴様の心残りを始末し終えるまで待ってやろうではないか……我は寛大だからな」
「自分で自分を寛大って言う奴ほど寛大じゃないわよね」
減らず口を叩くと、邪竜はヘルガに釘を刺して来た。
「じゃが、我を謀って逃げるならば2匹の猿は貴様の目の前で惨たらしく喰ろうてやる。その後、サイラスと貴様の住まう都を我の食卓にしてやろうぞ」
この瞬間。
ヘルガから逃げると言う選択肢は、完全に消え失せてしまった。
それ故に諦観の面持ちでヘルガは要求する。
「アンタの望み通り、決着付けてやる。だけど、結果がどうあれ、決着が着いた後に街を食卓にするってのは辞めろ」
「良かろう。我も悪戯に貪るのは好まん……お主が言葉を違えさえしなければな」
改めて釘を刺せば、ヘルガは邪竜の望みを叶えてやる為に今すべき事をするのであった。
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