賭け成立
翌早朝。
昨日と一昨日の間ずっと着ていた戦闘服に着替えていたヘルガは、寝てる2人を他所にトレーニングに勤しんでいた。
だが、今回は走る距離を普段の約35㎞よりも短い約20㎞にし、筋トレも普段よりは量を減らした。
そうする事で今日も探索に行く事になっても負担とならない様にする為だ。
それ故に終えた後は少しだけ物足りなさを覚えてしまう。
だが、日課の早朝トレーニングが理由でサリーとネッドに迷惑を掛けるよりはマシであるが故に物足りなさを感じながらも我慢した。
そうして宿の裏にある井戸で汗を流してスッキリしてから戻ると、サリーは丁度起きた所であった。
「おはようさん」
ヘルガが自室に居たサリーに朝の挨拶をすれば、寝ぼけ眼ながらもサリーは「おはよう」と、返す。
そんなサリーにヘルガはネッドの事を尋ねる。
「坊やは?」
「アイツは未だ寝てる。昨日の疲れが一気に出たんだろうからしゃーねーわ」
サリーが呆れながらも昨日の事を踏まえて仕方ない。
そう返すと、ヘルガはサリーの前で堂々と着替えながら言う。
「なら、起こして顔を洗わせたら飯にしない?」
「飯は構わねぇけどよ、今日はどうすんだよ?」
「飯食いながら決めましょ。私的には今日も探索で構わない……洗濯終わるまで待ってくれるなら」
サリーがその提案に反対する事は無かった。
それ故にサリーとネッドが顔を洗い終えると、ヘルガは2人と共に朝食を食べに出掛ける。
手近な食堂へ行くと、自分達の様な冒険者でいっぱいだった。
だが、幸いにも席が空いたばかりで直ぐに座れた。
そうして席に着くと、ヘルガとサリーは自分達に集まる視線に呆れ、ネッドは困惑してしまう。
「なぁ、何でどいつもこいつも俺達の事をチラチラ見てくるんだ?」
「気にすんな」
サリーが吐き捨てる様に返すが、ネッドはそれでも気になってしまう。
それ故にサリーは諦めた様な面持ちで呆れ混じりに答える。
「昨日の夜、お前が寝てる間に一杯やりに行った。で、この白金等級様に決闘って形で稽古を申し込んできた若造が現れた」
「その若いのをヘルガが撃ったのか?」
「いや、キチンと指導した。腰に差してるバカデケェ鉈とナイフを使ってな……」
サリーから語られた理由の一端にネッドは驚いてしまう。
同時にそれを見たかった……と、ボヤいてしまった。
そんなネッドにサリーは更に続けて語る。
「で、コイツが珍しくソイツに付き合ってやって穏便に終わる所で嘗めたクソガキが現れた」
「ソイツを殺ったのか?ヘルガ、嘗めた奴には容赦しねぇし……」
「いや、飛び蹴り一発で沈めてた」
その答えにネッドは「流石に殺したら不味いもんな」と、納得する。
そんな2人の遣り取りを他所にヘルガは何を食べるか?我関せずと言わんばかりに眺めていく。
勿論、周りからの視線も気にしていない。
ただ、面倒臭いと言う顔はしていたのは人情と言うモノだろう。
それから少しして3人の食べる物が決まると、食事が提供されるまでの間で今日どうするか?の話が始まる。
「ネッド、疲れは取れたか?」
「アンタがグッスリ寝させてくれたからバッチリだよ」
「なら、良い。俺としては準備と休み次第、20階層目を目指して戴くもん戴きてぇ……異論は?」
サリーが提案する様に言うと、ネッドが反対する事は無かった。
「俺はそれでも良いぜ。ヘルガは?」
ネッドから問われると、ヘルガは正直に答える。
「私もそれで構わないわ」
ヘルガにすれば、サリーとネッドのお宝ゲットが早く済むならその方が良かった。
それが終われば、本来の目的を果たせるのだから当然だろう。
だからこそ、ヘルガは反対する気持ちが起きなかった。
それから直ぐに20階層までどうやって行くか?その話になるのも自然の成り行きと言えるだろう。
「20階層って事は一昨日から昨日の間よりも長い道程になるのは明らかだ。そうなると、持ってく飯の量もその分だけ増える」
当然の事を当然の様にしてサリーが言えば、ネッドは「前回よりも長く潜るんだから当然だよな」と、納得する。
だが、ヘルガは違った。
「それだけどさ、私の計画に乗ってくれるなら多分だけど今日中に帰れるわよ」
サラッと当然の様に言えば、2人は驚き、信じられないと言った顔を浮かべてしまう。
それは周りで聞き耳を立てていた冒険者達も同様であった。
だが、ヘルガは気にする事無く続ける。
「私の計画で行けば、予備含めて2食あれば問題無い。勿論、水も予備含めて前回と同じ量で問題無いわ」
ヘルガが涼しい顔でさも当然の如く突拍子も無い事を言えば、流石のサリーは呆れてしまう。
「何処をどうすれば、10階層の倍の20階層を10階層行った時よりも早く終わるんだよ?」
呆れるサリーにネッドばかりか、周りで聞き耳を立てて出歯亀する冒険者達もウンウンと頷いてしまう。
だが、ヘルガは気にせずに告げる。
「私を信じなさいよ。私の計画通りなら、7階層進むだけで終わるからさ……」
具体的な方法は言わない。
だが、計画通りならば7階層進むだけで済む……と、前回よりも短い道程になる事だけは教えた。
その言葉にサリーとネッド。それに周りで聞き耳を立ててる冒険者達は「マジかよ」と、呆れるしか出来なかった。
そんな聞き耳を立ててる者達が居るが故、ヘルガは具体的な計画を話す事は無かった。
しかし、サリーはそれに乗った。
「良いだろう。お前の計画に乗ってやるよ。失敗したら、お前が帰った後の飯と酒奢れよ」
「なら、私の計画通りに事が運んだらアンタ等が私に奢れ」
「俺に奢れって言われても無理だぞ」
ネッドがヘルガの賭け金要求に対してボヤく様に言えば、サリーは俺が払うと告げた。
こうして賭けが成立すれば、朝飯が来るまでの残り時間で3人はノンビリと探索準備の話をするのであった。
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