礼儀正しき者には真摯に。無礼者には飛び蹴りを
クロルの手によって大人の背丈ほどある大剣を勢い良く、目にも留まらぬ速度で何度も何度も振るわれる。
それは当たった者は無事では済まぬ死の嵐と言えたが故に、周りのギャラリー達は興奮しながら眺めている。
だが、ヘルガはその一撃を涼しい顔で全て躱していく。
それ故にギャラリーの熱気は凄かった。
そんな中で審判として立ち会っている1人冷静なサリーは珍しく感じながらも呆れていた。
何時もならさっさとブチのめして終わらせてんのに……
見所ある"若いの"が相手だから優しく相手してやってるのか?
だとしても、全ての攻撃を躱し続けるのは流石に塩対応過ぎるだろ?
サリーの思ってる通りであった。
普段のヘルガならば、始まりと同時に一瞬で片付ける。
だが、今のヘルガはクロルの一撃必殺を全て涼しい顔で躱し続けている。
それの狙いを察しているが故にサリーは呆れていた。
クロルって坊主。動きは悪くねぇ……
だが、あのデカい剣をブンブン振り回し続けさせられてるから、動きが段々鈍くなって来てやがる。
ヘルガの狙い通りだな。
始まりがあれば、終わりがある。
これは森羅万象に於いて必ず存在するルールと言えるだろう。
それはクロルの激しい攻撃のラッシュも同様だ。
必殺の一撃を尽く全て躱し続けられているが故に体力は消耗。
更に全て躱し続けられているが故に焦りが生まれ、躱される度にそれは強くなり、攻撃は大振りなのばかりとなっていく。
それ故にクロルの動きは段々と鈍くなってしまった。
程なくして、息切れしたクロルが攻撃を辞めるざる得なくなると共に構えを維持しながらも息を整えようとする。
その瞬間。クロルの前からヘルガが消えた。
「な!?」
クロルが驚いた一瞬。クロルの右手に強い痛みが生じ、疲労も相まって大剣が大きな音を立てて床に落ちた。
そして、クロルの目と鼻の先に立っていたヘルガによって首筋にコンバットナイフの刃が当てられた。
「コレで終わりで良いかしら?」
疲れの色が一切無い涼しい顔のヘルガから問われると、クロルは素直に負けを認めるしか出来なかった。
「私の完敗です」
クロルが素直に敗北を認めると、ヘルガは右手を叩いたマチェテとコンバットナイフを鞘に収め、サリーからGLOCK20を受け取りながら敢えて問うた。
「何で私に負けたか?貴方はどう考える?」
唐突に何故、負けたのか?それを問われると、クロルは何と答えれば良いのか?解らずに言葉に出来なかった。
そんなクロルにヘルガは師の如く告げる。
「体力面は悪くない。実際、私の予想よりも長く貴方は良い動きをし続けてた」
ヘルガが本心から正直に告げると、クロルは本心から自分は未熟と認める様に返す。
「それでも私は最後に疲れ果ててしまいました」
「そりゃ、誰だって疲れるわよ。私だってそんなバカでかい剣をブンブン振り回し続けてたら直ぐにバテて動けなくなるし……」
これもヘルガの本心からの言葉をであった。
それを理解したからこそ、クロルは素直に尋ねた。
「では、私の負けた理由は?」
「ハッキリ言うなら純粋に技術不足。後、焦りによって動きが単調になったり、呼吸が乱れて来た事。それと私に躱された時のリカバリーを考えてない点も大きいわね」
バッサリと斬り捨てる様にしてヘルガがハッキリとクロルの未熟な点を挙げる。
そのヘルガの言葉にクロルはショックを受けながらも真剣に耳を傾けていく。
だからだろう。
ヘルガは床に転がる大剣を「借りるわよ」そう告げてから取ると、右肩に担ぐようにして構えた。
「貴方は最初、私に剣先を向ける様にして構えていた。これは間違いじゃない……実際、強い相手ならそうする事で対応しやすいから」
其処まで言うと、ヘルガは「でもね」そう前置きしてから担いだ状態から振るう。
その動きにクロルは驚いた。
自分よりも洗練された動き。
更には、敢えて肩に担ぐ様にして構える事で体力の消耗を少なくしていると理解したが故に。
だが、それよりも驚きなのは振るった時に生じる力……即ち、遠心力を活かした振るいと其処からの連撃が自分よりも速く、無駄の無い動きだった事だろう。
そんな動きをクロルの前で演練したヘルガは大剣を軽々と右手だけで持って持ち主に返しながら言う。
「剣を振るう時に生じる力……遠心力と言うんだけど、貴方はそれをコントロールする為に力で抑え込んでた。でも、敢えてその力を抑えないで活かす形で振るえば、今みたいな素早い振りと連撃を消耗を避けた上で出来る」
涼しい顔で自分よりも優れた動きをやって退けられてしまえば、クロルは立つ瀬がなかった。
だが、白金等級と言う冒険者の頂きに立つ者から直々に授業を受けられた価値が値千金以上と理解しているからこそ、大剣を受け取ったクロルは深々と感謝する。
「御指導、感謝致します」
「別に良いわ。貴方のお陰で気分転換出来たから」
こうして決闘と言う名目の稽古は無事に終わった。
ヘルガは何事も無かった様にサリーと共に席へ戻ろうとすると、その背に声が掛けられた。
「なぁ!白金等級!俺とやってくれよ!!」
その言葉にヘルガは立ち止まると、声の主を見る。
声の主はクロルよりも若そうな小僧と言える青年であった。
青年は片手剣を握り締めながら言葉を続ける。
「アンタを倒せば、俺の名が上がる。だか……グベッ!?」
一瞬の内に青年の顔面に飛び蹴りをカマしたヘルガは立ち上がると、唾をその場にペッと吐き捨て、カウンターへと戻る。
そして、クロルを含めた周りが一種の出来事に呆気に取られているのを尻目にヘルガは呆れるサリーと一杯やるのであった。
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