ノンビリと一杯
サリーと共に酒場へ赴くと、好奇の視線が多く向けられた。
ヘルガがハイエルフというのもあるが、ヘルガの装いが普通の冒険者と些か異なるのも相まって珍しいのもあった。
だが、解ってる者達は白金等級と言う冒険者の頂点に立つ者達の1人であるヘルガが居る事に驚いていた。
そんな視線を気にする事無く空いてるカウンター席に座ると、ヘルガはいつもの様にグラッパとチェイサー代りのレモネード。
サリーはウィスキーを注文した。
程なくして目の前に注文した物が来れば、2人は静かに酒杯を傾けていく。
そうして互いに酒を飲むと、サリーから切り出して来た。
「坊主に色々と教えてくれてありがとな」
「礼なら要らないし、気にしなくても良いわよ。私が多く取り分貰うんだから」
「だとしても礼ぐらい言わせろ。流石に礼を言わなきゃ、人としてどうかしてるんだからよ……」
呆れ混じりにサリー達が返せば、ヘルガは何も言わなかった。
そんなヘルガにサリーは厄ネタであるのを理解した上で踏み込んできた。
「それで?バカ二人のお仕置きは済んだのか?」
「そりゃもうバッチリお仕置きしたわ」
ヘルガがさも当然の様に肯定すれば、サリーは尋ねる。
「なら、お仕置きされた2人はどうなったんだ?」
その問いにヘルガは言い淀む言なく答えた。
「多分だけど、これから毎日死んだ方がマシな目に遭わされるんじゃない?どーでも良いけど」
その答えでサリーは直ぐに察した。
あの2人……ルシアンとグレタは異端審問官達が確保した事を。
それ故にサリーはそれ以上は聞かなかった。
「そうか。若い身空で悲惨な人生になっちまったんだな……」
「同情してる?」
ヘルガが冗談交じりに問えば、サリーは「バカ言え」と、返してから更に続ける。
「テメェで選んだ道でその結果なんだろ?だったら、同情する理由はねーよ……あの2人のせいでバカな考え起こして、くたばった連中の事も思えば尚更だ」
サリーの答えにヘルガは「それもそうね」と、興味なさそうに返す様に相槌を打った。
そんなヘルガにサリーは話題を変える様に言う。
「それで?明日はどうすんだ?俺としては明日も潜って構わねぇぞ」
明日はどうするのか?
それを問われると、ヘルガは思案しながら答える。
「そうね……私としては無理に明日も潜る必要は無いと思ってるのよね」
「まぁ、それもそうだな」
「私的に今日着てたのを洗濯しときたいのよね。ほら、私等冒険者ってヤマ踏んでる時に着てるのが何時、死に装束になるか?解らないからさ……」
その言葉にサリーはまたしても呆れてしまった。
「お前さんぐらいだぞ。死ぬ時の服を考える奴なんざ」
「死ぬ前に着てる服くらいは綺麗にしときたいのよね。私、こう見えて綺麗好きだからさ、汚い服を着続けるより綺麗なのを着たいのよね」
「そりゃ贅沢な事で」
益々呆れながらも、サリーはヘルガの言葉を切り捨てる事は無かった。
寧ろ……
「俺も綺麗にしとくべきか?」
気持ちを理解していた。
自身も汚い服を着続けるよりは綺麗な服を着たい。
マトモな奴ならば、誰でも同じ事を考えるのだから当然と言えた。
そんなサリーにヘルガは何も言わない。
だが、今日の戦利品に関しては尋ねた。
「そう言えば、あの剣と盾……どうするの?私としては2人に進呈しても良いけど?」
ミスリル製の剣と盾と言うとんでもなく貴重で高性能な武具をどうするのか?
それを問われると、サリーは思案しながら答える。
「お前さんがくれるんなら貰うが……そうだな……暫くは俺が使おうかと思ってる」
サリーが正直に答えると、ヘルガは好奇心から尋ねた。
「ネッドにやらないの?」
「アイツが一人前になるか、俺が冒険者辞める時にくれてやるさ……」
「あら?ちゃんと考えてたのね」
「そりゃあ考える。仮にもネッドは俺に弟子として一緒に居るんだ……アイツが一人前になって独り立ちする時の祝いの品を用意出来ねぇ奴が師匠をやるなってんだって話なんだからよ」
師としての義務からミスリル製の剣と盾を自分が使いつつも、しっかり管理する。
そうする事で何時か来る一人前となったネッドの独り立ちの祝いの品にする。
そんなサリーの大人の一面を目の当たりにすると、ヘルガは自分は歳を重ねただけの小娘でしかない。と、嫌でも自覚させられてしまう。
「ほんと、真っ当な大人ってこう言う所ズルいわ」
そのヘルガの言葉にサリーはニンマリ笑って言う。
「惚れるなよ?」
サリーの言葉に今度はヘルガが呆れてしまった。
「惚れねぇよバーカ」
そんな具合に2人が愉しく飲んでいると、歩み寄って来る若い冒険者が居た。
その冒険者は然りげ無く右手をGLOCK20に掛けたヘルガの後ろに立つと、声を掛けて来た。
「白金等級のヘルガさんですよね?」
「そうだけど、何の用かしら?」
「俺はクロルと言います。ヘルガさん、こんな所で不躾かつ無礼なのは解ってますが、俺と戦ってくれませんか?」
唐突な誘いにヘルガは手にしていたグラスを置くと、振り向いて尋ねる。
「これは喧嘩?それとも決闘?」
その問いに若き冒険者……クロルは何と答えるべきか?悩んでしまう。
そんな彼に助け舟を出す様にサリーは言う。
「坊主。ヘルガを倒して名を挙げてぇなら辞めとけ」
そんな警告にも似た助け舟に対し、クロルは正直に答える。
「いえ、そう言うんじゃないんです」
その言葉にサリーばかりか、ヘルガも首を傾げてしまう。
だが、クロルは気にする事無く言葉を続ける。
「白金等級の冒険者はどれだけ強いのか?身を以て学びたいんです……」
「つまり、アレか?お前さんは学ぶ為に負けるのを承知でヘルガに挑むって事か?」
「そうなりますね」
その肯定にヘルガは強い珍しさを覚えていた。
ヘルガに決闘なり、喧嘩をふっかけてくる奴は基本的にヘルガと言う白金等級らしくない白金等級冒険者を倒し、名を挙げたい。
そんな、つまらない功名心の為だけに来る。
だが、目の前のクロルは負ける事を理解した上で自分に挑んで来ている。
その目的は白金等級と言う冒険者の頂きがどの様なものなのか?知りたい。
それ故にヘルガとサリーの2人は初めての体験をしている気分になった。
だからだろう。
ヘルガは誘いに乗った。
「良いわ。貴方の挑戦を受けてあげる」
「ありがとう御座います」
そうと決まると、周りで遣り取りを覗き見していた冒険者達は息ぴったりに退いたばかりか、テーブルや椅子を皆で退かして場所を作り始める。
そんな様子にヘルガは呆れ混じりに「暇人どもめ」と、ボヤいてしまう。
サリーは「程々にしてやれよ」と、言えば、ヘルガはGLOCK20を抜いた。
そして、弾倉を抜いてからスライドを引いて完全に安全な状態にしてからサリーの前に置いた。
「預かっといて」
「おう」
そうしてGLOCK20を預ければ、ヘルガはクロルと共に目の前に出来上がった即席の闘技場へ赴き、腰のマチェテとコンバットナイフを抜いた。
その様子にクロルは少しだけ驚くと、尋ねる。
「銃とやらは使わないんですか?」
「アンタが弱いから使わないんじゃないわ。キチンとした戦いがお望みみたいだからキチンとした戦いの出来ない武器を使わないってだけ」
ヘルガの答えにクロルは首を傾げてしまう。
だが、自分の願いを聞いてくれたが故にクロルは背負っていた大剣を抜くと、握り締めて構える。
そんな2人が相対すると、サリーは2人の間に立って問う様に告げる。
「俺が手を叩いたらスタートで良いな?」
互いに異論は無かった。
それ故に周りの視線を気にする事無く、サリーは直ぐに手を叩いた。
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