ノンビリ風呂に
「戻ったぞー」
呑気な声と共にサリーが部屋にやって来ると、整備と支度を済ませていたヘルガは無言でGLOCK20のプレスチェックをして何時でも撃てる事を確認した。
そんなヘルガにサリーは尋ねる。
「俺等を見張ってる奴等が居たけどよ、あのルシアンって小僧の手下だと思うか?」
流石はヘルガよりも長く冒険者をしているベテランと言うべきか?
サリーは自分とネッドを監視する者達に気付いていた。
そんなサリーにヘルガは告げる。
「ルシアンとは別口。つーか、異端審問の連中」
「マジかよ」
サリーが信じられないと言わんばかりに返すと、ヘルガは風呂へ行く支度をしながら更に続けて言う。
「連中、あのルシアンってクソガキに用があるらしいわよ」
其処まで聞くと、サリーは察してしまう。
「…………お前、異端審問の連中に知り合い居たのかよ?」
「何年か前に仕事でカチ合って友達になった」
「どんな仕事をすりゃ異端審問官共と友達になるんだよ?いや、良い……聞きたくねぇから言うな」
サリーが聞くのやっぱ辞めた。
そう告げると、ヘルガは言う。
「兎に角、異端審問官が2人の身辺を護ってくれる事になったから少しはマシかもしれない」
「……何処をどうしたらそうなるんだよ?」
呆れるサリーにヘルガが答える事は無かった。
そんなヘルガはサリーに告げる。
「じゃ、武器とかの監視頼むわ。一応、長いのは盗まれても撃てないように細工はしてあるから最悪、生命無くすくらいなら盗られても良いわ」
「バカ言え。キッチリ見守って盗らねぇようにしとくわ!」
「ありがとね。じゃ、行ってくるわ」
そう告げると、風呂支度を済ませたヘルガは部屋を後にした。
外に出ると、幾つもの視線を感じた。
その視線の主を探る為に然りげ無く見廻し、監視者を割り出したヘルガはその内の2人……異端審問官とトミーの手の者に向け、手を振って「ご苦労さん」と、告げて歩き出す。
暗くなり始めたサイラスの街を歩いて公衆浴場へ向かえば、ヘルガは鍵の掛かるロッカーにベルトごとGLOCK20が収まるホルスターを収めて鍵を掛けた。
それから代金を払って奥へ入れば、素早く服を全て脱いで一糸纏わぬ姿になって大浴場へと赴いていく。
其処で桶を1つ手に取り、お湯を頭から浴びてサッパリすると、再びお湯を汲んで肩から流した。
そうして身体の汗などを洗いながせば、ヘルガは広い湯船に浸かり始める。
「あぁ、やっぱ仕事後の風呂は最高だわ」
本心からオッサン臭い事を言えば、ヘルガは直ぐにルシアン達の件を考えていく。
ルシアンとグレタ。
2人が所属している組織は前世の男の知識に照らし合わせると、テロ組織って存在になる。
テロ組織に属するテロリストって連中は前世の知識では見付けたら、さっさと殺せ。
生け捕りにしたら徹底的に締め上げて情報を吐かせろ。吐かせた後はキッチリ殺せ。
其処までする必要あるのか?正直言って疑問だけど、用心深い上に仕事はキッチリするタイプの前世の男が其処まで言うなら、そうするべきなんでしょうね……
其処まで考えると、ヘルガは両手で湯を救って顔をバシャバシャと洗う。
「ふぅぅ……」
そうして一息吐くと、更に思考を巡らせていく。
テロ組織に限らず、組織の体裁をキチンと保っている所には必ず何かしらの資金調達のシステムが整っている。
この国で一番わかり易い例として挙げるなら、この国の臣民達の大半が王へ治める税が良い例ね。
あのルシアン達の組織にも何かしらの資金調達システムが備わっていなければ、組織としての活動は困難と言わざる得ない。
世界はあらゆる事に金が必要なんだから、当然よね?
ヘルガの前世であった男は過去に諜報機関で働いていた事がある。
それ故にテロリストやテロ組織に関しての知識を多く有し、更には情報を始めとした断片があれば何かしらを割り出せる技術も有していた。
だからこそ、ヘルガは前世の知識を利用して件の組織の事を考えていた。
それ故に1つの懸念が浮かんでしまった。
「ハワラみたいなシステムを使われたら、金の流れを追うの面倒臭いって前世の知識と記憶が言ってるけど、流石にこの世界では無いわよね?」
ハワラ……地球では古代から今現在も用いられている送金システムである。因みに一部の地域では違法行為に認定されている。
それがこの世界にもあった場合、金の流れを追うのが困難になる。
そう思うと、ヘルガは私の考える事じゃないか……そうボヤいて考えるのを辞めた。
そう言うのは異端審問官とか官憲の様な連中の専門家に任せるのが一番だし、冒険者のする事じゃないんだから当然よね……
今はノンビリ風呂に浸かって疲れを癒すべき所。
そう判断したヘルガはコレ以上の思案を辞めると、ノンビリと湯に浸かって疲れを癒そうとする。
そんな時だ。
何処も空いてるにも関わらず、ヘルガの隣に湯を浸かる女が来た。
手にタオルを持って前を隠すその女の身体付きは鍛えられていた。
そんな彼女に対してヘルガが警戒レベルを然りげ無く上げると、彼女の方から語り掛けて来た。
「私はトミーさんの部下です」
自らをトミーの部下と明言した彼女に警戒を解く事無くヘルガは尋ねる。
「トミーって誰の事かしら?」
その問いに対し、彼女はハッキリ答えた。
「貴女の飲み友達であり、先日は信頼を台無しにする様な依頼をしたトミーさんです」
彼女の答えにヘルガは一応は警戒を解きながらも油断する事無く尋ねる。
「それで?用件は何?」
「異端審問官達が何故、貴女達を見張っているのか?それを確認しに来た次第で御座います」
何故、異端審問官がヘルガ達を監視しているのか?率直に問われると、ヘルガは率直に答えた。
「私を監視していたんなら、私達がレストランで無礼な客を相手にしたのも知ってるわね?」
「はい、存じ上げております」
「ソイツ等、異端審問官が追ってる悪党。で、私達にまた接触してくる可能性があるから見張ってるって感じよ」
其処まで聞くと、トミーの遣いである暗部に属する彼女は沈黙してしまう。
そんな彼女にヘルガは更に続けて言う。
爆弾を投げ込む様にして……
「後、私に会いに来た異端審問官の司教から聞いたんだけどさ……ツァールス、勇者召喚しようとしてるんだって?その件にも異端審問官達が追ってる悪党が関与してる可能性があるって話だそうよ」
涼しい顔でヘルガが投げ付ければ、彼女の沈黙は更に重いものとなる。
だが、ヘルガは気にせずに更に言う。
「教国はサマリアルとガイラスに対してツァールス侵攻を黙認するみたいな感じで静観するってのも言われたわ」
その言葉に。その言葉の重要性に彼女は何も言えず固まってしまう。
だが、それでも直ぐに再起動した様に彼女は尋ね返す。
「ヘルガ様。それは誠で御座いますか?」
「私、この件で嘘つく理由が無いんだけど?」
遠回しに事実と告げられれば、彼女は益々表情を強張らせてしまう。
そんな彼女とは対照的にヘルガは暢気に告げる。
「つー訳で、今聞いた事をトミーに伝えといて」
「必ず御伝え致します」
そう返せば、彼女は直ぐに湯船から出て急いで浴室を後にした。
そうして独りになると、ヘルガは温かい湯にノンビリと浸かるのであった。
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