お仕置き支度
風呂から帰って来たヘルガが直ぐに何の言葉も無くフラッシュライトとダットサイト。それにマズルブレーキ等が取り付けられたベネリM4を召喚するのを目の当たりにすると、サリーは呆れる事しか出来なかった。
「風呂から帰って来たってのにテメェは何で、誰かブッ殺しに行く支度してんだよ?」
それにヘルガが答える事は無かった。
ただ、静かに白塗りのショットシェルを7発召喚し、マガジンチューブへ滑り込ませて装填していく。
そんな様子。もとい、白塗りのショットシェルを見ると、サリーは何かを察した。
「誰かを痛め付けるのか?」
それなりにヘルガと付き合いがあるからこそ、サリーは知っていた。
白塗りのショットシェルが意味する事を。
それ故に殺さずに痛め付けるのか?と、問えば、ヘルガは答える。
「ちょっくら、ルシアンってクソバカとグレタってノータリンをシメに行きたくなった」
その答えにサリーはまたしても呆れてしまう。
「……ちょっくらって感じには見えねぇぞ」
「そう?」
ヘルガが暢気に首を傾げて返せば、サリーは呆れ混じりに「そうだよ」そう返すと、問う。
「普段のお前さんならバカをシメに行くなんて事はしねぇのに、何であの2人はシメるってなったんだ?」
付き合いがあるサリーが見透かす様に問えば、ヘルガはアッケラカンに答えた。
「久しぶりにムカついたから」
「だと思った。で?俺が気を付けるべき事はあるか?」
「無い。でも、強いて言うなら……」
「何だよ?」
「先に寝てて良いわよ。見張りも外の異端審問官がしてくれるだろうから……」
その答えを聞くと、サリーは踏み込もうとはしなかった。
しかし、1つ確認する為に尋ねた。
「俺や坊主は関わらない方が良い厄ネタか?」
その確認をヘルガはアッサリと肯定した。
「バリバリの厄ネタ。私だって首を突っ込みたくないくらいのね……」
「じゃ、もう聞かねぇ」
長年冒険者として生きて来たからこそ、サリーは自身の身の丈を弁えている。無論、越えてはいけない一線も理解している。
特に、ヘルガが厄ネタと断言した時は尚更である。
ヘルガの警告を無視して踏み込めば、最悪の結果が訪れる事を重々理解している。
それ故にサリーは関わらない事を直ぐに決めたのであった。
そんなサリーを他所にヘルガはベネリM4を右肩に担ぐように持つと、歩きだして部屋を後にしようとする。
すると、ヘルガの背にサリーの温かい言葉が投げられた。
「死ぬなよ。生きて帰ってこい……明日か明後日、20階層のお宝を手に入れてぇからよ」
その言葉にヘルガが言葉を返す事は無かった。
だが、背を向けたまま左手をヒラヒラさせて解ってると返した。
そして、ヘルガは部屋を後にした。
宿の外に出ると、風呂へ行く前に来た異端審問官の彼が居た。
「やっほー」
そんな呑気な声を掛けると、ヘルガは視線だけでさっさとバカ二人の居場所を教えろと要求。
すると、彼は直ぐに答えた。
「折角だから、僕が直々に案内してあげるよ」
その言葉にヘルガは感謝の代わりに問う。
「キチンと逃げられない様にしてる?」
「勿論。キッチリ包囲してるよ」
涼しい顔でさも当然の如く返せば、ヘルガは何も言わなかった。
彼に誘われるまま夜のサイラスの街を歩んでいくと、彼はヘルガに尋ねる。
「無駄なのは理解しているけどさ、冒険者辞めて僕と働かない?」
ヘッドハンティングとも言える誘いに対し、ヘルガは何も言わない。
だが、静かに中指を立てた。
「君と僕の仲だから赦してるけど、他の人にはやらない方が良いよ。そう言うのは……」
「だから、やってんじゃない」
ヘルガが涼しい顔で返すと、彼は異端審問官としてではなく、ヘルガの個人的な友として言う。
「君って友人含めて認めた相手にはダダ甘だよね。だからこそ、僕は君を利用しやすくて助かるんだけど……」
シレッと利用しやすいと宣う異端審問官の彼に対し、ヘルガは呆れ混じりに「そう言うのは本人に一番言っちゃいけないんじゃないの?」と、呆れてしまう。
だが、彼は気にせずに更に言う。
「別に良いじゃないか。そのお陰で君は友達二人の身の安全を僕から買えるんだからさ……」
「そうだけど、アンタの口から聞くとムカつくわね」
本心からの気持ちを口にすると、彼は友としてではなく、異端審問官の幹部として告げる。
「あのバカ二人が所属している組織はサマリアルに限らず、様々な国で暗躍している。それなのに具体的な目的は掴めないばかりか、人員の特定もままならないのが情けない現状だ」
ルシアンとグレタが属する組織に気を付けろ。そう遠回しに告げられると、ヘルガはルシアンから聞いた話を教えた。
「ルシアンってバカの言う通りなら、世界を壊して自分達にとっての理想郷を創ろうって感じだったわよ」
「ありがとう。お陰で本気で叩き潰し、皆殺しにするべきと言う私と上の判断が間違いではなかったと理解出来たよ」
「そう。礼なら要らないわ」
そうして会話が終わると沈黙が訪れた。
2人は黙したまま語る事無く歩き続ける。
そんな長い沈黙の果てに街の外にある森の中にある洞穴に着くと、沈黙を破る様に彼は告げる。
「着いたよ。此処にあの2人が居る」
そう告げた彼は森の木々に身を潜める部下であろう者に動きを確認する。
そんな二人の遣り取りを傍目から聞いて未だ中に居る事を知れば、ヘルガは告げる。
「ちょっとムカついてるからボコボコにするけど良い?」
「手足が千切れてても、生きてれば良いから気にしないよ」
彼から公式に許されれば、ヘルガは呑気な足取りで洞穴へと歩みを進めるのであった。
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