ベテランであるが故に
エントランスフロアとも言える1階層目でサリーとヘルガから優しく指導されたネッドは戸惑いや焦り。それにダンジョン内であるが故の緊張と恐怖に晒されながらも、少しずつながらも要領良く歩みを進めていた。
そうして2階層目に問題無く降り立ち、其処から練習も兼ねてネッドのペースで歩みを継続する中。ネッドの小さな成長にサリーは師として喜ばしく感じながらも、背後から感じる嫌な気配にウンザリとした溜息を浮かべてしまう。
「ヘルガ、坊主。一旦止まってくれ」
その言葉にネッドは首を傾げると、ヘルガはネッドに正面の警戒を頼む形で離れ、立ち止まって後ろをジッと睨む様に見詰めるサリーの傍らに歩み寄った。
そうしてサリーの傍らに立つと、ヘルガは暗視ゴーグル越しに見える者を注意深く見詰めながらサリーに囁く様に小さな声で言う。
「流石ね。こんな暗闇なのに気付けるなんて」
ヘルガが暗視ゴーグル越しに見える者を見詰めながら言うと、サリーはジッと見据えたまま残念そうに返す。
「お前が見えてるんなら俺の勘違いじゃない訳か……数は?」
「今は1人。種族は人間、装備は軽装で短剣のみで、荷物は脇に下げてる雑嚢ぐらいね」
ヘルガが人数と共にその者の装備を告げると、サリーは益々残念そうにしてしまう。
「此処のヤバさを解ってない上に灯りを灯してない……単なるバカ野郎か?じゃなきゃ、飛び切りのバカ野郎だな」
飛び切りのバカ野郎。
それは、ヘルガが警戒がしている不届き極まりない愚か者。
即ち、冒険者から盗賊に鞍替えした者に他ならない。
そんな飛び切りのバカ野郎を2人は見詰めながら言い合っていく。
「1人で3人相手に仕掛けるタイプには見えないわね。地面に伏せて目立たない様にしてる所を見ると……」
「お前がそう言うって事はアイツは斥候で、その後ろに本隊が控えてるって見るべきか?」
「そう見るのが妥当だけど、私達が寝るのを待って、単独でヤマを踏もうとしてる可能性もあるわね……まぁ、私達が死ぬのをハゲタカやカラスみたいに待ってる死体漁りって可能性もあるけど」
「どっちにしろ趣味の悪い野郎なのは確かだな」
「同感。私としては何もして来ないなら放置するつもりだけど、貴方は?」
ヘルガが自分の意見を述べた上で問うと、サリーは面倒臭そうに同意した。
「俺も今は放置だが……お前さんはどう見てる?」
サリーから意見を求められると、ヘルガは言う。
「さっきも言った寝込みを狙って私達を襲う可能性が高い。でも、向こうが飛び切りのバカで欲の皮を突っ張らせてるタイプなら、私達が10階層でブツを回収した所を狙う可能性も否めない」
「要するに解らん訳か」
「実際、連中の狙いが読めないんだから仕方無いじゃない。つーか、答えを導く為の要素が少ないんだから可能性の話しか言えないわよ」
「それもそうだな」
2人が尾行者に対してどうするか?話していると、正面を警戒していたネッドは後ろを振り返って尋ねた。
「何を話してんだよ?」
「此方を見ずに正面を警戒してろ坊主」
サリーが振り向かずに叱責すると、ネッドは文句を言いそうになりながらも直ぐに前へ向き直した。
そんなネッドを他所にヘルガは言う。
「一先ず、アレは未だ行動に移してないから放置。疑わしきを罰したら、私達がアベコベに裁かれるし……」
「俺もそれに賛成だ」
「仕掛けて来たら、私が対応するから証人お願いね」
「解ってる。存分に相手してやれ」
そうして尾行者に対する方針が決まれば、2人は移動を再開した。
ネッドは時折後方警戒するサリーと、正面を警戒するネッドを補佐する様にして正面を警戒するヘルガから注意されながら進み続けた。
途中、何度もモンスターと遭遇した。
だが、ヘルガが遭遇する度にMk18で瞬時に射殺するが故に、ちょっとしたハイキングに近い状態となっていた。
そんな道行きを暫くの間、ずっと続けて進んでいく内に3階層目に降り立つ事が出来た。
すると、ヘルガはネッドの様子を一瞥して言う。
「少し早いけど休憩にしましょう」
サリーもネッドの疲れを承知していた。
だからこそ、足を引っ張ってる様に感じてしまい、申し訳無さそうに尋ねてしまう。
「良いのか?」
「別に良いわよ。疲れてるのが理由でミスられても嫌だし……」
ヘルガが身も蓋もない答えを返すと、サリーはヘルガの好意に甘える事にした。
「悪いな。助かる」
「悪いと思うんなら、此処から先は私のペースで良いかしら?」
ヘルガが確認する様に問えば、サリーは承諾する。
「あぁ、坊主にはいい経験と練習になったからな……構わねぇ」
こうして此処から先はヘルガのペースで進む事となった。
そんな蝋燭の仄かな灯りに照らされながら休憩し始めると、ヘルガは自分達が降りてきた階段の前に立ち、フラッシュライトで階段の上を照らし始めた。
「何してんだよ?」
「一応、警告も兼ねて釘を刺しておこうと思ってね」
そう返すと、ヘルガは階段の上。自分達が通った2階層を照らしながら大声で告げる。
「これは警告とお願いよ!!愚かな真似は絶対するな!!私達に愚かな真似をするなら、私達は容赦しない!!もし!お前に仲間が居るなら必ず伝えろ!!」
その大声が終わると、階段の上から微かながらも慌ただしい足音が離れて小さくなっていくのが聞こえて来た。
そんな様子にネッドが首を傾げると、サリーはやっぱりか……そう言わんばかりにボヤく。
「あの様子だと仲間居ると見て良さそうだな」
「私達が気付いてる事はハッキリ伝えた。その後、どうするか?選ぶのは連中……何れにしろ、私達は尾行者から距離を稼げる」
2人の遣り取りを水筒の水を一口飲みながら見ていたネッドは、思わず尋ねてしまった。
「何が起きてるんだよ?」
「ヘルガが懸念してた盗賊に鞍替えしたかもしんないバカ共に付けられてた。で、ヘルガは敢えて気付いてる事を伝えて釘を刺したってだけの事だ」
サリーがネッドの疑問を答えると、ネッドは顔をゲンナリとしてしまう。
「俺さ、冒険者になった時に同じ冒険者を襲うなってギルドの人達から最初に教えられたんだけどよ……俺ですら知ってるやっちゃいけない事をどうしてやろうとすんだ?」
「そりゃあ、お前……人間てな欲でバカになったらトコトンバカになるからに決まってるだろ」
何を今更。そう言わんばかりにサリーが呆れ混じりに返すと、ネッドは益々ゲンナリとしてしまう。
「大人ってバカなのか?盗賊に認定されたら容赦無くギルドや官憲から狩られるのが解り切ってるのに盗賊になろうとすんなんて……」
ネッドがゲンナリとした様子で呆れると、サリーは「大人だからってバカじゃないとは限らねぇよ。勉強になったな坊主」そう、師として返した。
数分後。休憩が終わると、先程と同じ陣形で探索が再開される。
ヘルガがフラッシュライトで照らしながら進み、モンスターと遭遇したらヘルガが射殺。その間、ネッドは射撃するヘルガを補佐する様に周囲を警戒。
サリーは時折後方を警戒しながら、ネッドを補佐する様に周囲を警戒した。
そんな方針で先程のネッドのペースよりも速いペースで進み続けて行く。
すると、ネッドは好奇心からヘルガに言った。
「俺にもそれで戦わせてみてくれないか?」
ネッドのお願いをヘルガは即座に斬り捨てた。
「駄目に決まってるでしょうが」
「そうだぞ坊主。お前の気持ちは解るが、今は駄目だ」
「なら、何時なら良いんだよ?」
「ヘルガが良いって言った時だな」
サリーが実質、ずっと使わせない。そう返すと、ネッドは不満そうにした。
そんなネッドにヘルガは言う。
「ネッド。驚くでしょうけど、アンタの気持ちは解るわ……だから、このヤマを無事に踏み終えて生きて帰れたら、少しだけ撃たせてあげる」
その言葉にネッドは顔を明るくし、サリーは心の底から驚いた。
「ホントか!?」
「だから、真面目に成すべき事を成しなさい。後、サリーの教えを真面目に聞く事が条件よ」
「解った!真面目にやる!」
ネッドが本心から真面目に取り組む姿勢を見せると、そんな弟子を他所にサリーは驚きを露わにしながら言う。
「そんな約束して良いのかよ?つーか、お前さんにしちゃマジで珍し過ぎる。後、俺としては撃たせるのは反対なんだがな……」
サリーが師として本心から言うと、ヘルガは返す。
「アンタの気持ちと考えは解るわよ。でも、その上でどうするか?とか、それを矯正するのは師であるサリーの役目でしょ?」
涼しい顔で言われれば、サリーは「勘弁してくれよ」と、項垂れるしか出来なかった。
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