優しい指導
翌日の朝。
しっかりとグッスリ寝て鋭気を養ったヘルガ達は朝食をキチンとガッツリ食べると、シレーラスへと向かった。
そうしてシレーラスの直ぐ近くにあるソグルスと同じ様な詰所まで来て、入場手続きを済ませると、ヘルガは2人に告げる。
「解ってるとは思うけど、敢えて言うわね……私が伏せろと言ったら直ぐに伏せて。その際、耳を塞げって言ったら絶対に耳を塞いで。特に耳を塞ぐに関しては、怠ったら耳が使い物にならなくなるから怠らないで」
改めて告げれば、2人は呑気に「りょーかい」と、返した。
そんな2人に対し、ヘルガは更に続けて言う。
「これも今更だろうけど、改めて2人には後方警戒も含めた周囲の警戒をお願いしたいの。私は1人で一方向しか対処出来ないから……」
ヘルガはサリーとネッドと共にヤマを踏んだ事があった。
だからこそ、ヘルガが敢えて言えば、サリーは文句を言わずに承諾した。
「解った」
「なぁ、何時だったかみたいに盗賊や強盗に鞍替えしたバカ野郎が出たらどうすんだ?」
ネッドが何時だったか実際にあったダンジョンにおいて冒険者でもあるにも関わらず、自分達を襲おうとした不届き極まりない愚か者が出たらどうするのか?そう尋ねれば、ヘルガは答える。
「一応は警告する。で、辞めてくれるなら無かった事にしてやる」
ヘルガが穏便に解決したい事を言うと、サリーはそれが無理だった場合はどうするのか?確認する様に問うた。
「その警告で駄目だったら?」
「その時は残念だけど、盗賊として処断せざる得ない。で、始末したら冒険者証を回収してギルドに報告……警告前に仕掛けて来たら問答無用で始末。だけど、投降して来たら一端切り上げて戻り、ギルドに引き渡す」
ハッキリと一切の容赦と慈悲無く処断する。
だが、投降して来たなら殺さずにギルドに引き渡して法の裁きに委ねる。
そう告げれば、サリーとネッドが異論を挟む事は無かった。
そうしてヘルガが要望を出し終えると共に2人がそれを承知すれば、3人は詰所を後にした。
そして、シレーラスへと歩みを進めて中に足を踏みいれた。
「相変わらず、お前のその装備はデタラメだな……」
サリーがボヤく様に漏らせば、ヘルガはMk18のハンドガード側面。自分から見て右側に取り付けられたフラッシュライトで前方を照らしながら返す。
「私もそう思うわ」
ヘルガが同意する様に返せば、ヘルガの左脇に立ってフラッシュライトで照らされる前方を警戒するネッドもサリーと同様に呆れ混じりに漏らす。
「ランタンや松明なんて比べ物にならねぇどころか、真っ昼間みてぇに視界を確保出来るとかマジでデタラメ過ぎるだろ……これ」
ネッドの漏らしたボヤきにサリーも同じ事を改めて感じていた。
実際、ネッドの言う通りだ。
フラッシュライトの明かりは松明やランタンを子供の玩具と言わんばかりに暗闇を容易く切り裂く様にして遠くまで照らし、暗闇に潜んでいたモンスターを即座に見つけ出している。
そればかりか、その強い明るさによってモンスターの目を眩ませる事も出来ている。
それ故に隙だらけとなったモンスターはヘルガによって一瞬で射殺されてるのだから……
「このまま進むわよ」
ヘルガが当然の様に告げると、サリーはネッドを指導する師として敢えて無理を承知で願った。
「ヘルガ。坊主の訓練の為にその明かりを消してくれないか?」
「何でだよ?」
ネッドが当然の様に疑問を口にすれば、サリーは師として真剣な面持ちで答える。
「お前の訓練の為だ。常にヘルガと組める訳じゃねぇし、シレーラスみてぇにずっと暗闇のダンジョンを探索する方法やコツを学ぶ為にもランタンや松明だけで照らしての遣り方を学ばんと駄目だからだ」
サリーの言わんとしている事を理解したからこそ、ネッドはそれ以上の事を文句も含めて言わなかった。
そんなネッドとサリーの為。ヘルガはネッドがランタンに明かりを付けるまでは待つ事を告げて了承すると、既に灯りの灯ったランタンを手にしていたサリーは直ぐに消してくれ。
そう返せば、ヘルガは直ぐにフラッシュライトを消した。
一瞬の内に真っ暗闇に覆い尽くされると、ネッドは漏らす。
「マジで何も見えねぇ」
「暗闇の中でも問題無く動ける様にならないとならんから慣れろ」
サリーが師として敢えて厳しく言えば、ネッドは手こずりながらもランタンに火を灯し始める。
少しして仄かな明かりが灯れば、ヘルガは暗視ゴーグルを嵌めた。それから直ぐに暗視ゴーグルとヘルメットに装備したIRライトのスイッチを入れた。
そんなヘルガの姿にネッドは驚くと、好奇心から尋ねてしまう。
「前から気になってたんだけどよ、その目に付いてるの何なんだ?」
その問いに対し、ヘルガは暗視ゴーグルを介して前方を警戒しながら返した。
「暗闇の中でも見通せるデタラメ装備。これもやっぱり重いのが難点だけどね」
ヘルガのその答えを聞くと、ネッドは大いに呆れてしまう。
「アンタ、どんだけデタラメなんだよ……」
ネッドの言葉にサリーも「安心しろ。俺も同じ事をずっと思ってる」そう返せば、探索は再開する。
弱々しい仄かな明かりを頼りに前を照らし、時には足下を確認しながらネッドが恐る恐る歩みを進めると、サリーは師として指導していく。
「足元の確認も大事だが、基本は前を警戒しろ。前を照らしたと同時に進む先の足下も一緒に確認するんだ」
サリーの指導を聞くと、ネッドはその通りに動かんと努力し、励んでいく。
すると、そんなネッドに対し、ヘルガは前方を警戒しながら優しく教えた。
「視界の悪い所では音にも意識を向けなさい。ちょっとした音でも聞き逃さずにいれば、それが予兆になって自分を助けてくれる」
目だけでなく、耳にも意識を傾けて音を聞き逃さない様に心掛けろ。
そう指導されると、ネッドは自分が教わってる事が難しい事にゲンナリとしてしまう。
「ほぼ何も見えねぇ時に音にも意識を向けるのって難しくねぇか?」
「気持ちは解るがな、それをお前が出来る様になる為にヘルガは親切に教えてくれてんのを弁えろクソガキ」
サリーがぶっきらぼうに文句を言うな。そう窘めれば、ネッドは力なく「へいへい」と、返すしか出来なかった。
そんなネッドにヘルガは気にする事無く更に教えた。
「こう言う暗闇や深い森みたいに視界が取れない所では3メートル確認して、1メートル進む様に進みなさい」
「3メートル確認したら、3メートル進むんじゃなくてか?」
ネッドがランタンの明かりで先を照らしながら首を傾げると、ヘルガは更に続けていう。
「確かにそうしたいでしょうけど、視界最悪で何が潜んでるのか?解らない以上は慎重に少しずつ進むのが結局の所、確実に早く進めるのよ」
ヘルガが言うと、サリーはヘルガの言葉を補足する様にしてネッドに教えた。
「ヘルガの言う通りだぞ坊主。その3メートルの確認後にそのまま進んで、気付けなかった危険が振りかかるかもしれねぇ……だから、そうして確認を繰り返す事で危険を気付ける可能性を増やす必要があるんだ。生きて帰る為にな」
生きて帰る。
その為に必要と言われてしまえば、ネッドが文句含めて異論を挟む事は出来なかった。
そんなネッドはヘルガとサリーに言われた事を護る様にして慎重に歩みを進め、2人はそのペースに文句を一切言う事無く合わせて歩みを進める。
それから暫くすると、微かながらも地面を食む音がした。
「何か居る!」
ネッドが2人に周知する様に少し大きな声で言えば、サリーは「良いぞ坊主。何か異変を感じたら今みたいに直ぐ言うんだ」と、褒めた。
そんな2人を他所に既にMk18を構えていたヘルガは、レーザーユニットから放たれる不可視のレーザーを前に居るモンスターに合わせるや引金を三度引く。
3発のくぐもった銃声と共に徹甲弾仕様の5.56㎜NATO弾がモンスターを穿ち、皮と脂肪。それに肉を貫き、臓器をグチャグチャにして殺した。
そんな、あっという間の出来事を目の当たりにすると、ネッドはまたも呆れてしまう。
「普通なら死にかける様な戦いになるのに一瞬で殺しちまうのかよ……やっぱ、デタラメじゃん」
「私もそう思うわ」
ヘルガは構えたままながらも呑気に返すと、警戒心を一切緩める事無く屍の奥とも言える更に前方を見詰める。
そんなヘルガの姿をネッドが見詰めると、サリーはヘルガの様子を見ながら教えを与えた。
「コレは何度も言ってるが、そのモンスターを倒したからって安心は絶対するな。今のヘルガみたいにその先を警戒し、次の敵に備えるなり、逃げるなりの行動を直ぐ取れる様にするんだ」
「解ってるよ」
ネッドは弟子として素直に教えを受けると、再び歩みを進めるのであった。
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