重いより、軽い方が良い
食糧が重要なのは至極当たり前だ。
それ故に当たり前過ぎて誰も気にしない。
しかし、人間に限らず、全ての生きとし生けるもの達は食事をしなければ飢えて最終的には死ぬ。
勿論。水も飲まなければ、やはり生きとし生けるものは死ぬ。
だからこそ、ヘルガはサリーとネッドと共に各商店を廻ってビスケットと干し肉。それにチーズと干し葡萄を買い集め、予備も含めた2日分6食を確保した。
そんな2日分6食の食糧を宿に持ち帰ると、ヘルガは自分のバックパックに詰め込んでいく。
無論、サリーとネッドも大きなズタ袋とも言える背嚢に自分達の食糧を詰め込む。
すると、ネッドは疑問を口にした。
「なぁ、サリー……何で食糧に干し葡萄があるんだ?俺的には甘くて美味いから良いけど、大概の連中ってあんま干し葡萄まで持ち歩かないよな?」
そんな疑問を弟子からぶつけられると、サリーは師として答える。
「お前さんが言った通りだ。甘くて美味い……コレ以上に持ってかない理由は無いぞ」
「そんだけかよ?」
ネッドが呆れ混じりに問い返すと、サリーは師として更に続けて言う。敢えて問う形で。
「その甘くて美味いお陰で冒険してる時の味気ないビスケットと、塩辛い干し肉とチーズばかりの飯がマシに思えた事はないか?」
そう問われると、ネッドは今更過ぎて考えていなかった事を思い出す様に肯定。更には其処から気付いた事も口にしていく。
「そう言われてみると……後、疲れてる時に食うと滅茶苦茶疲れが癒される気もする」
「それが干し葡萄を一緒に持ってく理由なのさ……甘い物ってな、疲れた身体と疲れた気持ちつうか心を癒してくれるんだ。だから、俺は持ってくし、ヘルガも持ってく」
サリーが師として答えると、ネッドはキチンとした意味もあるのだと納得した。
だが、他の疑問もあった。
「なぁ、大所帯の所は鍋とか持ち込んで料理したりするけどよ……俺等は何でしないんだ?」
冒険者の一党の中には鍋等の調理器具を持ち込み、現地で料理をして食事をする者達も居る。
しかし、自分達は何でそれをしないのか?ネッドが好奇心も交えて問うと、サリーは呆れ混じりに返した。
「お前、自分で答えを口にしてるって気付いて無いのか?」
「どう言う事だよ?」
ネッドが首を傾げると、サリーは答える。
「大所帯だよ。大所帯の所は人手が沢山ある……それこそ食材って言う物によっては重くて嵩張る物や、鍋みたいな調理器具を運ぶ役目の奴が居る」
「そう言われるとそうだな」
語られた答えが言わんとしている事をネッドが理解すると、サリーは更に続けて語る。
「更に言うなら、料理するって事はその分だけ水も多く必要になる。確かにちゃんとした料理は喰いたい。俺だって喰えるんなら喰いたい……だが、生憎とダンジョンは食堂じゃねぇ。だから、荷物になり難くて量を持てる保存食にならざる得ねぇんだ」
「それは解ったけどよ、やっぱビスケットとかは飽き飽きだぜ」
ネッドがボヤく様に言えば、サリーは責めなかった。
寧ろ……
「意見が一致したな」
ネッドと同じ意見であった。
だが、ネッドはジト目で言う。
「でも、やんねぇんだろ?」
「当たり前だ。場所によっては鍋とか持ち込んでも良いが、余計な荷物を持って冒険するのは危険だし、アホみてぇに重くしたくもねぇよ……」
サリーの言葉にネッドはゲンナリとした様子で同意すると、今まで黙して語る事無く準備に勤しんでいたヘルガに問うた。
「それを言われると否定出来ねぇ……なぁ、ヘルガはどう思うんだ?」
「何が?」
「ビスケットとか干し肉みてぇな味気ない物じゃなくて、美味い飯を喰いたいって話だよ」
ネッドが改めて言うと、ヘルガは正直に答える。
「美味い飯は私だって食べたいわよ。ネッドの言う通りね」
「でも、やらないんだろ?」
またもネッドがジト目を向けながら言うと、ヘルガは訂正する。
「やりたくても出来ない……が、正しいわね」
「何でだよ?」
本心から疑問に感じる様にネッドが問えば、ヘルガは答えていく。
「時にはこうして貴方達と組む様にして何人かとも組む事もある。だけど、基本的に私は単独でヤマを踏む」
ヘルガの答えを聞くと、ネッドは直ぐに理解した。
「つまり、アレか?サリーと同じで余計な荷物を増やしたくないって事か?」
「そう。単独だからこそ余計な荷物は持てない。それに……」
「それに?何だよ?」
「重い荷物より、軽い荷物を持ち歩きたいのは誰だって思うでしょ?」
ヘルガが身も蓋もない事実を返せば、ネッドはまたも呆れてしまう。
「気持ちは解るよ。俺だって荷物は軽い方が良いって思うから……でも、そんな理由なのか?って気分になるぞ」
「そらそうでしょうね。でも、コレが嘘偽りの無い事実だし、大きな理由でもあるのよね」
ネッドの言いたい事や気持ちは解ると告げた上で、これ以上の理由は無い。
そう返すと、ネッドは理解は出来ても納得出来ない様子であった。
そんな弟子を見ると、サリーは師として言う。
「だから、お前がダンジョンで美味いもんを喰いたい気持ちは解るし、俺だって喰えるんなら喰いたい。だが、ヘルガの言った様にやりたくても出来ないのが現実だ」
サリーの言ってる事は理解出来ている。勿論、その現実的な事情と理由から出来ない事も理解している。
だが、それでも文句の1つは言いたくなるのが、人情と言うモノだろう。
それ故にネッドは文句を漏らす。
「なら、上手く稼いでる連中みてぇに大所帯になりゃあ良いじゃねぇか……」
「気持ちは解らんでもないが、大所帯になったらなったで色々面倒だぞ……割と真面目にな。後、そういうのをしてぇなら、独り立ちしてからテメェの力でやれ」
サリーが師として答えれば、ネッドは「解ってるよ」と、自分が理解している事を返した。
そんな2人を呑気に眺めながら支度を済ませていたヘルガはバックパックをベッドの脇に置くと、Mk18を手に取り、弾倉を抜いて点検をし始める。
すると、ネッドがヘルガのMk18を見ながらサリーに尋ねた。
「なぁ、俺もヘルガの武器を使えば白金になれっかな?」
ネッドの疑問をサリーはアッサリと斬り捨てた。
「今のお前には無理だ」
「何でだよ?」
「俺もお前みてぇに同じ事を考えた事がある。だが、俺でも今の俺じゃ無理って結論だったりする」
意外と言える答えにネッドが驚くと、サリーは我関せずと言わんばかりに沈黙と共にMk18を点検するヘルガに頼み込んだ。
「ヘルガ。悪いんだが、この坊主の為にお前さんの道具を持たせてやってくんねぇか?嫌なら諦める」
サリーの頼みに対し、ヘルガはMk18のチャージングハンドルを軽く引いてプレスチェック。
そうして薬室に弾が装填されていない事を確認すると、セレクターをセイフティに合わせてからネッドにMk18を無言で差し出した。
そんなMk18に恐る恐る右手を伸ばし、掴んだネッドは右手だけで持ち上げようとする。
だが、その瞬間。
驚きを露わにしてしまった。
「な!?重ッ!?」
慌てて左手も添えて両手で太く長いサプレッサーとM203グレネードランチャーに大型のホロサイト。それとフラッシュライトやレーザーユニットと言った多数のオプションが取り付けられたMk18を持ったネッドの様子に対し、サリーは一頻り愉快そうに笑うと、師として問う。
「どうだ坊主?お前、それをずっと持ち歩いたり、持ったまま走り続けて、その後に戦えるか?」
サリーの問いに対し、ネッドは本心を答えた。
「こんなアホみてぇに重いもんを持って走れとか冗談じゃねぇよ!」
そんなネッドに対し、ヘルガは悪戯心を覚えたのだろう。
床に置いていた40発の5.56㎜ NATO弾が装填されたP-MAGと呼ばれる樹脂製の弾倉を手に取ると、それをネッドが重そうにしながら持つMk18のマガジンハウジングに挿し込んだ。
「な!?もっと重くなったぞ!?」
ネッドが当然の事に益々重くなったMk18に驚いていると、ヘルガは涼しい顔でMk18をヒョイと掴み取って告げる。
「今のが本来の重さ」
ヘルガが事実を口にすると、ネッドは思った事をそのまま口にした。
「はぁ!?バカじゃねぇの」
ネッドが暴言とも言える言葉を言うが、ヘルガは気にしなかった。
「私もその意見に賛成だけど、必要な重さなのよね」
寧ろ、同意見であった。
そんなヘルガの言葉をネッドが訝しむと、サリーはヘルガにまたもお願いした。
「ヘルガ。悪いがそれを持たせた上でお前さんの背嚢を背負わせてくんねぇか?坊主に教えてやりてぇんだ」
サリーのお願いにヘルガは何も答えなかった。
だが、ヘルガはベッド脇に置いた予備の徹甲弾仕様の5.56㎜ NATOが数百発と10発以上の40㎜榴弾等の予備の弾に先程詰め込んだばかりの食糧。それにM72A6ロケットランチャーや予備の靴下と下着類、ポンチョ等が詰まったばかりか、左右に大型の水筒が1つずつ取り付けられたバックパックをネッドに背負わせた。
「なッ!?何だよこの重さは!?」
バックパックの重さにネッドが心底驚くと、ヘルガは先程持たせたMk18をネッドに持たせた。
背中の重みと両手の重みでふらつくネッドに向け、サリーは問う。
「その状態でもマシな方だが、その状態で長い距離を歩き回ったり、時には全力で走ったり、戦ったり出来るか?」
その問いに対し、ネッドは本心から答えた。
「無理!!何だよこの重さは!?」
ネッドの本心からの答えを聞くと、サリーは改めて問う。
「俺が言った無理って理由、解ったか?」
「嫌ってくらい解ったわ」
サリーの問いでもある「お前には無理」それを文字通り身を以て解らされれば、ネッドは嫌でも納得するしか出来なかった。
そんなネッドからMk18とバックパックをヘルガが回収すると、サリーは師としてネッドに言う。
「武器が強いからって誰でも白金になれる訳じゃねぇし、武器が強いからこそ完璧に使いこなせなきゃ意味がねぇんだよ……いい勉強になったな」
サリーが師としてこの話を締め括れば、3人は明日のシレーラス入りの支度を入念に進めていく。
そうして明日の支度が終わると、ネッドは自身が未熟者である事を自覚した上でヘルガに尋ねた。
「なぁ、アンタみたいなバケモノ染みた体力を得るにはどうすれば良いんだ?」
ネッドの問いにヘルガは涼しい顔で答える。
「よく食べて、よく寝る。で、鍛錬を時には休みながらも継続する」
ヘルガの答えが意味する事は理解している。
だが、それでもネッドは何か特別な事をしてるのではないか?そう思ってしまうからこそ、食い下がる。
「何か特別な事をしてたりしないのか?」
「あのね、そんな簡単に体力や力が付くんなら誰も苦労しないわよ。私もサリーも貴方よりも先にかつ、長く鍛え続けてるから体力があるの……」
「やっぱ、地道に鍛えてくしか無いのか?」
当然の現実にガッカリした様にネッドが漏らせば、ヘルガとサリーは何を今更と言わんばかりに呆れるのであった。
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