勝利は準備を愛する
1時間毎に休憩を挟みながら歩み続けたヘルガ達、半日程でサイラスの街に着いた。
サイラスはシレーラスで一山当てんとする冒険者達で賑わい、街の住人達は冒険者達を相手に逞しく商売して、彼、彼女等から様々な形で金を合法的に巻き上げていく。
そんな様子にヘルガはギルド長であるブライディの狡っ辛い打算が上手くいき、見事な経済効果を齎している事を知れば、呆れてしまう。
「冒険者達をシレーラスと言う金の鉱脈に群がる鉱夫だとするなら、街の連中は冒険者よりも儲けてる商人ね」
前世の男が持つ記憶からサイラスで起きてる賑わいが、地球に於けるゴールドラッシュの様だと漏らせば、サリーはボヤく様に返した。
「それが商売って奴だ。実に健全な様子じゃねぇか……」
サリーがサイラスの賑わいを好意的に返せば、ヘルガは悪い笑みを浮かべながら言う。
「まぁ、その通りだし、私もこう言う賑わいは嫌いじゃない」
そんな悪い笑みを浮かべるヘルガに対し、ネッドは少し引き気味に問うた。
「その悪い事を考えてるってツラは何だよ?」
「え?私、悪い顔してた?」
ヘルガが困った様子で問い返せば、サリーも呆れ混じりに言う。
「おう。滅茶苦茶悪い顔してたぞ……何を考えてやがんだ?」
そう問われると、ヘルガは笑顔で答えた。
「この未踏破ダンジョンで賑わう連中のツラに冷水をブッ掛けてやったら、どんだけ面白くなるかなぁ?って、考えただけよ」
ヘルガの答えに2人は思わずドン引きしてしまう。
「相変わらず性格悪いな」
付き合いがそれなりにあるサリーが呆れ混じりに言えば、其処まで付き合いの無いネッドはサリーに尋ねた。
「なぁ、ヘルガってもしかしてヤバい奴なのか?」
率直に問われると、サリーは何を今更?そう言わんばかりに肯定する。
「前にも言ったろ?白金等級って奴は頭のネジが大量にブッ飛んだ頭のイカれた奴等ばっかだってよ?」
今までの生涯を掛けて銀等級に立つサリーがボロクソに言えば、ヘルガは困った様子でサリーの言葉を肯定した。
「否定出来ないのが一番酷いわね」
ヘルガも自身が頭のイカれた部類の冒険者なのは理解している。
実際問題。チートがあるとは言え、銀等級冒険者が危険過ぎると途中で引き換えした危険極まりないダンジョンを単独で進み続けた。
その上、未だに他の誰もが到達してない27階層の途中まで単独で到達してもいる。
だが、それはヘルガに限った話ではない。
それ故にヘルガは自分以外の白金等級の冒険者達の顔を思い出すと、サリーの言葉が見事に表してる。そう思わざる得なかった。
しかし、同時に少しだけ心外と思ってもいた。
「私が言うなだろうけどさ、私はマシな方だと思うのよね……ブッチャケるとさ、他の奴等ってマジで頭イカれてるし、普通ならセオリー通りに進むべき所を自分の持つ圧倒的な強さとか力で蹂躙しながら突き進む。オマケに自分の圧倒的な実力を疑わないし、自分のやり方が正しいと思い込んで人の話も聞きゃあしねぇもん」
ヘルガが自己弁護する様にして言えば、サリーは意外にもそれに同意した。
「お前の言う通りなのがムカつくな」
「何でムカつくのよ?」
サリーの言葉に不満そうにヘルガが問うと、サリーは溜息混じりに返す。
「お前自身がそのデタラメ過ぎるバケモノの同類だからだよ」
「酷くない?」
ヘルガがサリーの言葉にゲンナリとすると、ネッドは思った事をそのまま口にした。
「白金等級って碌でもない連中の集まりなのか?」
そんなネッドの問いをヘルガはアッサリ認めた。
「その認識で良いわ。実際、碌でもない奴等ばっかだし……」
ヘルガが自分が思った事を肯定すると、ネッドは好奇心から尋ねる。
「なら、アンタは白金等級なのに白金等級と組みたくないのか?」
ネッドの好奇心は直ぐに満たされた。
「えぇ、余っ程の事情が無い限りは組みたくないわね。後、私は他の白金連中から嫌われてるってのもあるけど」
その答えにネッドが驚きを露わにすると、サリーは2人を窘める様に言う。
「それで?宿を取ったらどうすんだ?」
「そりゃあ、休むに決まってんじゃない。何なら、一杯やっても良い」
涼しい顔でアッサリ言うと、ネッドは不安混じりに尋ねた。
「そんなノンビリしてて良いのかよ?」
「休む事も立派な行動よ。つーか、私が最も腕利きと思ってるサリーですら10階層に到達出来なかった時点で、一山幾らの連中が到達するのは無理よ」
ヘルガが本心からサリーの腕を認めた上で大丈夫。そう告げれば、褒められたサリーは「褒めたって何もねーぞ」と、吐き捨てる様に返した。
そんな遣り取りをしながら手近な宿を見付けると、空き部屋が2つあった。
その2つの部屋を直ぐに借りる為、ヘルガとサリーは割り勘で7日分の代金を前金で払った。
そうして、部屋を確保すれば、3人はシレーラスへ行くまでの支度予定を決めていく。
「先に言うけど、シレーラスに入ったら10階層のブツを確保優先でいく」
ヘルガが指揮官の様に告げると、サリーは質問を投げた。
「お前のペースで10階層まではどのくらい掛かる?」
サリーがヘルガのペースならば、どれだけの時間で到達出来るか?問えば、ヘルガは先日の事を思い出す様にして答えた。
「そうね……こないだは警戒して周囲の探索もしながらだったから、実質丸々1日使ったわね。食糧は2食分よ」
其処までに消費した食糧も含めて1日掛かった事を告げれば、サリーは思案しながら言う。
「なら、周囲の探索抜きに一直線に進めば食糧も少なめで良いのか……」
「それでも構わないけど、歩いて戻るなら万が一に備えて2日分。具体的な量で言えば、6食か5食分有れば良さそうなのは認めるわ」
サリーの考えを補足する様に言えば、ネッドはヘルガとサリーの遣り取りを真剣に見つめて学ばんとしていく。
そんなネッドを他所に話は進む。
「水筒の水は私みたいに大型のを2つ。通常の2つある方が確実よ……」
ヘルガの意見にネッドは質問を投げた。
「魔法で水を作って補充すれば良いんじゃないか?」
ネッドの質問とも言える意見を聞くと、ヘルガはサリーを見るなり問うた。
「サリー、アンタ……ネッドに自分の魔力で水を生成して飲むのはあんまり意味無いって教えてないの?」
「俺は教えたぞ」
サリーが自分に教えている。
そう聞かされると、ネッドは直ぐに思い出して間抜けな声を挙げてしまった。
「あ……」
「どうやら、其処までバカじゃない様ね」
ヘルガがホッとした様に漏らすと、サリーは師として改めて教える。
「坊主。改めて言うが、自分の魔力で創り出した水は飲んだら確かに渇きは癒える。だが、魔力ってのはソイツ自身の生命力の副産物でもある。だから、水を飲んで体力を回復したつもりが余計に体力を消費しちまう」
ネッドと言う若き弟子に対し、サリーが師として教えると、ヘルガが補足する様に言う。
「なら、他の人が魔法で作り出した水を飲めば良いって思うでしょうけど、それはそれで良くない。その創り出してくれた奴自身の消耗に繋がるから緊急時を除いたら、辞めた方が良いわよ」
ヘルガからも言われれば、ネッドは自分の至らなさに項垂れてしまう。
だが、2人がネッドを責める事は無かった。
「まぁ、こうして改めて学んだんだからバカな事は言わずに済むな」
「そうそう。こうやって上の奴から教えてもらえるのは本当に貴重だから大事にしなさい」
2人が師の様に言えば、ネッドは「変に気遣う方が傷付くんだぞ」と、減らず口を叩いた。
そんなネッドにサリーは師として「だったら、相応の実力と知識を身に着けろクソガキ」と、ぶっきらぼうに返した。
そして、ヘルガは師弟の微笑ましい遣り取りを気にする事無く話を戻し、続ける。
「改めて言うけど、水は多めに携行。食糧が無くても水があれば、少しはマシになるから……無いとは思うけど、チョンボして、喉が渇いても自業自得だから私は分けないわよ」
釘を刺す様にして言えば、2人は真剣な面持ちで静かに頷いて理解を示した。
それからもヘルガは優れた指揮官の様にキビキビと必要なモノと理由を告げれば、打ち合わせは有意義な形で終わる。
その後。3人は此処まで来る間に溜まった疲労を休んで癒すのであった。
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